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【島田歌穂さん×井上芳雄さん 対談】喉をベストに保ち、舞台に立ち続けるふたりの努力とは。

ミュージカルの中でも、数々のロングラン公演に出演し、その歌唱力には定評がある島田歌穂さんと井上芳雄さん。ふたりの美声の秘訣は? 声帯はどうなっているの? 公演中の喉の管理は? 何よりその発声法は? 意外なエピソードとともに、その素晴らしい歌声に隠された裏側を聞いた。

撮影・青木和義 スタイリング・鈴木美夏(島田さん)、 吉田ナオキ(井上さん) ヘア&メイク・天野広子(島田さん)、 イオギユミ(井上さん) 文・今井 恵

歌うということは、体を楽器にして共鳴させることです。(井上さん)

歌を歌うと感情が豊かになります。お子さんに歌って、やさしい気持ちにも。(島田さん)

女優、歌手の島田歌穂さん(左)と俳優の井上芳雄さん(右)
女優、歌手の島田歌穂さん(左)と俳優の井上芳雄さん(右)

井上芳雄さん(以下、井上) 歌穂さんのこと、僕はシンガーとしても尊敬しています。ミュージカル女優が歌っていますよってレベルではありません。

島田歌穂さん(以下、島田) そんなふうに褒めていただき、ありがとうございます。昔、アイドル歌手をしていた時期もあったけど、そちらでは売れなかったからなあ(笑)。

井上 ジャズを歌っても本物のジャズシンガー! ミュージカル界にそういう方はなかなかいないと思います。

島田 いえいえ、アイドルの後、バイトをしながらジャズの勉強をして、ちょっとジャズ歌手だった時代もあって……。

井上 もともとご両親が音楽をされていたんですよね。

島田 父親が音楽家で、ボイストレーナー。母親はタカラジェンヌでした。私がお腹にいる頃、母はジャズ歌手としてステージで歌い、父は自宅で歌を教えていたんです。だから小さい頃、両親の声やお弟子さんの発声練習が、今思えば子守唄代わりだったんですね。

井上 まさに英才教育ですね。

島田 そうかな(笑)。でも勝手に洋楽とかを歌い出していました。バレエは4つの時から母が習わせてくれて、その後、子役時代を経て、17歳でアイドルデビューの話をいただいた時、やっと初めてボイストレーナーについてレッスンをしたんです。

「歌穂さんは女優でありシンガー。ミュージカル女優が歌うというレベルを超えていると思う。」
「歌穂さんは女優でありシンガー。ミュージカル女優が歌うというレベルを超えていると思う。」

気づいたら歌っていた島田さん。 『キャッツ』に感銘を受けた井上少年。

井上 お話を伺っていると、体操の内村航平選手みたいな環境だったんですね。アスリートの世界でも、家が体操教室をやっている人、スケート教室をやっている人、そういう環境で育つ人が、どうしても強いじゃないですか。ミュージカル界にはそういう人がなかなかいないのに、歌穂さんはうらやましい環境で育ったんですね。

島田 そういう意味では、両親には感謝、感謝ですね。気づいたらごく自然にこの世界にいました。芳雄さんは?

井上 僕は全然そういう環境じゃないですよ。

島田 じゃあ、今の芳雄さんは突然変異だったんですか? 何が起きて井上芳雄ができあがったんですか?

井上 (笑)。歌は小さい頃から好きだったけど、小学生の時に家族でたまたま『キャッツ』を観に行って感動し、そこからの僕は「見るもの、聞くもの、すべてがミュージカル」という子どもになりました。とにかく「キャッツに出たい」「劇団四季に入りたい」という一心で。自分でいろいろなものや情報を集めて……。今みたいにネットで簡単に情報が集められなかったから、本当に必死でした。その情熱があったから、よかったのかもしれません。

島田 でもそこから藝大(東京藝術大学)に入っちゃうのがすごいよね。そこの秘訣が聞きたい(笑)。

井上 知能犯だったというか……(笑)。当時、石丸幹二さんが劇団四季の団員で『オペラ座の怪人』のラウル役を演じたり、コマーシャルにも出演されていて、とても格好よかったんですよ。どうしたら石丸さんみたいになれるかと考えて、プロフィールを拝見したら、東京藝大の声楽科のご出身だったわけなんです。だから単純に藝大に入って勉強すれば、劇団四季に入れてラウルでデビューできるって信じていたんですよ(笑)。

島田 やだ、おかしい(笑)。

井上 だから入学してから石丸さんがついた先生に習ったんですよ。同じ門下に入って。「よし、このままいけば劇団四季だ!」って。

島田 素晴らしい人生計画だわ(笑)。

井上 でも実際に舞台に出るようになってからは大変でした。だって歌だけで芝居ができないし、気合だけだったから。

島田 ではお芝居は苦労なさったのですね。

井上 芸術家の中には怒りをエネルギーに変えて演じる方もたくさんいます。時代への怒りや運命への怒りをエネルギーに転じる。そういうのが素敵だなと思うじゃないですか。でも僕、怒りが全然なくて。

島田 えぇ? そうなんだぁ(笑)。

井上 世の中になんの不満もなく、ただ歌って踊りたいだけだったんです。

島田 芳雄さんらしい(笑)。

井上 演劇の作品の中には人間の裏側のドロドロした感情を描くものもけっこうあって、僕はなんでみんなそんなにドロドロしているの?って不思議で。演出家からは「足りない!」って怒られるし。どうしたらいいの? 何か悪いことしたらいいのかなって。

島田 「お前の中のあの感情を出せー(低く強い声で)」って言われたのね。

井上 そうそう。そういう意味では僕は甘いっていうか、幸せに育ちすぎたんでしょうね。

島田 まさにプリンスのエピソード(笑)。ところで、芳雄さんは喉が強いよね。

井上 うん、確かに強いかも。

島田 私は公演中は、居酒屋で飲んで騒がないというのが基本です(笑)。

井上 ワイワイした店は危険ですね。

島田 そう、自分が思っている以上に声を出しちゃうから。

芳雄さんは素晴らしい声帯の持ち主。力強く繊細で、ドラマチックな歌声に聞き惚れます!
芳雄さんは素晴らしい声帯の持ち主。力強く繊細で、ドラマチックな歌声に聞き惚れます!

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