手にとるとドキドキする。甘ったるい女らしさとは無縁な、どこか無国籍で自由な風を感じさせる帽子たち。日本国内のみならず、パリ、NY、ロンドンの女性たちを魅了する「chisaki」の帽子は、かぶると美人度が上がると噂が――。
「美人度ですか?」と笑うのは、デザイナーの苣木紀子さんだ。
「たしかに、かぶったとたん、皆、ぱーっと表情が変わります。気持ちが動く瞬間を、私は何度も見てきました。考え方や暮らしまで変わる人もいるんです」
まるで帽子がメッセージを伝え、その人自身が再起動し始めるかのような。
「帽子って、私はコミュニケーションツールだと思うんですね。作る人、売る人、買う人が帽子を通して輪となって、未来を作っていく。誠実にものづくりしていけば、国籍も性別も超えて、笑顔でつながっていけるのではないか、と」
スタートは、偶然教わったベレー帽作り。繊細な世界に惹かれ、独学で始めた帽子デザインだが、今や東京と北海道にアトリエをもち、15年通うパリでコサージュ作りも学びたいと思っている。
「これからも、もっと女性をわくわくさせたいから」と話す苣木さん。デザインの発想はどこからくるのだろうか。
「しなやかな強さ。凛とした何かに美しさを感じます。私は山登りをするのですが、たとえば極寒の雪山は、厳しさの中に、空や雪、樹木や岩肌など信じられないような美しさがある、そんな自然からエネルギーをもらっている気がします」