草刈民代さんインタビュー。「女性の髪はその人の生き方につながるものなんだと思います。」
撮影・玉置順子(t.cube) スタイリング・宋 明美 ヘア・山本リエコ(Twiggy.) メイク・齋藤美紀(SINCERELY) 文・黒瀬朋子
「髪は伸びるし、自由に 好きな髪型にしてみたらいい。」
シャープなボブヘアで登場した草刈民代さん。カットは15年ほど前からツイギーの松浦美穂さんにお願いしていて、最近このスタイルにしたばかり。
「これほど個性的な髪型は、10年前だったら及び腰になっていたかもしれません(笑)。でも、いまは楽しめています。自分の芯ができてきたからなのかもしれませんね」
バレリーナとして活躍していたころは、まとめられる長さをキープしなければならなかった。ショートにできるようになったのは女優になってから。
「踊っていたころは、いい踊りをしたいということ以外に欲はなかったので、髪型へのこだわりはほとんどありませんでした(笑)。いまは役に合わせてヘアスタイルを変えることが多いですね。キャラクターを作り上げる上でも重要だと考えています」
役のイメージを伝え、相談しながらスタイルを決めるが、最終的には松浦さんにおまかせするのだそうだ。
「迷ったら、ロジカルに髪のことを理解しているプロにおまかせするというのも一つの方法だと思います。自分がどんな髪型が合うのか、実際に体験してみないとわからないと思いますし、やはりその時の本人の『気分』に合わないとその髪型は違うと感じてしまうようです。他人から見ればすごく似合っていても、本人は受け入れられないということはありそうですよね」
でも、「こうじゃないと嫌」を捨てていかないと自分を変えられないんじゃないかと草刈さんは提言する。草刈さん自身、仕事の上で大概のことを受け止める柔軟性を養ってきた。
「こだわらなければいけないところはこだわりますが、どんな状況下でも踊らなければいけなかったり、『これはできません』と言うばかりだったら、物事はなかなか前に進みません」
「『これもありなのかも?』と 新たな自分を発見する。」
髪型においても、「これもありなのかも?」と思いながら、新たな自分を発見していった。しかし、40代半ばを過ぎると、髪型もメイクもファッションも、どうしたらいいのか迷う時期が訪れる。それまでのスタイルが似合わなくなったり、流行をどこまで追えばよいのかわからなくなったり。
「結局は、自分がどうありたいかなのではないかと思います。きっと、生き方やポリシーにつながるんですよね」
年齢を重ねるにつれ、自分自身にもごまかしが効かなくなる。コロナ禍になり、人の価値観は大きく変化し、それは加速した。真の幸福や何を大切にしたいのか、本質的な問いを誰もが突きつけられている。
「日本は、周囲と横並びであることをよしとする風潮がありますよね? コロナ禍のニュースでいろいろな国の政策や人々の反応の仕方を目にして、日本人は本当に受け身なんだと感じたことがありました。それは悪いことばかりではないのだけれど、もっと意識的に『自分の意思で選択する』ことを考えていかないと、ダメなんじゃないかと強く思うようになったんです。自分のことは自分で責任を持たないと、誰も代わりにはなれませんからね」
草刈さんはこれまでに何度も思い切った選択をしてきている。
43歳でバレリーナの道を退き、女優として一からキャリアを積んでいった。発声や呼吸法を学び、歌や演技のレッスンを受け、イギリス人の演出家と共に芝居の制作もした。
昨年は自粛期間中に、他ジャンルのダンサーたちにも声をかけ、動画を作り配信。今年、そのプロジェクトは劇場上演という形で結実した。
既存の枠に捉われず、信じた行動を起こす草刈さん。常に高いレベルで自分を生かしたいと思っており、そのための努力と準備は怠らない。
「話が大きくなってしまいましたね」と笑いながら、草刈さんは続ける。
「勇気のいることなのかもしれないけれど、人にどう見られるかなんて関係なく、自分のしてみたいことに挑戦できる人こそが幸せに近づけるんだと思います。
コロナ禍になり、人と横並びで安心という時代ではなくなりました。
ただ流れに身を任せていたら、きっと淘汰されてしまう。けれど、自分の責任において納得できる道を選べば本当の楽しみを見出せます。
そうすれば、年齢を重ねる面白さももっと味わえるはず。髪型もその一つ。髪なんてすぐ伸びますし(笑)、自由に好きな髪型を楽しんだらいいんじゃないかな」
草刈さん髪型履歴
2009年
2010年
2011年
2014年
『クロワッサン』1058号より