からだ

腰痛が起こる理由は人間だから? 約8割がセルフケアで改善できる。

腰痛は人間だけの悩み。人類が手に入れた二足歩行がメリットだけでなく、肉体へのデメリットももたらしたのです。
  • 撮影・黒川ひろみ  文・山下孝子  イラスト・宇和島太郎、松元まり子 

腰痛に悩んでいるのは実は人間だけ!?

人類の遠い祖先は、類人猿と同じく四足歩行をしていました。しかし、進化の過程で3種類の筋肉が発達し、二足歩行を開始したおかげで、両手が使えるようになったのです。

その結果、人類は道具を作り、脳を発達させ、文明や文化を築くようになりますが、二足歩行は人類に腰痛という悩みも与えてしまいました。

四足歩行は4本の足で頭部や胴体の重さを支えるので、腰への負担が軽減されますが、二足歩行は上半身を背骨で支え、その重さを腰で受け止めています。つまり、人類は正しい姿勢で立つだけでも、腰に負担がかかってしまう肉体を持っているのです。

【二足歩行を可能にしている3種類の筋肉】

人間は背筋、腹筋、大臀筋(だいでんきん)が3方向から胸部と腹部に圧力をかけているおかげで、腰が体重の約60%にあたる上半身の重さを受け止め、動き回ることができます。

●その(1) 背筋
背中の筋肉で、背骨に密着しています。腹筋からの腹圧を受け止めて背骨を支える役割を果たしています。ストレッチなどで特別に鍛えなくても、ウォーキングなどの運動を通じて自然と強さを維持できます。

●その(2) 腹筋
いくつかの部位に分かれているお腹回りの筋肉です。腹腔(内臓を収納するお腹の空間)にかかる圧力である腹圧は、腹筋が強いほど高くなって背骨の負担を軽減します。逆に腹筋が弱くなると、腹筋が強い人よりも約40%も腰への負担が増えるといわれています。

●その(3) 大臀筋
お尻の筋肉で、骨盤を持ち上げて傾斜を変えることで、骨盤の上にある背骨が自然なS字状カーブの形状を維持することができています。

(ポイント)
腹筋と背筋の強さは、2:1が理想的なバランス。背筋が強くなりすぎると、上半身が後ろに傾きがちになり、ひどい場合は「反り腰」という、腰に負担の大きい姿勢になってしまいます。

筋肉の衰えによって腰痛が引き起こされる

人間のように後ろ足だけで立つ動物はいますが、人間ほど腹筋、背筋、大臀筋が発達していないため、その状態は長続きしません。

裏を返せば、3種類の筋肉が衰えれば、人間も正しい姿勢を保つことが難しくなり、上半身の重さを受け止める腰にかかる負担も増えます。実際、腰痛に悩む年配者が多いのも、加齢によって筋肉量が減ってしまうからです。

しかし、科学技術の進歩によって昔のように体を動かす必要がなくなり、近年は若い世代にも腰痛に悩む人が増えています。特に日本は、デスクワーカーが多く、自動車の普及や公共交通が整備されているおかげで、歩く機会が激減しています。

人間の頭部は約5キロの重さがあり、それを支える背骨はS字状のカーブを描くことで負担を軽減しています。しかし、3種類の筋肉が衰えて背骨がカーブを維持できなくなると、無理な負担がかかった腰に痛みが生じるのです。

【背骨の構造】

人間の上半身を支えている背骨(=脊柱)は、首の部分の頸椎(けいつい)、胸の部分の胸椎、腰の部分の腰椎、そして骨盤を形成している仙骨と尾骨の5つの部分で構成されています。

●寛骨
腸骨、坐骨、恥骨が癒合してできた骨で、仙骨や尾骨とつながって骨盤を形成しています。

●頸椎 7個
背骨で最も動く範囲が大きい部分で、本来は前方にゆるやかなカーブを描くフォルムをしています。しかし、近年はパソコンやスマートフォンの普及で、このカーブが失われてしまう「ストレートネック」の人が増加しています。

●胸椎 12個
肋骨と一緒になって心臓や肺など重要な臓器を守っている部分です。「ねじる」という回旋動作は得意ですが、前後に曲げる動作は苦手という特徴があります。崩れた姿勢や運動不足によって胸椎の動きが悪化すると、肩こりや腰痛が引き起こされます。

●腰椎 5個
胸椎とは逆に、前後に曲げる動作が得意な部分です。上半身の重さを受け止める働きのため、背骨の中で最も大きい骨になっています。

●仙骨
5個の仙椎が癒合している部分で、仙骨と腸骨を繋ぐ「仙腸関節」がズレてしまうと、骨盤がゆがみ、さまざまなトラブルが引き起こされてしまいます。

●尾骨
4個の尾椎が癒合している部分で、かつては「尾てい骨」と呼ばれていました。実は動きやすい骨で、尻もちをついた時に位置がズレてしまうと、座った時に痛みを感じることがあります。

●椎骨
頸椎から腰椎までの骨のことです。お腹側の円柱形の部分を「椎体」、背中側の4つの突起(刺突起、横突起、上関節突起、下関節突起)をまとめて「椎弓」と呼びます。

●椎間板
椎骨と椎骨の間に挟まっている軟骨で、弾性があるためクッションの役割を果たしています。過剰な運動や負担、さらに加齢によって変化が起きやすい部分です。

腰痛の約8割はセルフケアで改善が可能

そもそも腰痛とは、腰の周辺が痛む症状の総称で、一般的に「腰痛症」と呼び、その原因は人によって異なります。

脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、骨粗しょう症、椎間板ヘルニアといった病気や、骨折、ねんざ、打撲、脱臼といった外傷など、痛みを引き起こす原因がはっきりしている腰痛を「特異的腰痛」と呼びます。

一方、骨・椎間板・神経に異常がないのに、痛みを感じる腰痛の多くは、腰回りの筋肉の疲労に由来することが大半です。中には、姿勢や動作、時間帯や季節によって痛みが出たりなくなったりするものの、病院で検査をしても原因を特定しづらいケースもあります。具体的には、重いものを持った時に起きることが多いぎっくり腰などがそうです。こうした腰痛をまとめて「非特異的腰痛」と呼んでいます。

実は、腰痛全体の約8割がこの非特異的腰痛にあたり、原因は特定できないものの、いくつかの要因が重なって腰痛が引き起こされると考えられています。

主な要因は悪い姿勢、運動不足、肥満、加齢に伴う筋肉量の低下や骨の変化などで腰への負担が増加・蓄積することです。

このため、ほとんどの非特異的腰痛は病院での治療が必要ありません。腰に負担がかかる生活習慣の見直しや、衰えた筋肉を鍛え直すといったセルフケアで症状が改善します。

また最近注目されているのが心理・社会的要因です。疲労やストレスが蓄積することで自律神経が乱れ、筋肉が緊張したり、血行が悪くなったりして腰痛を引き起こすのです。

新型コロナウイルスの大流行したせいで、2020年6月以降、長期間のステイホームによる運動不足や、それに伴うコロナ太りを訴える人が増加しています。

また、感染の恐怖や人と会えない孤独、そしてコロナ不況による将来への不安から、強いストレスを感じている人も少なくありません。

つまり、今は腰痛のリスクがとても高く、回避のためのセルフケアが大切になっているのです。

【非特異的腰痛の主な要因】

肥満

運動不足

悪い姿勢
(猫背、反り腰、中腰、前かがみなど)

血行不良、冷え

ストレス

加齢

伊藤晴夫

監修

伊藤晴夫 さん (いとう・はるお)

整形外科医

メディカルガーデン整形外科院長。JCHO東京新宿メディカルセンター(旧東京厚生年金病院)元副院長・整形外科部長。岐阜大学医学部卒業。腰痛疾患や股関節疾患の臨床に長年携わり、一流アスリートの治療にもあたっている。『腰痛の運動・生活ガイド』(日本医事新報社)、『腰痛をすっきり治すコツがわかる本』(永岡書店)など、腰痛関連の著書・監修書多数。

※プロフィールは雑誌掲載時の情報です。

『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。

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