耳鼻咽喉科医がすすめる「うるうる粘膜」のための腸の整え方。
液で適度に湿った「うるうる粘膜」を維持するには、どうすればよいのかを紹介します。
文・山下孝子 イラストレーション・松元まり子
粘膜は外敵との戦いの最前線。
人間の鼻や口はのどの部分で合流し、そのまま食道、胃、腸、肛門まで一本の管(消化管)でつながっており、その内側は粘膜によって覆われています。
粘膜はカラダの内側でありながら呼吸や食べ物に含まれる異物に接する場所でもあるため「内なる外」とも表現される部分で、細菌やウイルスなど人体に有害なものが侵入してきたときに備えて、高い免疫力を持っています。
しかし、粘膜の免疫力が高いのは粘液によって常にうるおっているからです。乾燥や炎症によって粘膜がガサガサに荒れてしまえば、免疫力は低下してしまいます。
そこで、粘膜のうるおいを保つためにはどうしたらよいのか、インドの伝統医学アーユルヴェーダを診療に取り入れている、耳鼻咽喉科の医師である北西剛さんに話を聞きました。
粘膜を荒れさせる要因は複数あり、適度に湿った「うるうる粘膜」を維持するためのルールを紹介します。
免疫の要である腸の粘膜を整える
食べ物の消化・吸収を担当するため、腸には全身の約7割の免疫細胞が集まっています。これらを守るためにどうしたらいいのかを紹介します。
【腸内環境が整えば、粘膜も健康になる。】
人間の免疫の7割が腸内細菌の影響を受ける。
粘膜は鼻や口のなかだけでなく、胃や腸などの消化器の内側にも広がっています。どの器官の粘膜も重要な働きを担っていますが、免疫力のために特に大切にしなければならないのが腸です。
腸には約200種類100兆個もの細菌(腸内細菌)が住んでおり、その働きによって善玉菌、日和見菌、悪玉菌の3種類に分けられています。
一方、腸には全体の約7割の免疫細胞が集まっており、その働きは腸内細菌の影響を大きく受けます。そのため、腸内環境を整えることが免疫力を高める近道と言えるのです。
では腸内環境を整えるには何をしたらよいのか。具体的には、善玉菌が活動しやすい環境をつくってあげることになります。
ここで大切になってくるのが、毎日の食事です。腸内細菌は食事で摂取したものをエサにして繁殖しているため、善玉菌が好む食材を積極的に食べましょう。
具体的には、野菜・豆・果物・全粒穀物などの植物性食品、発酵食品、食物繊維、オリゴ糖です。
便秘症の方は、こうした食材を積極的に2週間ほど摂取し続け、さらに適度な運動をプラスすれば、かなりお通じがよくなります。
腸内環境を整えてくれる食材が便秘解消に役立つのは、腸にとって排泄が最高のデトックスであるからにほかなりません。
大便の材料は腸内由来が多い。
実は、健康な大便に含まれている食べ物のカスは5%程度で、残りは水分が60%、腸内細菌の死骸が20%、腸の粘膜からはがれた細胞の死骸が15%になります。
つまり、好物を食べて善玉菌が元気になることで腸内の新陳代謝が促され、大便のかさが増えたおかげで便意を感じやすくなるというわけです。
逆に悪玉菌が優勢になると、排泄されない腸内の大便は徐々に水分を失って硬くなるだけでなく、大便自体が腐敗して悪玉菌が増殖します。そうなると腸内環境は最悪になり、免疫細胞も元気がなくなってしまうのです。
腸内細菌の種類と理想のバランス。1:7:2
●1割:悪玉菌
多くは腐敗菌で、増えすぎると腸内環境が悪化し免疫力が低下する。
●7割:日和見菌
善玉菌と悪玉菌のどちらか優勢なほうに味方をする。
●2割:善玉菌
免疫細胞を増強し、病原体が繁殖しにくい環境を整える。
【腸内環境が乱れる原因 (1)食生活】
便利な生活の反面食がおろそかな現代
善玉菌が好む食材のほかに、長いもやオクラなどに代表されるねばねば食材も粘膜にとってよい食材ですが、他にはどんな食材が粘膜にとってよいのでしょうか。
「粘膜の細胞同士の結合を強化するビタミンD、粘膜の再生に欠かせない亜鉛、粘膜の免疫担当IgAに必要なビタミンAなど、大切なビタミンやミネラルがあります。さらにおすすめなのが『免疫ビタミン』とも呼ばれているリポポリサッカライド(LPS)を含む食材ですね。自然免疫には体内に侵入した細菌やウイルスなどの外敵や、体細胞の死骸などを食べて処理するマクロファージという免疫細胞がいます。ストレスや不規則な生活で働きが鈍りやすいという弱点がありますが、LPSを摂取することでマクロファージは外敵とすぐに戦えるほどに活性化します。また、マクロファージには炎症で傷ついた組織を修復するタイプも存在するので、積極的に摂取してほしい食材ですね」
LPSは穀物、野菜、海藻、きのこ類など、スーパーで購入できる身近な食材に豊富に含まれているから、手軽に摂ることができます。特に多く含まれているのが、海藻のめかぶ、きのこのヒラタケ、根菜のレンコンです。
「最近はテレビやスマートフォンを見ながら食事する方が増えていますが、これでは交感神経が優位になり、唾液の分泌が減ってしまいます。一日一食でもいいので、食べることに集中してみてください。また、脳や自律神経はルーティンワークが好きなので、できれば決まった時間に三食を摂ることが、ホルモンや唾液の分泌にとって大切だと考えています」
バランスがよい食事以外の注意点。
●朝食は必ずとる。
朝食を食べて1時間後くらいに排便を促す腸の蠕動運動が起きやすいため朝食を抜かない。
●腹八分目にする。
満腹以上食べると肥満の恐れもあるうえ、消化に体力を消費し、胃腸が疲れてしまう。
●よく噛んで食べる。
一口30回噛むことで唾液が増えて少ない量で満腹になるうえ、消化の負担が少なくなる。
排便力を上げる姿勢。
●踏み台に足を乗せる。
椅子のように洋式トイレに座ると直腸が屈曲するため、踏み台に足を乗せて踏ん張りやすくし、上半身を前に倒すと直腸がまっすぐになる。
広告