ホルモン補充療法(HRT)は5年以内にすべきと聞きましたが…。【87歳の現役婦人科医師 Dr.野末の女性ホルモン講座】
撮影・岩本慶三 イラストレーション・小迎裕美子 構成・越川典子
Q. ホルモン補充療法(HRT)は5年以内に すべきと聞きましたが…。
HRTを始めました。先生の連載で、QOL(人生の質)を考えると、できるだけ続けたほうがよいとありましたが、担当医師は「5年以内」と言います。医師によって意見が変わるのはなぜでしょう。また、エビデンスがあれば教えてください。私としては、フリーランスの仕事ということもあり、できるだけ長く仕事をするために、カラダをいい状態に維持していきたいと思っています。(S・Eさん 53歳 自由業)
A. 5年と区切る必要は ありません。医師と相談してすすめましょう。
前号に続けて、エビデンス(証拠・根拠)をお知りになりたいというお便り、うれしいです。連載もお読みくださり、ありがとうございます。
S・Eさん、HRTを始められたのですね。更年期障害の改善だけでなく、アンチエイジング効果も期待できるHRT。その効果は、血管、骨、皮膚や粘膜……全身におよぶので、閉経後の人生が長い女性には福音となると以前もお伝えしました。
担当医師が「5年以内に」という根拠は、乳がんや血栓症のリスクがわずかに上がることを指していると思われます(下表参照)。1年に1回、婦人科検診をはじめ、通常の健康診断も受けた上で、HRTを継続するベネフィット(利益)がリスクより高ければ、継続することを選んでよいでしょう。もちろん、医師と合議の上ですすめます。私の患者さんの中には、10年、15年継続している方もたくさんおいでです。
5年以上HRTを続けた人、受けなかった人の比較
更年期世代は、体調だけでなく、社会的な問題に直面する時期。薬まかせだけでは乗り切れません。HRTで少量のエストロゲンを補充しても、老化は少しずつすすみます。「(HRTをしても)今ひとつ効果がわからない」という方に限り、「この治療が何でも解決してくれる」と思っている方が多いように感じています。運動や食事の見直し、仕事の仕方、家族とのつき合い方にも向き合う必要がある患者さんも少なくありません。治療を含め、自分が生き方を「選択する」という視点は不可欠。幸いなことに、HRT含め、多くの選択肢がある時代になっています。
※症状や治療法には個人差があります。必ず専門医にご相談ください。
HRTを選んでも薬まかせだけにせず、自分を整えよう。(Dr.野末)
野末悦子(のずえ・えつこ)さん●産婦人科医師。横浜市立大学医学部卒業。川崎協同病院副院長、コスモス女性クリニック院長、久地診療所初代所長、介護老人保健施設「樹の丘」施設長などを歴任。
『クロワッサン』1028号より
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