【たらればさん】文は人なり。文章が上手くなれば人を喜ばせ、自分の人格も整ってきます。
撮影・青木和義 文・一澤ひらり
最初に書きたいことを箇条書き。 書く順序を考えて、頭の中を整理する。
たらればさん @tarareba722 (フォロワー約12万人)
アカウント名は「たられば」さん。編集者という以外、謎に包まれているが、マンガ、古典文学、社会問題など、さまざまなテーマをわかりやすく掘り下げ、前向きな気分になれるツイートと犬のアイコンに、多くのファンが注目する人気ツイッタラーだ。
「今、フォロワーが12万人ぐらいいるんですけど、僕のことをツイッターでしか知らない人がほとんどです。その人たちは僕という人間をツイートした文章だけで判断するわけですね。今の時代はSNSが発達して、こういう“その人が書いたものからその人を知る”→“人格=その人が書いた文章”というケースがすごく増えているんですね。まあ人格というか、僕の場合は犬格というべきか」
だからこそ、文章の書き方に気をつかうという考えは大切だし、今後ますます重要になっていく、とたらればさんは推測する。
「とはいっても、気楽に考えればいいんです。外出する時にお化粧したり身なりを整えたりするのと同じで、ツイッターの文章も人に見られるものだから少し整えようと意識するだけで、全然違ってくるものなんですよ」
では、どうしたら文章は上達するのだろう?
「まずは好きな文章をまねること。料理と一緒です。これを作ってみたいという料理があったらレシピを見て、同じ材料や分量で作りますよね。絵も模写から始めるし、書道もお手本をひたすらまねる。文章も上手になりたかったら、好きな作家の文章を書き写すことから始めると、目に見えてよくなってきます」
たらればさんが文章上達のために抜き書きを始めたのは10年ほど前から。ツイッターでも抜き書きした情報は出典を明記した上で大いに紹介している。
「本にとらわれず、SNSで見つけた名文句でもいいと思うんです。素敵なフレーズを見つけたら手帳に書き写したり、スマホに打ち込んで、出典付きでSNSでつぶやいたり」
インターネットの最大の特長は、マイノリティ同士を結びつける力が大きいこと。自分の好きなことについて書き込むと、きっと仲間が見つかるし、仲間同士で盛り上がってやりとりするうちに文章も磨かれていくという。
「『「いい文章」ってなんだ? —入試作文・小論文の歴史』という新書——これ、おすすめです——に、明治37年に出版の『新撰 作文問答』という作文上達の秘訣が紹介されています。大事なのは、①書を読むこと、②暗誦すること、③抄書=抜き書きすること、④絶えず考えること。きっとこの順番も大切なんです。いい文章を書こうとすると、みなさん最初にあれこれ考えてしまいがちなんですが、考えるのは最後でいいんです(笑)」
知ってるつもりで知らない情報がツイッターでは有効。古典はその宝庫。
「『枕草子』は日本最古の随想文」という話は、もっとその面白みが広まったらいいのになーと思う。和歌はあった。物語もあった。日記もあった。でも『枕草子』が登場するまで、日本人はそうした「様式」に依らずに、「春の夜明けは最高だ」とか「水滴に映る月、超きれい」と語る手段を持たなかった。
なぜ清少納言に「それ」が出来たかといえば、それは環境的な要因や政治的要因、血統、情熱、才能といろいろな話が絡み合っているのですが、ただその結果に着目すると、『枕草子』が世に出たことで、「日本語」で表現できる「幅」が少しだけ広がったんですよね。少しだけ世界の限界を押し広げた。
それはとても偉大なことで、わたしたち日本語話者が日々、好きなように呟くとき、あるいはその限界に行く手を遮られたとき、あーここまでこれた最初のほうの一歩に、清少納言の足跡があるんだよなーと思い返すと、自分の拙い文にも彼女の息吹が感じられて、ちょっと贅沢な気分になれるのでお薦めです。