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いますぐ始めたい認知症予防。脳のためにできること

親の介護に備えるのは大切だけれど、自分だっていつ認知症になるかもしれない……。認知症は突然発症するのではなく、MCI(軽度認知障害)という前段階を経て、ゆっくり進行するもの。認知症と違い、MCIは適切な対処や生活習慣の改善によって回復する症状で、認知症になるか、ならないかの重要な境界線といわれています。MCIの知識を深め、生活習慣から認知症を予防する方法を学びましょう。

イラストレーション・前田ひさえ 文・小林百合子

いますぐ始めたい認知症予防。脳のためにできること

MCIとは何か?

MCIは健常と認知症の間にあたるグレーゾーン

「認知症は80歳くらいで突然なる」と思いがちだが、実は違う。脳神経内科医として1万人以上の患者を診察してきた内野勝行さんいわく「認知症は1日にしてならず」なのだそう。

「認知機能の衰えは40代や50代から徐々に始まり、静かに進行していきます。MCIとはその段階で、健常な状態と認知症の間にあるグレーゾーンのようなものです。以前より物忘れが増えたり、周囲の人からそれを指摘されることが増えたりはするものの、日常生活にそこまで支障をきたさないので、多くの人が見逃しがちなのです」

年を重ねると、多少の物忘れは誰にでも起こりそうな気もするけど……。

「脳が活動するとアミロイドβというタンパク質が生じるのですが、これは『脳のゴミ』のようなもので、アルツハイマー型認知症を発症する原因物質のひとつです。通常は自然排出されますが、加齢や生活習慣、遺伝などによって分解・排出機能が低下し、脳内に蓄積されます。MCIの段階では脳内での蓄積が進み、20年ほどかけてゆっくりと認知症に移行します。加齢だけではなく、様々な要因が関係しますので、楽観的に捉えるのは危険です」

いつもできていたことができない!が危険サイン

自分では兆候に気づきにくいのがMCIの難点。どんなサインに気を付ければ手遅れになるのを防げるのか?

「重要なサインは『いつもできていたことができなくなってきた』という変化。洗濯機を回したはずなのにできていない、いつも作っている料理の手順がわからないなど、ただの“うっかり”ではなく、長年普通にやってきたことができないというのがポイントです」

その際、判断の助けになるもののひとつが、周囲の人からの指摘だそう。

「何かおかしい……と感じても、多くの人は『自分は大丈夫』と思い込もうとします。MCIの段階では日常生活に大きな支障がないうえ、認知症と違って何かヒントがあれば思い出せる状態なので、ついスルーしがちです。そんな時に耳を傾けてほしいのが家族や職場の人などの声。「最近、忘れっぽくない?」など、自分の変化を他者から客観的に指摘されたら、それは大きなサインです。家族などあまり近しい関係だと助言を素直に聞けず、怒ったり、言い返したりしたくなる気持ちもわかりますが……。そこは素直に受け止め、できるだけ早くもの忘れ外来や神経内科などに相談してください」

いますぐ始めたい認知症予防。脳のためにできること

きちんと予防すれば4割の人はUターンできる

認知症への移行期間であるMCIだが、全員が認知症へ進むわけではない。その分かれ道となるのが予防だ。

「MCIは脳のゴミであるアミロイドβが蓄積し始めた状態。認知症が原状回復不可能なゴミ屋敷だとしたら、MCIはだいぶ汚れて散らかってはいるものの、努力次第できれいな状態に戻せる余地のある部屋という感じです。決して手遅れではありませんし、実際にMCIと診断された人のうち、年間で約4割が健常な状態に戻っています」

脳のクリーニングをするためには、どんなことをすればいいのだろう?

「MCIの段階では記憶を司る海馬や感情に関わる扁桃体の体積が萎縮し始めます。この両者は深く関係していて、感情が動くと扁桃体がそれを海馬に伝え、長期記憶として定着されやすくなります。年齢を重ねると変化のない日常になりがちですから、感情が動くような体験、生活ができるといいですね」

ただ、それだけではダメ。

「適度な運動やバランスのいい食事、人との交流など予防法は多岐にわたります。これが一番ということはなく、日々、体と脳の両方の健康を保ち、刺激を与え続けることが欠かせません」

脳の健康チェックを日頃からすることも大切

毎年健康診断を受けていても、脳の検査もしているという人は多くないはず。内野さんは日頃から自発的に脳の健康チェックをすることを推奨する。

「自覚症状はもちろん、周囲から物忘れを指摘されたら、まずはもの忘れ外来や神経内科を受診してみてください。認知機能テストやMRIに加えて、近年はアミロイドβの蓄積量を調べる検査や、薬剤投与によってアミロイドβを取り除く治療もあります。検査や治療方法によっては費用が高くなる場合があるので、今、自分にどの検査や治療が必要なのか、担当の医師とよく相談して選択しましょう」

40代や50代で「もの忘れ外来」を受診するのは抵抗があるけれど……。

「MCIの兆候が出始めるのがまさにその年代ですから、ためらわず受診してください。『ちょっとした物忘れで病院に行くなんて……』といった遠慮や恥じらいは無用です。ただ残念なことに、勇気を出して受診しても、認知症にはまだ早いとして、適切な診療を受けられないケースもあると聞きます。MCIや若年性の認知症に積極的に取り組んでいる病院もあるので、自分で探して受診することも大切です」

いますぐ始めたい認知症予防。脳のためにできること

「認知症もどき」の症状にご用心!

物忘れが増えたと自覚し、MCIを疑うのはいいこと。でも実は別の病気が隠れていることもある。

「その代表例が甲状腺機能低下症やビタミンB12不足、更年期によるホルモンバランスの乱れ、うつや自律神経の乱れなど。これらはMCIと似た認知機能の低下を引き起こし、放置すると治らなくなる恐れもありますが、初期段階で対処すれば回復可能です」

一般的な健康診断の採血にはこれらのチェック項目が含まれていないことが多く、原因がわからないまま悪化することもあるそう。

「MCIの専門医はまだ少ないので、気になる症状がある際には、これらの病気の可能性がないか、自ら医師に問いかけて検査を依頼する姿勢を持っていたいですね」

  • 内野勝行 さん (うちの・かつゆき)

    脳神経内科医

    金町駅前脳神経内科院長。専門医として約1万人の患者を診察し、認知症治療を行う。著書に『1日1杯 脳のおそうじスープ』(アスコム)など。

『クロワッサン』1174号より

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