くらし

人付き合いが苦手、傷つきやすい、SNS…改めて知りたい、自分に合うコミュニケーション。

大人になっても、大人だからこそ、人付き合いの楽しさ・難しさを感じるもの。
まして様々なツールや手段が急増した今、ひと昔前と「社交」が違ってきているはず。
身内にも他人にも、言葉の伝達だけではなく、心を通わせ、気持ちの良い関係を築くには?
いま一度、初心に帰って見つめてみよう。
  • イラストレーション・山口洋佑 構成と文・板倉みきこ

Q.大人のコミュニケーションに求められる力とはなんでしょう。

A.自分の役割を理解した上で、相手を受け入れる度量が必要。

「人は誰しも、他者に受け入れられたいという願望がありますが、大人なら他者を受け入れる度量も必要です。
無理に相手に寄り添わなくてもいいのですが、自分を丸ごと受け止めてほしいと思うのは子どもの考え。
もちろん、自分らしくありのままでいることは心の安寧に必要です。でも“ありのまま”とは“そのまま”ではありません。
対人関係を円滑に育むには、自分の状況や役割を理解、認識し、周りと調和した上で、自分らしさをどう出すか、セルフコントロール力が求められるものだと思います」(公認心理師・小高千枝さん)

若い頃は価値観や社会的背景など、自分と属性がほぼ変わらない、小さなコミュニティの中で人付き合いをしていたが、大人になるとそうはいかず、意思疎通がうまくいかないことも多い。

「他人の些細な一言に傷つきやすい人ほど、相手に好意を持たなければと考えていることが多いです。苦手な人がいるのは当然なので、最初から好意を持ちすぎず、グレーな感情をイメージして、ある意味ドライに対人関係に臨んでほしいです。大人のコミュニケーションは、相手の言動全てに反応しなくても成り立つものです」(HSPアドバイザー・Ryotaさん)

ただ、年を重ねるほどコミュニケーションの基本を忘れがち、とも。

「相手を尊重して心を開いてもらい、自分の考えや思いを丁寧に伝えることが基本。親しい相手や、年下と接する時ほど忘れないでほしいです」(社員教育コンサルタント・朝倉千恵子さん)

Q.人付き合いが得意な人、苦手な人の違いを教えてください。

A.自分の性格を理解していれば、他者との適切な距離感が取れる。

コミュニケーションが上手な人とは、他者を受容し、自分の性格もしっかり理解して受け止めている人のこと。

「他者との距離感を適度に保つためには、人付き合いはこうあらねば、という思い込みを手放すこと。また、自分がどういうことが苦手で、どんな対人関係が心地よいのかを把握する必要があります。コミュニケーションが不得手だという人はそこを理解していないので、相手のペースに振り回されたり、距離感が掴めずにグイグイ行きすぎてしまうのです」(小高さん)

人付き合いが苦手だと分かっているなら、準備することも大事。

「会話の内容をある程度考えておいたり、笑顔を心がける、打ち解けてもらいやすい服装をするなど、些細なことでいいんです。人付き合いが苦手な人ほど話すことに集中し、相手ではなく自分しか見えていない傾向があります。相手にどう見えているか、どんな表情をしているか俯瞰して見ると、一方通行でないコミュニケーションができるようになります」(Ryotaさん)

そもそも、コミュニケーション力が高いかどうかは、自分ではなく関わった相手が判断するもの、と朝倉さん。

「社交的な人と比べてコミュニケーション力が低いなどと自己卑下しなくていいんです。あの人とまた会いたい、と思ってもらえるのが良好な関係性。無口でも場を和ませてくれる貴重な存在の人もいます。人柄や人間性を含めて相手への思いやりが通じれば、人付き合いはうまくいくものです」

Q.意思疎通するには、言葉以外に何が必要なのでしょうか。

A.表情や仕草など、言葉以外の全ての情報が関わっている。

コミュニケーションとは、意見や思いをお互いにキャッチボールし合って初めて成り立つもの。そこでは聞く力、リアクションが重要な鍵を握っている。

「自分が話すことより、聞くほうに力を注ぐのが大事。相手の話を理解、共感しているかをちゃんと伝えないと、キャッチボールになりません」(朝倉さん)

また、言葉以外の非言語コミュニケーションも大切な役割を担う。

「人の印象を形作る割合のうち、言葉の情報はわずか7%で、60%近くが視覚情報、約40%は聴覚情報だとする心理学の考え、“メラビアンの法則”があります。つまり、表情、仕草、態度、声のトーンなど、自分から発する全ての情報が意思疎通に関わるのです。話をするのが苦手な人は、非言語の表現で補えばいい、と考えれば少し気が楽になるのでは……」(Ryotaさん)

また、おしゃべりな人や営業力が高い人を意思疎通が上手だと思いがちだが、言葉以上に重要なのが人間力。

「ワーワーキャーキャーと盛り上がったけれど、楽しいだけで何も残っていないという関係は、若いうちはいいですが、深い付き合いを望むなら物足りなくなるはず。大人ほど、その人の醸し出す空気、安心感などから伝えられることは多いのです。仕事の付き合いなら、業績など共通の着地点があるので、どういうコミュニケーションを取るべきか分かりやすいですが、プライベートは、相手とどんな関係性を作りたいかを考え、言葉以外の雰囲気作りにも配慮したいですね」(小高さん)

Q.昔と今で、コミュニケーションに対する考え方の違いはある?

A.人との付き合い方が多様化。正解が分かりづらくなった。

様々なコミュニケーションの形が発達したことで、人との距離感、接し方に迷う人が増えたのでは、と小高さん。

「相手の情報を収集するためには聞くしかなかった昔に比べ、今は可視化された情報が増えました。そのため、“初めまして”のはずなのに、既知の仲のように馴れ馴れしく接して、失敗してしまう人もいるでしょう。また人付き合いのルールが多様化しているので、失礼と感じる度合いも人それぞれ。程よい距離感を保つのが難しい時代です」

相手が何に機嫌を損ねるかが分からないし、自分が発言した内容の揚げ足を取られないか不安で、他人の機嫌ばかり窺って疲れてしまう人も。

「核家族化の進行とSNSの発達で、基本的なコミュニケーション力が低下したことも問題。コミュニケーション力は経験で培われる部分も多いですが、言語表現にばかり注力し、雰囲気を察する力など、非言語での表現が疎かになっている気がします。そこに気づくのも大事なのでは」(Ryotaさん)

これまでの人付き合いが通用しないなら、時代に合わせ、考えもやり方も柔軟に変えていけばいい。

「例えばオンラインでの対話なら、話すことより聞き方が重要。人は自分の話を受け止めてくれる相手に心を開きます。対面ならまばたきだけでも充分でしたが、今まで以上にリアクションしないと聞いている姿を伝えられません。風を送るくらいの頷きでちょうどいいくらい。場に応じたコミュニケーション法を身に付けましょう」(朝倉さん)

Q.コミュニケーション力を上げる必要はあるのでしょうか。

A.人と意思疎通を図りたいなら、上げる努力は多少必要かも。

なぜコミュニケーションを取りたいのか、という原点に立ち返ってみよう。

「そもそも、他者とコミュニケーションを取りたいのか、というところが出発点です。人付き合いに全く興味がなければ、コミュニケーション力を上げる必要はないわけです。
でも、苦手だけど人付き合いは維持したいと思う人は、関係性をどうしたいか、どのような方向に持っていきたいかなど頑張る理由があるはずです。
ただ、人が変われば付き合い方も変わるので、これが正解というものはありません。今までと違う方法を試したり、相手と接する回数を変えたりして、居心地のいい関係を探ってみましょう」(小高さん)

無理して上げる必要はないけれど、苦手意識を持たない程度までは上げてみるといい、とRyotaさん。

「コミュニケーションが取れると自分の居場所ができるので、今より生きやすくなる可能性が高いからです」

ただ、人付き合いにおいては“ノー”を言わなくてはいけない場面もある。

「嫌われたくなくて、否定的意見を言わずに我慢してしまう人もいるでしょう。でも、相手からの評価ばかり気にしていては、結局自分が困るし、大切な時間を無駄遣いしてしまいます。
コミュニケーションの基本は、相手を説得することではなく、納得してもらうこと。どうやったら相手の心に届くかを考えながら、相手と自分の心に誠心誠意向き合うことです。その結果、対人対応力は上がりますし、居心地もよくなるのです」(朝倉さん)

Q.最近話題のHSPの人は、人付き合いをどう考えるべきですか。

A.自分の性質を受け入れ、人との距離感を見直すこと。

HSPとはHighlySensitivePersonの略。生まれつき繊細で刺激に敏感な気質を持った人のことを指すが、ここ数年、日本でもそうした気質に対する認識は進んできた。

「自分がHSPだったこともあり、心の悩みを少しでも軽くできるよう専門のカウンセラーになりましたが、HSPの人は、人付き合いでも多くの悩みを抱えがちです」(Ryotaさん)

対人関係では、他人の機嫌ばかり窺ってしまう、頼まれると断れない、空気を読みすぎて空回りしてしまうなど、抱えやすい悩みの傾向がある。

「気付きやすい性格ゆえに、他人がどう思うかを優先的に考えてしまうのが、悩みの本質にあります。この性質をネガティブに捉えがちですが、五感が鋭く、心が豊かで、物事を深く考えられるのもHSPの特徴です」

実は、5人に1人はHSPともいわれていて、多少その傾向にあるのでは、という人も含めると、自分の繊細な性質に気づかず過ごしている人は多い。

「繊細さは個性です。まずは、自分はそういう人間なんだ、と受け入れましょう。そして、苦手な人に好かれようと努力しないこと。私たちは、自分に好意を持っている人に好かれようとは思いません。既に好かれているからです。根本的に人が怖いHSPの人は、苦手な人や嫌いな人にも好かれようと頑張ってしまいます。最初から相手に好意を持たずに付き合う、率先して自分から行かなくていいと考えるだけで、今よりずっと気持ちが楽になるのでは」

Q.SNSや手紙など、対面ではない意思疎通の注意点を知りたい。

A.対面以上に気をつけたい、相手との距離の取り方。

気軽に交流を深められるSNSなどのネット上の付き合いは、対面ではないからこそ起きるトラブルや難しさもある。

「閉鎖的な空間なので、相手との距離が近いと勘違いしやすいのが問題です。対面だったら言わないような、人が傷つく言葉を発する人もいるでしょう。
自分を守るためには、ここまでならOKというラインを決めておくこと。そのラインを越えてくる人には、相手のリズムに乗らない、感情的にならないのが得策です。ただ逆上されても困るので、あくまで丁寧に接しながら、敬語だけを使うなどして適度な距離を取りましょう」(小高さん)

「HSPの場合、対面ではないほうが気楽に対話できるという人もいれば、相手の表情や本心が見えないから不安という人もいます。
ただ、どちらにも言えるのは、必要以上にSNSを使わないこと。真面目な性格の人が多いので、もらったメッセージにはすぐ返事をしなければいけないと考えたり、自分の送ったメッセージで嫌われたかも、と余計な心配をして翻弄されることが多いからです。
SNSは限られた空間での関係。ネットでの付き合いはある程度割り切り、身近な人を大切にするよう心がけましょう」(Ryotaさん)

一方、昔からある手紙はどうだろう。

「手紙は、思いを伝えるだけでなく、その人の価値観や感性をも伝えることのできる手段。思いが募って饒舌になりがちですが、話す時と同様、自分本位にならずに、読み手を思いやった長さや表現を心がけましょう」(朝倉さん)

朝倉千恵子 さん (あさくら・ちえこ)

社員教育コンサルタント

女性限定の「トップセールスレディ育成塾」を主宰。著書に『仕事も人生もうまくいっている女性の考え方』(あさ出版)など。

小高千枝 さん (おだか・ちえ)

公認心理師

心理カウンセリング、メンタルトレーニング、コーチングなど幅広い分野に精通し、「心の免疫力」を高めるセッションを提供。

Ryota さん (リョウタ)

HSPアドバイザー

HSPの人専門にカウンセリング。著書に『まわりに気を使いすぎなあなたが自分のために生きられる本』(KADOKAWA)が。

『クロワッサン』1050号より

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