身近な人も悩んでいるかも。男性更年期について学ぼう
イラストレーション・ワタナベケンイチ 構成&文・中條裕子
最近よく耳にする男性更年期、その実態とは?
今まではごく穏やかだったパートナーや同僚の男性が、最近やけに怒りっぽかったり、妙に落ち込んでいたりしているような気がする……。そんな経験はありませんか?思い当たるのであれば、もしや男性更年期障害の疑いあり、かも。
「男性更年期という概念が出てきたのは1980年代。女性のようにホルモンの劇的変化が起こらないので、当初男性には更年期はないのだとされてきました。でも今では、男性ホルモンのテストステロンが徐々に低下することで、さまざまな症状が起こることがわかっています」
と、専門外来で多くの男性更年期の患者を診察してきた泌尿器科の久末伸一さん。精巣から主に分泌される男性ホルモン、テストステロンが低下すると、女性の更年期障害と同様にさまざまな不調が現れるという。
「テストステロンは加齢でも下がってきますが、その分泌は一日のうちでも変動があります。朝起きたときに一番のピークを迎えてあとは下がっていく。よくお昼すぎに中高年の男性が横になってベンチで寝ていたりしますよね。あれもテストステロンが低くなる時間帯に、力が抜けている状態。中高年男性が昼ごはんを食べて急に眠くなるのは、胃に血流が集まっているのももちろんあるけれど、それ以外にこうした理由もあります。テストステロンを補充すると、昼間の眠気がなくなるといった改善効果も見られます」
男性だけでなく閉経後の女性の健康にもテストステロンは必須。
実はテストステロンは少量ながら女性の体にも流れていて、閉経後には重要な働きをするのだという。
「閉経後の女性ホルモンの源は、副腎で少しずつ作られているテストステロン。閉経してもまだまだ盛んに推し活に励んでいる、そんな女性の原動力となっているんです。閉経しても元気な女性は副腎から出ているテストステロン値が高いことがわかっています」
年を重ねてから力強い味方となってくれるこのホルモンを、私たちも積極的に利用しない手はない!
「閉経後にエストロゲンに代わって女性の体を長期間、守ってくれるのは、テストステロンなんです。男性が心がけたい改善法を、女性も実践するとよいのではないかと思います」
呼び名は同じ更年期だけど、女性とはどう違うのか?
かつて男性には更年期はない、というのが定説だった。それはなぜかというと、女性のように閉経を挟んだ前後10年という期間が決まっていないため。実際に女性、男性、それぞれのホルモンの下がり方を見るとわかる。
「どちらもホルモン分泌のピークは20歳前後で、女性はゆっくり下がりながらそれをキープして、50歳になると閉経を迎えてドーンと下がる。一方、男性の場合は閉経がないのでダラダラ下がっていく。ただ、男性ホルモンのうち生物学的活性テストステロンの値は、女性と同じような急カーブで下がることがある。すると、女性の更年期と同じような症状が出てくるのです」
ただ、この生物学的活性テストステロンの下がり方は個人差が大きく、それぞれにカーブが異なるのだという。緩やかな人もいれば、急激に下がる場合もあるというから厄介だ。
「だから、女性に比べてより個人差が大きいのが男性更年期の特徴です。閉経を境に女性はおしなべてほとんど同じような症状が出ますが、男性は出る人、出ない人がいるのです」
期間が決まっていないのはもちろん、人によっていつ出るかはなかなか予測がつかないのが難しいところ。40代で症状に悩む人もいれば、70歳を過ぎても更年期を迎えない人も。
「人によって違うだけでなく、置かれた環境によってもテストステロンの下がり方は変わってきます。そうした意味で、とても複雑で面倒なのが男性更年期といえるかもしれません」
加齢と性ホルモンの変化
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