漢方から見た腸の役割と、腸の健康を保つ食養生のポイント。
文・土田由佳 イラストレーション・松元まり子
脾は五行説において中心、 土壌になるもの
漢方では、自然界のあらゆるものは、「木、火、土、金、水」の5つの構成要素と、その特性から成り立つと考えられています。これを「五行説」といい、5つの要素それぞれが季節や体の五臓などとつながっているという思想です。
ただし、五臓とは解剖学が指す、肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓とは似て非なるもの。内臓そのものを指すのではなく、「生命活動に必要な働きや機能を、肝、心、脾、肺、腎の5つに分類したもの」で、漢方ではより広い機能や概念を表します。五臓のいずれかに働きかけると、別の臓にも影響が及び、互いにバランスをとっているのです。
「木」は草木が芽吹き、万物が生じる時期。象徴する季節は春。つながりのある臓器は「肝」(自律神経、情緒系)。
「火」は火が燃えている様。万物が長じるときで、季節は夏を象徴。「心」(循環器系、意思系)とつながっています。
「土」は万物を育てる母なる大地を意味し、四季のすべてに関わりをもっています。
つながりがあるのは「脾」(消化系)。脾は栄養分を受け取る倉庫番のようにみなされ、腸など消化吸収に関わる機能も含まれています。脾=腸というわけではありませんが、漢方において腸の役割を知るには脾を見ればいいという認識で大丈夫です。
「金」は金属の硬さや鋭さを意味します。象徴する季節は秋。「肺」(呼吸器系、免疫系)とつながっています。
「水」は湧き水を意味します。象徴する季節は冬。つながりがあるのは「腎」(内分泌系、水分代謝系)。
これらの関連性を表したのが「五行説」の図です。
●五臓の働き
【 肝 】
血流量をコントロールし、ほかの臓腑の生理機能がスムーズにいくよう調節。
【 心 】
血を体全体にめぐらせるポンプとして働き、精神や意識を安定させる作用も。
【 脾 】
消化吸収機能を担い、気や血のもとと潤いをつくり出して全身に送り出す。
【 肺 】
呼吸機能を担当するほか、潤いや栄養分の運搬・分配も行う。
【 腎 】
成長、生殖機能を担い、ホルモン分泌や、知能・運動系の発達と維持に関与。
自然界のあらゆるものは土から生まれるという考えのため、土は図の中心の位置にあることから、その重要性がわかります。
そしてその土は、木、火、金、水それぞれに「気血をつくり与える」。体のエネルギーである気と栄養になる血をつくり出し、それを体全体に送り出す働きをしているのです。
つまり、土がよくないと、エネルギーと栄養をつくることができなくなり、そもそもの体をつくることができなくなるということ。その土とつながりのある脾は、食べ物を消化吸収してエネルギーを生み出し、健康な体をつくる重要な場所というわけです。
脾が弱まるとだるさや鼻血などの症状も
脾には、消化や呼吸の働きや、水分代謝、血液を血管内にとどめる働きもあります。
脾の機能が低下するとエネルギーや栄養を運ぶ血が不足し、食欲低下、軟便、下痢、疲労、だるさ、鼻血が出やすい、アザができやすいといった症状をもたらします。
改善するには食事の見直しがいちばんです。
詳しくはこれから紹介しますが、とにかく、油っこいものや甘いもの、味の濃いもの、生もの、冷たいものなど胃腸に負担になるものを控え、腹八分目に食べてください。
実は、生まれながらにして脾が弱い人もいます。両親が胃腸が弱いという人はその可能性が高いです。そうした人は、まわりが冷たいものを食べていても自分は避けるなど、人よりも脾のケアを重要視するようにしましょう。