胃の不快感が続くのに検査では異常なし。「機能性ディスペプシア」について知っておきたい。
- 撮影・清水朝子 イラストレーション・永野敬子
’13年に健康保険対象の病名として認められた機能性ディスペプシア。
まだ世間一般への認知度は低いが、健診受診者の11〜17%、上腹部の症状を訴えて病院を受診した人の45〜53%が罹患している身近な胃の病気だ。
どんな症状なのか、症状がある場合はどう対処すればよいのか。
胃の健康に関心の高いクロワッサン倶楽部の会員が、消化器の専門医に聞いた。
▼▶せっかくのおいしい料理も胃の調子が悪いと存分に楽しめない。また、不調が続くと社会活動への意欲も低下してしまう。症状のある人は早めに医療機関へ。
クロワッサン倶楽部 会員番号47
高橋佐知さん たかはし・さち
40歳 サロン主宰
20代のころから食べ過ぎるとすぐに胃がもたれるタイプ。母親がピロリ菌陽性で胃潰瘍を患ったことがあるため、自分の胃も気がかり。
クロワッサン倶楽部 会員番号51
外村美姫さん とのむら・みき
42歳 イベント企画運営
食への関心が高く、グルメリポートも手掛ける。最近、胃もたれするようになり、脂っこいものを続けて食べられなくなったのが悩み。
村田洋子さん むらた・ようこ
ムラタクリニック院長
東京女子医大内視鏡科助教授を経て、’03年に消化器の検査・治療を専門に行うクリニックを開業。先端の内視鏡技術を取り入れながらも、アットホームな雰囲気の診療を心がける。
胃もたれ、胃痛……。でも、検査では異常なし。
高橋 機能性ディスペプシアという病気、初めて耳にしたんですが、日本では6〜9人に1人の割合で患者さんがいると聞いて驚きました。
外村 これはどういう病気なんですか?
村田 胃がもたれる、食事をすると少しの量ですぐにお腹がいっぱいになる、心窩部(みぞおちのあたり)に痛みや灼熱感がある……。そうした症状が慢性的に続いているにもかかわらず、内視鏡検査をしても異常が見つからない病気なんです。
外村 異常なしなのに、患者さん本人はつらいわけですね。
村田 死に至る病気ではありませんが、QOL(生活の質)は損なわれてしまいますね。痛みや不快感があると、社会活動をするのが億劫になります。さらに、つらい症状の原因がわからないことが悩みとなり、気持ちもふさぎがちになります。なかにはうつ症状などの精神疾患につながることもあります。
高橋 わたしは子どものころから胃が弱くて、たびたび胃痛を起こしているんです。最近は脂っこいものを食べると、すぐ胃もたれして、食事も少量でお腹がいっぱいになってしまうんですよね。
外村 胃の調子は、40代に入ってガラッと変わりました。肉が大好きなんですが、最近は焼肉店に行ってもつい赤身ばかり頼んで、脂ののったいい肉が食べられないんです。食後にムカムカしてしまって。
原因は胃の運動機能の低下や知覚過敏。
(外村さん)
村田 胃の不調が一過性で翌日に解消されるならさほど心配はいらないのですが、週に何回か胃の不調を感じて、それが数ヵ月続いているようなら機能性ディスペプシアかもしれません。大きな病気が隠れている可能性もありますので、放っておかずに医療機関を受診して検査しましょう。
高橋 体質だと思っていましたが、病気の可能性もあるわけですね。
村田 そうですね。機能性ディスペプシアと診断された場合、その原因には、胃の運動機能の低下や知覚過敏が考えられます。胃に入ってきた食物をうまく送り出せない、胃が膨らみにくい、胃酸などの刺激に敏感になっている、といったことですね。症状に応じて胃の動きをよくする薬や胃酸を抑える薬が処方されますが、生活習慣の改善で軽快する可能性もあります。
外村 どんな生活習慣が望ましいのでしょうか。
村田 食生活では、脂っこい食事を控える、夕食は早めにとって遅くとも就寝1〜2時間前には終える、就寝前に食事をとらざるを得ない場合は消化のいいものを少量食べる、お酒はほどほどにする、などの心がけが必要ですね。胃が空っぽの状態で寝て、翌朝のご飯をおいしく食べられる体にしておきましょう。
LG21乳酸菌入りヨーグルトの摂取で症状が緩和。
(高橋さん)
高橋 脂っこい食事、夜遅い時間の食事はしないように心がけているのですが、たまに会食などで食事が遅くなると、翌朝全然お腹が空かないんですよね。
外村 その点わたしは大丈夫なのですが、夫は夜遅く帰宅して夕食をとるせいか、朝はまったく食欲がないと言います。改善の余地ありですね。
村田 最近の研究では、LG21乳酸菌入りヨーグルトの継続摂取で機能性ディスペプシアの症状が緩和されたという報告がありますので、こうしたプロバイオティクスをふだんの食生活に取り入れてみるのも一案です。LG21乳酸菌にはピロリ菌を減少させる働きが確認されていて、除菌治療を受ける患者さんにおすすめしているんですが、機能性ディスペプシアの患者さんにもすすめてみようと思っています。
高橋 実はわたしの母がピロリ菌陽性で、除菌をしているんですよね。わたし自身はピロリ菌の検査をしたことがなくて、内視鏡検査もちょっと怖くてまだ受けたことがないんです。
村田 いまは内視鏡の性能や検査方法が改善されて、痛みが少なくなっています。当院では麻酔をして行いますし、経鼻内視鏡といって鼻から入れる痛みの少ない内視鏡を採用している医療機関もありますから、恐れずに受けてみて。ピロリ菌の感染検査は健診の際にオプションで申し込めるところも多くなっていますよ。
外村 機能性ディスペプシアはストレスとも関連があるのでしょうか。
村田 ストレスは胃の動きを悪化させる要因のひとつです。適度な運動をしたり、没頭できる趣味の時間をもってストレスを解消することも、症状の改善につながります。運動の刺激は胃を動きやすくしたり、腸の血行を促進しますので、消化・吸収にもいい影響がでます。
外村 これからもおいしく食事を楽しむために、できることから始めてみたいと思います。ヨーグルトなら食べるだけなので、無理なく続けられそうです。
高橋 胃によい生活習慣を心がけて、近々にきちんと検査も受けてこようと思います。
この病気が疑われるときの
3つの心得
1. まずは医療機関へ。
重大な病気が隠れている可能性もあるので、胃の不調が続くなら早めに医療機関を受診しよう。
2. 内視鏡検査を恐れずに。
内視鏡の性能や検査方法が改善され、痛みが少なくなっている。怖がらずにしっかり検査を。
3. 生活習慣を改めよう。
脂っこい料理を避ける、プロバイオティクスを摂る、寝る直前の飲食はしない、酒量を控える、運動や趣味でストレスを発散するなど、自分自身で改善に努めて。