忍術を学んで競争に勝ちたいということだろうか。甚川さんによると、そうではないらしい。
「勝者と敗者で成り立つシステムに限界を感じて、次の何かを見つけるために忍術を学びに来る外国人が増えているんです。善と悪、敵と味方に分ける二元論で発展してきた文明が危機に瀕していると感じる方にとって、敵も味方も一つのものと観想する忍術なり日本文化なりが新たな価値の源になる。未来への可能性として学びに来る方に忍術を広めるのが私の職業です」
少し質問を変えて一般の女性に忍術がどう役立つか聞いてみた。
「人間関係に役立ちますね。1対1の諍いにとらわれず、1対多として状況を把握することができるようになると、家庭や職場、地域などの人間関係に有効な対処がしやすくなります。忍者は相手に勝つことを考えるより、お互いを生かすことを考えるんです。敵に囲まれたとき、1人を討つことに拘泥すると横や後ろから斬られますよね。それよりも全体の把握が重要です。逃げるのが有効な場合は逃げるし、戦って敵を殲滅できたとしても係累がまた襲ってくる可能性をも考慮に入れる」