モデル・黒田知永子さんの着物の時間──「洋服と同じ感覚で、着物を着たいと思いました」
撮影・小笠原真紀 ヘア&メイク・福沢京子 着付け・奥泉智恵 文・西端真矢 撮影協力・ホテルモントレ銀座
上布と芭蕉布。自然布を愉しむ夏の装いは、帯締めにも白を入れてすっきりと
“JJモデル”として一世を風靡した20代から『VERY』『STORY』『eclat』のカバーモデルを経た60代の現在まで。“チコさん”こと黒田知永子さんはこの国の女性たちの生き方や美意識の変容を、ファッションモデルとして体現してきた。実は着物を愛する人でもあることは、折々インスタグラムに上がる着物姿からうかがえる。
「着始めたのは10年ほど前からです」と振り返る。「仲良しの編集者・山崎陽子さんが着物が大好きになり、ほぼ毎日着物で過ごすのを見ているうちに、私もあんなふうに着てみたいなと思って」
そうして始まった黒田さんの着物生活には、一つ、大きな特徴がある。多くの人が初期には右も左も分からず場当たり的に着物を揃えていくなかで、最初からしっかりと着こなしの方針が定まっていたのだ。
「山崎さんもそうですが、しとやかなよそゆきではなく、きりりとしゃれた日常の着物が着たいと思いました。私の洋服のワードローブは、黒、ネイビー、グレーがほとんど。着物も洋服と同じような気持ちで着られたらいいな、と」
そんな方針のもと、知人の間で評判の高かった『銀座もとじ』を訪ねると、一本の帯に目が留まった。
「ざっくりと織られたネイビーの紬地に、ぽつぽつと焦げ茶や白の浮き糸が並んでいて、何てかわいい帯だろうって」
西陣『藤田織物』の〈めばえ〉というシリーズ。店主(現会長)の泉二弘明(もとじ・こうめい)さんが、老舗でありながらモダンな作風に定評ある工房なのだと教えてくれた。モデルとしてあらゆる服に接してきたからこそ、予備知識はなくとも真っすぐに本質を見抜いたわけだ。
そしてその日、着物には、泉二さんおすすめの藍色の綿薩摩を選んだ。同系色同士の組み合わせはすっきりと美しく、思い描いていた着物スタイルが具現化した瞬間だった。
「それからも、自分の心が動くかどうか。まずは“好き”という自分の感覚を大切に選んでいます。もちろん、紬にこの帯を合わせたらちぐはぐ? といった格の問題については、詳しい方にうかがうようにして」
そんな黒田さんの今日の夏の装いは、帯と着物、一揃いで求めたものだという。
「最初に惹かれたのは、帯のほう。芭蕉布独特のさらりと張りのある質感に、玉那覇有公さんの藍型(えーがた)が凛と力を放っていて、またまた一目惚れしてしまいました。着物は能登上布です。細かな蚊絣(かがすり)がかわいいでしょう? 絣柄がどうも好きみたいです。草履は友人のお供について行った『祇園 ない藤』で出合った畳表。礼装に履くこともできそうで、赤の鼻緒がチラッと見えるのがかわいくて気に入っています」
そしてこれからの着物について口にした。
「もし次に何かというならば、フォーマルに着ることができるものがいいなと思っています。といっても、胸から裾までぎっしり模様のついた訪問着というよりは、すっきりと、でも、格調高い礼装。ゆっくりと見つけていけたらと思います」
『クロワッサン』1145号より
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