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【運動編】脳のためにできること

認知症は突然発症するのではなく、MCI(軽度認知障害)という前段階を経て、ゆっくり進行するもの。MCIは適切な対処や生活習慣の改善によって回復する症状ともいわれています。ここでは、認知症予防に効果的な運動を5つご紹介します!

イラストレーション・前田ひさえ 文・小林百合子

認知症を予防する26のアクション

「認知症予防にはクロスワードパズルのような“脳トレ”がいい」など耳にするが、脳神経内科医の内野勝行さんによると、これだけやっていればいいという予防法はないそう。重要なのは複数の取り組みを同時に行うことだという。

「脳は単一の仕組みで動いているわけではありません。血液から酸素や栄養を受け取り、神経細胞同士が情報をやりとりし、睡眠中にアミロイドβなどの不要な代謝物を排出する等、複雑で多様なシステムが絡み合って健康を保っています。パズルで神経を刺激するといった知的活動を行っていても、食生活の乱れや運動不足から脳への血流が滞ったり、睡眠不足でアミロイドβなど脳のゴミが溜まっていたりしては、脳を健康に保てません。大切なのは多角的なアプローチで脳を刺激することです」

運動して、生活習慣を整え、知的な活動もするとなると、やることが多くて、挫折してしまいそう……。

「認知症予防において、やり過ぎや無理は禁物。頑張り過ぎるとストレスホルモンがかえって脳に悪影響を及ぼしますし、そもそも脳が健康であるというのは心も体も穏やかで、生き生きとした気分を感じられる状態です。自分が心地よいと思える範囲で、楽しみながら続けることが、長続きする認知症予防の秘訣です」

【運動】筋肉を動かせば、脳もしっかり動く!

【運動編】脳のためにできること

ACTION ① 感情豊かなフラダンスで心と体をじんわり動かす

音楽とともに楽しく運動できるダンスだが、中でも内野さんがおすすめするのがフラダンス。

「息が切れるような激しいダンスは体に負担をかけてしまうので、フラダンスのようにゆっくりした動きで膝や腰などを守りつつ、効果的に有酸素運動ができるものが理想です」

加えてリラックスできる穏やかな音楽や感情豊かな表現も脳に刺激を与えてくれるそう。

「ウクレレの音色や南国の花の香りに包まれながら踊る体験は、感情を司る扁桃体などを刺激します。曲のメッセージを感じ取り、感情を交えて体を動かすことで、脳の感情を司る部分や運動ネットワークが同時に活性化します。ただ体を動かすだけでなく、心から楽しみ、笑顔で踊ると、なお脳にいいですね」

【運動編】脳のためにできること

ACTION ② 仲間と楽しむカラオケもれっきとした有酸素運動

「歌を歌う際の腹式呼吸は横隔膜を大きく上下させ、脳への血流を高めてくれます。画面の歌詞を目で追い、音程やリズムに合わせて声を出すなど、同時に様々な動作を行うことで脳の多様な部位がフル回転します」

選曲するなら懐メロがいい。

「思い出の曲を歌うと歌詞やメロディ、過去の出来事が思い起こされ、海馬が刺激されます。懐かしいという気持ちとともに感情が動くと扁桃体も活発に働きますので、おすすめです」

ACTION ③ 脳が動き、心も整うコンディショニング運動

普段あまり運動をしないという人は、穏やかな動きで筋肉の緊張をほぐして血流をよくするヨガやピラティス、太極拳などのコンディショニング運動を。

「深い呼吸とともにポーズをとったり、関節を動かしたりするヨガやピラティスは、交感神経と副交感神経の緊張を和らげ、筋肉もほぐれることで、全身の血管が広がり、脳の細部まで血液がめぐります。脳の健康を保ち、自律神経のバランスも整う一石二鳥の運動といえます」

ゆっくりした動作の中で集中力が高まる点もいいのだそう。

「体の重心や足裏の感覚などを意識して姿勢を保つ動作は脳のワーキングメモリーや体の位置情報を司る領域を働かせます。腰や膝への負担が少なく、シニア世代にうってつけです」

【運動編】脳のためにできること

ACTION ④ メリハリウォーキングで脳へ新鮮な血液を送る

ウォーキングは手軽に始められる運動の代表格。ただ、脳を活性化させるためには歩き方にポイントがある。

「認知症予防において重要なのは心拍数を上げて脳への血流を促すこと。いくら時間をかけても、ダラダラ歩くのでは効果は期待できません。ポイントは、息が弾み、少しキツイと感じるくらいの早歩き。ただ、ずっとそのスピードで歩き続けると疲れてしまい、歩くのが嫌になってしまうことも。早歩きを3分した後にゆっくり歩きを3分、それを繰り返すようなメリハリあるウォーキングが理想です」

歩く頻度も無理は禁物だ。

「脳への血流を増加させるには週に120分の有酸素運動で充分というデータがあります。それ以上過度な運動を行っても予防効果は頭打ちで、膝や腰などを痛めるリスクも出てきます。何より毎日歩くのは大変で、長続きしませんよね。1日30分を週4回など、自分に合ったペースを見つけましょう」

【運動編】脳のためにできること

ACTION ⑤ “頑張らない”筋トレで下半身の筋肉を動かす

家の中で隙間時間にできる筋トレも始めやすい運動だが、やみくもに筋肉を鍛えればいいというわけではないみたい。

「普段運動をしない人がいきなりハードな筋トレをすると、体への負担が大きく、ケガのリスクが高まるので要注意。体の中にある大きな筋肉は下半身に集中していて、太ももやふくらはぎは血液を脳へと送り返す『第二の心臓』としてのポンプ機能を担っています。下半身の筋肉を動かすことで全身の血液のめぐりがよくなり、脳に酸素や栄養を行き渡らせることができるので、そこを重点的に鍛えるのが効率的で、安全です」

頑張らない筋トレでも、下半身の筋肉を動かす方法はある。

「おすすめは『腰かけスクワット』。椅子に座り、そこからスッと立ち上がって再び腰かけるという動作を繰り返すだけで、充分に太ももの大きな筋肉を刺激できます。椅子の座面の高さによって運動量を調節できるので、無理なく続けられますよ」

頭と体を同時に動かす“デュアルタスク”運動

人間の脳は複数の課題を同時に処理する能力を持つが、加齢とともにその能力が衰えていく傾向にあるという。

「体を動かしながら会話をするなど、別のタスクを重ねて行うのがデュアルタスク運動。単一動作を行う時より脳の使用領域が広がり、認知症予防にいいとされています。階段を上りながら計算するなど、過度なタスクだと注意力が散漫になり、ケガをする危険も。手足を動かしながら歌うなど、無理なくできる組み合わせが最適です」

  • 内野勝行 さん (うちの・かつゆき)

    脳神経内科医

    金町駅前脳神経内科院長。専門医として約1万人の患者を診察し、認知症治療を行う。著書に『1日1杯 脳のおそうじスープ』(アスコム)など。

『クロワッサン』1174号より

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