「訪問着ほど仰々しくならず、控えめな付け下げが好き」、バッグ作家・安本秀子さんの着物の時間。
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・石山美津江 文・大澤はつ江 撮影協力・国立能楽堂
着物と持つ人を引き立てるバッグを、現代の感性をプラスして作りたい
イギリスやフランスのツイード生地、ドイツやデンマークのインテリアファブリックメーカーの布に日本の煤竹(すすだけ)やオリジナル金具。安本秀子さんの作るバッグは、西洋と東洋がバランスよく融合している。
「2018年に自身のブランド『カドゥ京都』を立ち上げました。素材の調達から製作、営業、販売とすべて手探り状態でのスタートでした。でも、実際に手に取り、愛用してくださった方々から、軽いし使いやすい、どんな服にも似合う、とうれしいお声をいただき、それを励みに現在に至っています」
幼いころから着物の仕立てや編み物をする祖母のそばで、ままごと遊びのように人形や、端布(はぎれ)で手提げバッグを作っていたという。
「祖母の手先を見て育った、ともいえます。物作りのルーツは祖母ですね」
持つ人が幸せな気持ちになる、がモットーの安本さん。あるとき、友人から「着物にも合うバッグも作ってみたら?」とアドバイスを受ける。
「確かに和装用の形や素材は、和っぽい印象のものが主流。着物地や帯地の利休バッグを持つ人が多いようですね。格式のある装いには最適ですが、もう少しカジュアルに、おしゃれに着物を楽しみたい人に向けたものが作れたらいいなと思い、ツイードなどの素材を使ったタッセル付きの利休バッグやミニボストンを考案しました。着物に興味を持ったのも、和装にも似合うバッグを作るようになったのがきっかけです」
着物は初心者だから……、という安本さんだが、やはり物作りのプロとしての感性が着物選びにも表れている。
「今日の着物は芥子(からし)色の地色に、古風な畳紙(たとうがみ)を描いた付け下げ。帯は墨黒の地色に『誰(た)が袖文様(衣桁(いこう)に小袖を掛けた柄)』を描いた名古屋帯です。小袖の柄は、京都の呉服店『に志田』さんに残る『誰が袖文様』の図案帖のなかから、岩に唐松と流水が描かれた柄を選びました」
基本の図案にさらに唐松を足して少し華やかにし、刺繡糸の色は墨黒に映えるように自身で決めた。
「実はこの着物と帯の取り合わせには、私なりのストーリーがあるんです。先に誂えたのは付け下げでした。色と、描かれた柄の妙に心が引かれました。それに合わせて同じく『に志田』で袋帯を選び、楽しんでいたのですが、ふと畳紙にちなんだ帯があったら素敵だな、と思い……。そこでお店の方に相談すると、こんな柄がありますよ、と『誰が袖文様』を教えてくださいました。見た瞬間に、畳紙から着物を取り出し衣桁に掛ける、そんな情景が頭に浮かび、これ以上の柄はない、と決めました。今日、初めて締めましたけれど、ワクワクしますね」
着物は付け下げが好き、という安本さん。その理由について聞くと、
「訪問着ほど仰々しくならず、控えめな感じが好きなんです。合わせる帯によってカジュアルにも、格式のある場所にも出席できるなど、応用範囲が広いというのもいいところ。何事も出過ぎないことを信条にしています。これは、バッグを作るときに、いつも念頭においている“持つ人を引き立ててこそ”にも通じていると思います」
着物やバッグは装う人との相乗効果でさらに美しくなると信じている。
「今は美容室で着せてもらっていますが、着付けを習いたいと思っています。こなれた感ではなく、キリッと品よく装いたい。そして、いつかパリで着てみたい。もちろん、自分で作ったバッグを持ってカフェや美術館巡りをしたいです」
『クロワッサン』1101号より
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