からだ

更年期から増える、肌と髪、心や体のトラブル。その原因と対策とは?

美容にとっても無視できない存在の女性ホルモン。
いつまでも健康的な美しさを保つためにも、その役割、働きを知っておこう。
  • イラストレーション・山口正児 文・小沢緑子

「女性ホルモンは、1カ月の月経周期の中でも分泌量が増えたり減ったり、波のようにゆれ動いています。一生涯を見ても、初潮から思春期、閉経まで、女性ホルモン自体の量も大きく変動。特に閉経前後でガクンと減少するために、その時期は心身ともにさまざまなトラブルが生じやすくなります」と、婦人科医の松村圭子さん。

その一生における女性ホルモンの分泌量の変化をわかりやすくしたのが下のグラフ。初潮から思春期にかけて上昇し、性成熟期にピークとなり、以降は下降線をたどり、閉経する更年期を経て分泌がほぼゼロになり、老年期を迎える。

「ライフステージごとに女性の体は変化し、人によって程度の差はあるものの現れる不調も変化します。自分の体調を自己管理するためにも、今自分がどの波の位置にいるかを知っておいたほうがいいと思います」

●女性の一生とホルモンの変化

※松村圭子著『これってホルモンのしわざだったのね 女性ホルモンと上手に付き合うコツ』(池田書店)より引用。

さらに、女性ホルモンは体や心だけではなく、肌や髪など美容面にも影響。

「加齢による老化現象もありますが、女性ホルモンの急激な減少により、肌の乾燥をはじめ、シワやたるみ、髪痩せ、膣内の乾燥など、以前とは明らかに違う美容の悩みが出始めます」

今回、いつまでも健康的な美しさを保つためにも、「体」「心」だけではなく、「肌と髪」にも生じやすい代表的なトラブルを取り上げて紹介。また、更年期障害の治療法・HRT(ホルモン補充療法)の最新情報、更年期を快適に乗り切るためのセルフケア術も教えてもらったので、ぜひアップデートを。

「体の変化に敏感な人ほど女性ホルモンの変動を感じやすいのですが、波は必ず落ち着くときが訪れます。ゆらぎを感じたら『これはホルモンのしわざ』と考えて、思い詰めないことも大切。原因と対策を知り、不調の波を乗り切るすべにしてほしいと思います」

〝美のホルモン〟でもあるエストロゲン。美容にも影響大。

[肌と髪]更年期から増える悩みは、女性ホルモンが関与。

まず、女性ホルモンについておさらい。

「女性ホルモンはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。更年期に関わるのはエストロゲンのほうです」と、松村さん。

エストロゲンには血管や骨を丈夫にするなど生命維持に関わる働きのほか、女性らしい丸みを帯びた体を作ったり、肌や髪の新陳代謝を活発にするなど美容面でもうれしい働きが。

「エストロゲンは別名“美のホルモン”とも呼ばれています」

〈肌と髪〉のトラブル

●肌の乾燥

「エストロゲンは〝肌を潤わせる〟ホルモンでもあり、分泌量がピークを越えて下降線をたどりだすと、肌が乾燥しやすくなるのは自然の摂理。更年期以降は加齢も加わるため、より乾燥しやすくなります」

●シワ、たるみ

「エストロゲンの分泌が減ると、肌の潤いだけではなく、肌内部のコラーゲンを作る働きも抑えられます。すると肌の弾力が失われやすくなり、更年期以降はシワやたるみの悩みも顕著になってきます」

●肌あれ、吹き出物

「更年期の肌あれや吹き出物は、エストロゲンの減少で月経周期が乱れ、女性ホルモンのバランスが崩れることが主原因。ストレスも関係します。男性ホルモンが活発化し、皮脂の分泌が過剰になるからです」

●抜け毛、髪が痩せる

「白髪は主に加齢による老化現象ですが、髪が抜ける、痩せるのはエストロゲンが影響。肌同様、髪の新陳代謝を促す働きがあるため、分泌量が減るとヘアサイクルが乱れ、トラブルが生じるといわれています」

●むくみ

「むくみは月経前に分泌が増えるプロゲステロンの働きによることもありますが、更年期はホルモンバランスの乱れに加え、加齢で筋力が低下するのも一因。血行不良が起きやすく、むくみやすくなります」

〈肌と髪〉の処方箋

●一年を通してUVケアを行う。

「紫外線を浴びると肌に活性酸素が発生し、それがダメージとなり肌老化が進みます。将来的な肌の美しさを保つためにも、日焼け止めは一年中、塗りましょう。また、紫外線は目から入るだけでも脳を刺激してシミやそばかすのもとに。室内でも油断せず、レースのカーテンや、日焼け止めで対策を」

●たんぱく質+ビタミンA・C・Eも摂取。

肌や髪の美しさを保つための基本は、食。「土台となるたんぱく質(肉や魚、卵など)をしっかり摂りましょう。さらに、肌を酸化させず、老化を防ぐためにも抗酸化作用のあるビタミンA(ほうれん草、にんじんなど)、C(ブロッコリー、赤パプリカなど)、E(アボカド、アーモンドなど)も意識的に」

●体の水分不足にも注意。

肌は内側から潤わすことも必要。「人の体の60%は水分。体内の水分が足りなくなると血液はドロドロになり、肌の新陳代謝を妨げます。全身に栄養をまんべんなく送り込む血液を作るためにも水を飲みましょう」。食事からも水分を摂ることを考えても、一日に1リットルを目安に飲もう。

●シャンプーは血行促進を意識して。

シャンプーの際は優しく丁寧に洗ったら、すすぎ残しがないようにしっかり流すことが大切。「頭皮も隅々まできちんと洗い流しましょう。また、頭皮の血行を促すことが髪を健やかに保つためのライフライン。髪に元気がないときは、両手の指で頭皮を前後左右に動かしながら頭皮マッサージを」

[心]家庭も仕事も多忙な時期。ストレスが拍車をかけることも。

女性ホルモンの影響がメンタルに表れやすい人も。「更年期は、家庭でも子どもの反抗期、親の介護など大変なことが重なりやすい時期。真面目な人ほど『ちゃんとしなくちゃ』と思い込み、ストレスに拍車をかけることも。自分をいたわることも覚えましょう」

〈心〉のトラブル

●イライラ

更年期に多いこの症状。「エストロゲンは、幸福感をもたらす脳内物質のセロトニンの分泌も促します。イライラしやすくなるのは、エストロゲンの減少とともにセロトニンも減るからだといわれています」

●不眠、寝つきが悪い

「月経前はプロゲステロンの働きで体温が上がり、夜になっても下がりにくく寝つきが悪くなることがあります。また、女性ホルモンの影響だけではなく、加齢やストレスが原因になっていることもあります」

●やる気がでない

「プロゲステロンが増加する排卵後から月経前は、やる気がでないのが当たり前。本来は妊娠に備え体を休ませる期間のため、女性ホルモンが体を〝守りのサイクル〟に入らせているととらえましょう」

●気持ちの浮き沈みが激しい

自分でもどうしようもなく感情の起伏が激しくなるときも、女性ホルモンの影響が考えられる。「特に排卵後から月経前にかけてはホルモンの増減の波が大きいため、気持ちが不安定になることも多いです」

〈心〉の処方箋

●自律神経をコントロールしてリラックス。

女性ホルモンと自律神経を制御する司令塔は、実は同じ脳の視床下部。「互いに影響し合っていて、自律神経を整えるとホルモンバランスも整いやすいです。簡単なのが深呼吸。イライラしたら、息を鼻から4秒吸って、口から8秒かけてゆっくり吐きだしましょう」

●睡眠時間にとらわれない。

「加齢とともに眠りは浅くなり、必要な睡眠時間は短くなるといわれています。睡眠時間にこだわりすぎると焦りから余計眠れなくなることもあるので、気にしすぎないこと。翌朝スッキリと目覚め、昼間眠気に襲われないようなら足りているととらえましょう」

●やる気がでなくてもいい。

「やる気がでないときは、決して『それじゃダメ』と自分を追い込まないことです。女性ホルモンの波による体調の変化に合わせ、無理しないことが一番。気力が回復したら挽回すればいいと気持ちをラクにして、心の休息シグナルを素直に受け入れましょう」

●心をざわつかせるSNS、人間関係を遠ざける。

「前出のセロトニンはやる気を引き出す脳内物質でもあり、エストロゲンとともにセロトニンが減ると人と会うのが億劫になったり、ストレスに弱くなることが。心がざわつきそうならSNSや気が乗らない誘いも遠ざけて。自分の心を平穏に保つほうが先決です」

[体]将来も健康で美しくいるために、血管と骨ケアを取り入れよう。

「女性の健康は女性ホルモンによって守られていますが、それが減る更年期以降は人生100年時代を見据え、長期的に健康を保つための方法を取り入れることが大事。鍵となるのは血管(血流)と骨。血流をよくし、骨を丈夫にするケアを積極的に始めましょう」

〈体〉のトラブル

●首・肩こり

「女性ホルモンが急激に減少すると自律神経も影響を受けて乱れやすく、それが原因で首や肩のこりを強く感じる人もいます。また、ストレスで筋肉が緊張し血行不良が起こると、こりを招きやすくなります」

●疲れやすい、だるい

「加齢もありますが、自律神経の乱れがやはり主因。本来、夜になると副交感神経が優位となり休息モードになりますが、うまく切り替わらないと体が休まらず、翌日、疲労感やだるさを感じやすくなります」

●骨が弱くなる

「更年期になると骨を守っていたエストロゲンが減少するため、骨密度も低下。閉経後10年間で10〜20%低下するともいわれています」。骨が弱くもろくなると、骨粗鬆症や骨折の原因にもなるので要注意。

●フェムゾーンのトラブル

「潤いのホルモンであるエストロゲンの減少で、肌だけでなく、体の皮膚や粘膜も乾燥。膣周りも乾燥しやすくなります。ほかにもフェムゾーンは、かゆみ、性交痛、においなどのトラブルが増えてきます」

〈体〉の処方箋

●意識してリラックスを。姿勢や体のクセも見直す。

長時間スマホやパソコンを使い続けると交感神経ばかり優位になって自律神経が乱れ、首・肩こりが助長される。「加齢に伴い副交感神経の働きは落ちていくので、意識してリラックスする時間をとって。同じ姿勢を取り続けることもマイナス要因。血行不良を起こすので姿勢や体のクセも見直しを」

●続けられる方法で日常的に体を動かす。

「老化は血管から始まります。血管を硬くせずしなやかに保つためにも、日頃から血流をよくする対策を。運動が一番効果的ですが、苦手なら毎日キッチンをピカピカになるまで磨くなど、家事で体を動かすようにしましょう」

●ビタミンDを摂取。手のひらだけ日光浴。

骨粗鬆症予防のための骨ケアは、「骨を作るカルシウムだけではなく、その吸収率を上げるビタミンDも摂りましょう」。食品では鮭や青魚、干ししいたけに多く含まれる。「また、ビタミンDは日光にあたると皮膚で作られます。手のひらだけ日光浴でも効果あり」

●フェムゾーンも怠らずにケア。

「体の乾燥には、顔のスキンケア同様、入浴後に保湿を行うこと。フェムゾーンも、ここ最近専用のケアアイテムが増えています。膣周りは皮膚が薄く酸性度が高いので、刺激の少ない弱酸性の専用ソープで優しく洗って、専用保湿剤で潤いを保つのもいいと思います」

更年期の「きれい」を守る、積極的治療とセルフケア。

(最新治療)心身ともに健康美を保つためにも、 最新治療を知っておこう。

更年期障害の治療・HRT(ホルモン補充療法)。塗り薬、貼り薬、飲み薬の3種類があり、基本的に保険適用。

「天然型黄体ホルモン製剤が承認されるなど、治療法も進化しています。HRTは不足した女性ホルモンを補うため、症状が改善されるほか、肌や髪に美容的な恩恵も。乳がんのリスクを心配する人もいますが、飲酒や肥満によるリスクと同等かそれよりも低い。月1回程度診察し、定期的に検査も行うので治療するメリットのほうが大きいです」

(セルフケア)体の変化をポジティブに受け入れて、 自分のご機嫌をとる。

更年期を軽やかに乗り切るためには、「まずは更年期を『新たなステージ』とポジティブにとらえ、体の変化も『人生のスピードをゆるめる時期がきた』と受け入れて。
また、何事も完璧にできなくても自分を責めず、『8割できれば、ま、いいか』と思うアバウトさも必要」。
さらに、やりたくないことは無理しない。
「本当に楽しいもの、好奇心のあるものに挑戦。推し活もおすすめです。“いかに自分の機嫌をとって快適に過ごすか”をテーマにしましょう」

【更年期を楽しむための心得】
□ 人生のスピードをゆるめる。
□ 8割できればそれでよし。
□ やりたくないことはやらない。
□ 好奇心の赴くままにチャレンジを。
□ 推し活もおもいきり楽しむ。

松村圭子

松村圭子 さん (まつむら・けいこ)

成城松村クリニック 院長

月経トラブルから更年期障害まで、女性の体をトータルサポート。アンチエイジングにも精通。著書に『これってホルモンのしわざだったのね』。

『クロワッサン』1088号より

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