50代、更年期とそれ以降を健康に過ごすには?堀井美香さんと上田淳子さんが、高尾美穂さんに聞いた。
撮影・玉置順子 構成&文・黒澤 彩
みんなが考える“ウェルエイジング”とは?
高尾美穂さん(以下、高尾) たしか上田さんは59歳で、堀井さんは51歳でしたね。このテーマで話をするのにベストな年齢構成! お二人とも、心身の不調だとか、いま気になっていることはありますか?
堀井美香さん(以下、堀井) はい、まさに更年期なんだと思います。日によって、ものすごく落ち込んでしまうことがよくあります。寝起きの気分が悪くて、なにもしたくないし、なにを見ても悲しい気持ちになってしまう。テレビをなんとなくつけていても、「なんで私、このテレビを見ちゃってるんだろう?」とか、意味もなく悲しみが襲ってきます。
上田淳子さん(以下、上田) それはつらいですね。笑顔が素敵で、症状があるように見えませんけど、やっぱり他人にはわからないものですよね。
高尾 堀井さんは美魔女系だから、更年期なんて関係なくなんでも楽しめるタイプかと思っていました(笑)。
堀井 お仕事もプライベートも基本的には楽しいんですけど、生活のリズムが乱れたりすると、気分の落ち込みが激しくなります。それを繰り返しているから、数日でちゃんと復活するということも学んできました。
更年期世代の女性、200人に聞きました。
Q.アラフィフに近づいてから、またはなってから、体に異変や不調を感じることはありますか?
Q.日々の生活の中で、自分の体をいたわれていると思いますか?
上田 私の場合は更年期が終わって、その次の段階。老化との戦いですよね。もう、体のあちこちにガタがきています。変形性股関節症とか、病気というほどではないけど「症」のつく不調が出てきました。治るものでもないし、衰える体と付き合っていくしかないのかなと感じています。
高尾 なるほど。堀井さんは、ちょうど揺らぎの時期ですね。卵巣の機能がアップダウンしながら落ち着こうとしているのです。調子がいいときもあれば悪いときもあって、そうした変化が「更年期」と定義されているもの。でも、その時期が過ぎたのに調子が悪い人もけっこういて、それが今の上田さんですね。
上田 更年期の頃は私も気分的なモヤモヤがあって、ほかにも足のむくみや冷え性、寝付けないなど、いろいろな症状が。でも病気っていうほどではないし、どうしたらいいんだろう? と思っていました。いまはたしかに、あの頃のような不調はないのですが、体の劣化はひたひたときています。
高尾 閉経にともなうもっとも大きな変化は、女性ホルモンのエストロゲンが減少することです。エストロゲンが担っていた働きがなくなってしまった状態は、閉経前後だけじゃなくその先もずっと続くんですよね。
堀井 エストロゲンが減ってしまうと、どんなところに影響が?
高尾 おおまかに言うと、肌とか髪の美容面、血管、骨、あとは認知機能やメンタルにも関わります。足りなくなったエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)が一つの選択肢です。
堀井 高尾先生に以前すすめてもらったエクエル(大豆イソフラボン由来のサプリメント)を飲んでみたら、私には効果テキメンでした。気づいたときに飲む程度ですが、本当にひどかった時期と比べると調子がいいです。
上田 ホルモン補充療法とかエクオールって、更年期の揺らぎだけに効くのですか?
高尾 上田さんにも、ホルモン補充療法がファーストチョイスになるはずですよ。エクオールはエストロゲンに“似たもの”と考えてくださいね。更年期の人にとっては減っていくエストロゲンを足してちょっと底上げしてあげることで、閉経時にソフトランディングできるイメージ。
更年期を過ぎて不調がある人も、同じように底上げすると、だいぶラクになると思います。一方、たとえば漢方は、揺らぎの時期によく効きますが、ポスト更年期の症状によってはあまり効果が期待できないことも。更年期とそれ以降とで、対策を分けて考える必要はあります。
上田 えっ! 私もまだ間に合うってことですか?
高尾 うんうん、大丈夫。間に合いますよ。なにしろ、更年期以降の課題が語られ始めたのは、ここ2、3年ですから。上田さんの世代は、更年期とその後をたいした情報もなく過ごしてきたわけですよね。
堀井 60歳くらいの先輩に、更年期が終わっても次のステージがくるからね、と言われて身構えていたんですけど、この先も同じように対処できるんですね。それを知ることができてよかった。ちょっと安心できます。
鈍感すぎても困りもの。体の声に耳を傾けて。
上田 いままで守ってくれていたエストロゲンがなくなるって大変なことなんですね。女の50代はキツいです。
高尾 でもね、男性はそもそも少なく、女性だけが約40年間あるものでしょう。そう考えると、その40年が特別なボーナスステージみたいなもので、閉経後は通常モードに戻っただけともいえるわけですよ。
堀井 ボーナスステージだって気づいていませんでした……。私は気持ちが沈みがちになると言いましたが、更年期の症状がほとんどない人もいるみたいで、うらやましいです。
高尾 そういう人も更年期を過ごしているのは同じなので、私が思うに、鈍感なのかな? と。ある意味ではいいことかもしれませんが、体の変化に気づかずにいると、骨折、心筋梗塞といった大きなことに繋がるおそれもあるのでむしろ心配です。不調は体のサインですからスルーしないほうがいい。「どうも調子が悪いな」と自分で認めて、いたわってあげたいですね。
上田 よく、かかりつけ医を持っておくといいって聞きますけど、私くらいの年代でも婦人科に行っていいんですか? なんとなく不調で内科にかかっても「なにしに来たの」と言われそうだし、そこがいちばんの悩みでした。
高尾 ちょっと調子が悪いときに相談できるところがあるといいですよ。あとは健康診断で異常があって、経過を定期的に見ていくとか。それが何科なのかっていう問題ですが、まずは、婦人科を相談先にするといいと思います。ホルモン補充療法などを提案できるのも婦人科です。
上田 がまんせずに、対策できると知ることが大事ですね。
高尾 情報を早く知っておくのに越したことはないです。知っていれば選ぶことができる。それがこの時代に生きているメリットでもありますから。
堀井 私もエクオールという選択肢を知って、試してみてよかったです。運動も始めてみようと思って、友人にヨガに連れていってもらったけど無理でした。運動が本当に苦手なんです。高尾先生はヨガをしたり、ジムにも通っているんですよね。
高尾 たしかに運動はとっても大事。更年期に出やすい症状を多いものから順に並べたとき、上位ほぼ全部を運動で解決できるんです。肩こり、腰痛、不眠など。汗や火照り対策としても、有酸素運動をするとふだんは汗をかきにくくなります。運動する人のほうがうつになりにくいし、運動量を増やすことで改善できるというデータもあります。とはいえ、この歳になってから運動を始めるのって大変ですから、歩くだけでもいいんですよ。
堀井 あ、私、すごくよく歩きます。仕事場から次の仕事先まで30分くらい歩いたり、なにか覚えるものがあるときは近所をぐるぐる歩きながら記憶したり。あまり歩けない日が続くと、なんだか調子が悪いなと感じます。
高尾 それ、すごいですよ。8000歩を週に2回歩くだけでも運動効果があるといわれているので、堀井さん、けっこう運動できているんじゃない? 楽しんで歩けているのもいいですね。私はぜんぜんダメ。通勤に自転車を使っているから仕事の日はほとんど歩いていません。上田さんもお仕事柄、よく歩かれるのでは?
上田 いえいえ、料理は立ち仕事だけど、歩数は1日1000歩もいかないくらい。反復横跳びくらいの移動しかしていないの。私はせめて、朝晩15〜20分ずつ、なんとなくカタいところを伸ばすストレッチをしています。朝ドラを観ながら、夜はラジオを聴きながらとか。なにもしないとカチカチに固まっていくので。
高尾 関節の可動域は動かさなければ動かなくなっていくのが確実。50代からは、現状維持が目標です。今日できることを明日もできれば、それは進化と言っていいのです!
夫の定年、子の巣立ち。 これからどう生きる?
堀井 個人的には、子どもが独立して家を出て、ちょっと気が抜けたというか、日常が変わったタイミングと更年期が重なりました。50代って、そういう環境の変化も多い年齢ですよね。更年期自体よりも、旦那さんがずっと家にいるようになったことが大きな変化で、それがストレス要因なのかもという方もいらっしゃいますよね。
上田 そうですよ、揺らぎどころじゃない!(一同爆笑) 私の世代は、まだ家事は女性しかやらないという家庭も多いのかなと思いますし、そこに体の不調も重なったりしたら、もう大変じゃないですか。わが家も息子たちが出ていって、夫も定年で、ちょうどそのことを考え続けたここ3年くらいでした。「上田家相棒計画」として、お互いに相棒くらいの気持ちで、自分のことは自分でしていこうと。
高尾 上田さんと同じか少し下の世代は、自立した職業人や少し働いてきた人も多いですよね。お父さんお母さんではなく夫婦ふたりに戻ったときに、これから一緒に過ごしていくパートナーではないなと思ったら関係を見直すのもありです。距離を置いてもいいし、ただ同じ家にいる人とわり切って考えるのも手ですよ。
堀井 上田さん、いますごくいきいきしてます! 更年期の話題が夫婦関係にまで広がると思いませんでした。
高尾 すごく関わりのあることなんです。体の不調に加えて家族の変化や喪失体験があると、前を向くことは簡単ではないかもしれません。でも、ちょっと立ち止まって、これからの30年くらいをどうやって生きていこうかと考える機会にしたいですよね。人生が長い時代ですから、いいかたちで年齢を重ねていくことを目指しましょう。これって、いま話題の「ウェルエイジング」の考え方でもあります。
上田 初めて聞きました。アンチエイジングではないんですね。
高尾 変化する体に対する自分の受け止め方がミスマッチだったり、無理に抗おうとすると、よりつらくなるでしょう。できることを知って、自分で選ぶ。運動もホルモン療法も続けることでよくなりますし、ちょっとした自信もつきます。50代、いろいろと下り坂なのは間違いないので、まぁまぁ元気な体と、まぁまぁ前向きな心があればOK。100点じゃなくていいんですよ。
堀井 何点くらいを目指しましょう?
高尾 うーん、日によっても調子のよさが変わるしねぇ。
上田 今日50点だったけど明日はもうちょっと上がりそうとか。夜眠るとき、「今日も一日、まぁまぁよかったな」と思えれば充分ですよね。
『クロワッサン』1104号より