無理なく実践できて、認知症予防につながる。脳が喜ぶMIND食
撮影・加藤新作 文・長谷川未緒
高血圧や糖尿病を防ぎ、脳を守る食品を選ぶ
「MIND食とはMediterranean―DASH Intervention for Neurodegenerative Delayの略で、地中海食と、DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)のハイブリッドといえる食事法。積極的に摂りたい10の食品と、できるだけ避けたい5つの食品で構成されます。2015年にアメリカ・シカゴのラッシュ大学医療センターが発表し、アルツハイマー型認知症の発症リスクを下げるとされています」
と語るのは、認知症や循環器病の専門医・猪原匡史さんだ。
「地中海食」は、地中海沿岸の伝統的な食生活のこと。オリーブオイルや魚介類、全粒穀物をよく用いることで血糖値の急激な上昇を避けられるとされ、糖尿病予防と関連する多くの研究がある。「DASH食」は、高血圧予防を目的に、アメリカで考案された食事法だ。野菜や大豆製品など、カリウム、カルシウム、マグネシウムと食物繊維を多く含む食材を多く摂り、塩分(ナトリウム)の排出を促す。
これらを組み合わせたMIND食が認知症予防につながる理由は、大きくふたつ。ひとつは、糖尿病や高血圧といった認知症の発症リスクを高める病気の予防になること。もうひとつは、両方の食事法で勧められる食品・避けたい食品それ自体に、認知症への影響を示すエビデンスがあることだ。
「野菜やナッツ、オリーブオイルには、脳へのダメージである酸化や炎症を抑える抗酸化・抗炎症作用のある成分が含まれます。魚に豊富なDHAは記憶や学習をつかさどる脳の器官『海馬』に多く存在します。一方、避けたい食品には、酸化を促す物質や、糖化によって生じるAGEs(終末糖化産物)、動脈硬化につながる飽和脂肪酸、糖尿病リスクを高める糖分などが多く含まれています」
とはいえ厳密な食事制限ではないのが、MIND食の特徴だ。避けたほうがいいお菓子も、週5回以下までは許容されているなど、比較的取り組みやすい。肉と魚で迷ったら魚を選ぶといった小さな選択から始められるだろう。実際、下のグラフで示すように、MIND食の実践が中程度の人でも、アルツハイマー型認知症の発症リスクが低いことが報告されている。大切なのは続けること。1週間単位で総合的にゆるく基準を守ることがコツだ。
下の一覧は、推奨、または避けたいとされる食品群だが、このほか塩分にも気をつけたい。
「食事法は、地域や文化の違いも考慮する必要があります。MIND食はアメリカの高齢者を対象にした研究をもとにしていますから、アメリカ人の食生活が前提になっています。MIND食には塩分の基準がありませんが、日本人は塩分を摂りすぎる傾向があるため、減塩も意識してください。1日約6g以下が目安です」
MIND食の実施と 認知症発症リスク
MIND食の15項目のうち、平均9.6項目を実行したグループ(厳密に実行)は、平均5.6項目しか実行していないグループ(少し実行)に比べて、アルツハイマー病の発症率が53%も低かった。また、平均7.5項目実行したグループ(ゆるやかに実行)でも35%低かった。
(Alzheimers Dement. 2015;11(9):1007-14.)
●積極的に摂りたい食材
ナッツ類
【週5回以上】
抗酸化作用のあるビタミンEや、血管の健康維持に役立つ不飽和脂肪酸などを含むナッツ類。特にくるみには、体内で作ることのできない不飽和脂肪酸の一種、α-リノレン酸が含まれる。食塩や砂糖、油を加えていないものを選んで。
ベリー類
【週2回以上】
ブルーベリーをはじめ、いちごやラズベリーなどのベリー類には、細胞を酸化ストレスから守る色素成分、アントシアニンなどのポリフェノールが豊富。生が手に入りにくい季節は冷凍でもいいので、気軽に取り入れよう。
豆類
【週3回以上】
たんぱく質や食物繊維が多い豆類。中でも大豆のイソフラボンは、腸内細菌によってエクオールに変わり、アルツハイマー型認知症の予防効果があることが知られている。エクオールを体内で作れない人は、サプリで摂る方法も。
緑の葉物野菜
【週6回以上】
小松菜やほうれん草、春菊、ケールなどの緑の葉物野菜は、抗酸化作用のあるポリフェノールやビタミンEがたっぷり。認知機能の維持に役立つとされる葉酸、ビタミンKも。ビタミンE、Kは脂溶性なので、油と摂ると吸収率がアップ。
そのほかの野菜
【1日1回以上】
大根や玉ねぎ等の淡色野菜、きのこ類など、緑の葉物以外の野菜も積極的に。野菜に豊富な食物繊維は、腸内環境を整えるのに役立つ。腸内環境とアルツハイマー型認知症との関連は多くの研究で報告されており、「腸活」は脳の健康にも大切だ。
全粒穀物
【1日3回以上】
玄米や麦ご飯、全粒粉パン、オートミールなどの全粒穀物は、精製した穀物に比べて食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富。血糖値の急上昇を抑え、糖尿病予防にも。毎食が難しければ、五分づき米など、できる範囲で取り入れて。
魚
【週1回以上】
魚に含まれるDHAやEPAは、血管の健康維持に役立つ不飽和脂肪酸。DHAは、脳が正常に働くことにも関係する脂質だ。魚はたんぱく質やビタミンD、セレンなど、さまざまな栄養素を含むため、サプリではなく魚そのものを摂ろう。
鶏肉
【週2回以上】
肉を食べるなら、動脈硬化のリスクを高める飽和脂肪酸が多くなりがちな牛肉や豚肉より鶏肉を。MIND食では部位の指定はないが、むね肉には、抗酸化作用が強く疲労回復にも役立つとされるイミダペプチドが含まれるのでおすすめ。
オリーブオイル
【優先して使用】
オリーブオイルはMIND食のベース・地中海食を代表する食材。抗酸化作用のあるポリフェノールが豊富。主成分のオレイン酸は不飽和脂肪酸の一種で、血管の健康維持にも。認知症予防効果も報告されているので、普段の油の基本に。
ワイン
【1日グラス1杯】
ワインが推奨されるのは、酸化によるダメージを抑えるポリフェノールを多く含むため。無理に飲む必要はなく、お酒を控えたい・飲まない人は、ポリフェノールの一種であるカテキンを含む緑茶を飲もう。
●避けたい食材
赤身肉
【週4回以下】
牛肉や豚肉などは、LDLコレステロールを増やし、動脈硬化につながる飽和脂肪酸を多く含む。特に脂身は控えて。
バター
【なるべく少なく】
バターも飽和脂肪酸を多く含むため、なるべく少なく。なお、同じ乳製品でも牛乳やヨーグルトは制限されていない。
お菓子
【週5回以下】
糖分が多いものは血糖値を急上昇させ、糖尿病のリスクに。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸も、血管の健康に悪影響だ。
熟成型チーズ
【週1回以下】
飽和脂肪酸が多いチーズ。熟成することでAGEsも増えるので、食べるならフレッシュタイプのチーズを。
ファストフード
【週1回以下】
フライドポテトなどファストフードに多い揚げ物は、酸化ストレスの原因に。家庭での揚げ物も同様なので控えめに。
知っておきたい、食べ方Q&A
1回に食べる量はどのくらい?
MIND食の基準は、ナッツならひと握り、緑の葉物野菜ならひと皿など、大まかな設定で、厳密なグラム数などは決まっていません。体格によって適量も異なるため、だいたい自分の1食分を目安に。細かな量にこだわるより、無理なく続けることを優先しましょう。
おすすめの調理法はありますか?
蒸す、煮る、茹でるがおすすめ。油を大量に使う揚げ物は酸化の一因になるので控えましょう。焼く場合は、焼き色や焦げをつけすぎないこと。焦がすと、老化に関わるAGEsが生じやすくなるので、焦げの摂りすぎには注意してください。
外食などで避けたい食材を食べすぎたらどうする?
揚げ物やステーキ、甘いものを摂りすぎたからといって、週1回程度ならMIND食の許容範囲です。特別なリカバリーは必要ありませんので、食べたことを気にしすぎず、その後の1週間は控えるなど、週単位で調整を。
MIND食は中年期から始めても遅くない?
遅くありません。アルツハイマー型認知症の原因物質のひとつとされるアミロイドβは、20年かけて脳に蓄積されます。だからこそ50歳くらいから血管を健やかに保ち、酸化や炎症などによる脳へのダメージを抑えるMIND食を意識して取り入れることが大切です。
『クロワッサン』1174号より
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