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星に導かれて故郷を歩く、心理占星術研究家・鏡リュウジさんの不思議な京都

鏡リュウジさんは京都出身。幼い頃に連れられた寺、あるいはお付き合いのある神社など、星をテーマに歩く、ちょっと不思議な地元の物語。

撮影・吉村規子 イラストレーション・佐藤昌美 着付け・服部有樹子、髙尾和美、服部青海(服部和子きもの学院) 構成&文・堀越和幸

【左京区】鞍馬寺(くらまでら)

鞍馬山は2億数千年前にプレートが重なりあってできた山。本殿前の金剛床に立つ鏡さん。この日は染めの着物で登場
鞍馬山は2億数千年前にプレートが重なりあってできた山。本殿前の金剛床に立つ鏡さん。この日は染めの着物で登場

幽玄な山の自然が放つ、宇宙のエネルギーの神秘

標高584メートルの鞍馬山に鎮座するお寺。本殿前の床には六芒星(ろくぼうせい)が描かれていて(上写真)、ここを訪れる多くの参拝客はその中心に立ち、天を仰ぐ。

「そうすることで宇宙とつながるとされていて、京都屈指のパワースポットとして信じられています」と語るのは、小さな頃から鞍馬寺に慣れ親しんできた、心理占星術研究家の鏡リュウジさんだ。今回、鏡さんはその真偽を確かめるために、鞍馬寺の僧侶・信樂香之(しがらきこうし)さんを訪ねた。

「あくまでも一説としてお話をしますが」と前置きをしながら信樂さんは ──。「鞍馬寺は650万年前に金星から護法魔王尊という神様が降り立ったと伝えられています。その時代はちょうど人類が地球に現れた頃、つまり魔王尊は人類救済のためにこの地球にやってきたのです」

魔王尊が降臨したのは、本殿よりもさら に山の奥深く、奥之院魔王殿の磐座
魔王尊が降臨したのは、本殿よりもさら に山の奥深く、奥之院魔王殿の磐座

本尊に祀られるのは、この魔王尊と毘沙門天、そして千手観音の三身(さんじん)を一体とした、“尊天”と称される宇宙生命だ。
「尊天は特別な何かではなく、森羅万象、木や花や人間や動物、土や雨、あらゆるものに顕現するもので、そうした“いのちの環”に人間も生かされている、というのが私たちの考え方です」

「ある種の生態系信仰ですね。鞍馬山自体がその象徴なのですね」(鏡さん)

「はい。魔王尊は鞍馬山のパワーを具現化した形ともいえます」(信樂さん)

山道で出合う小さな自然と命、その命は宇宙規模で自分とつながっている。

信樂さんが語る寺の歴史について耳を傾ける鏡さん
信樂さんが語る寺の歴史について耳を傾ける鏡さん
毘沙門天の使い、狛犬ならぬ狛虎が本殿を守護する
毘沙門天の使い、狛犬ならぬ狛虎が本殿を守護する
信樂さんが語る寺の歴史について耳を傾ける鏡さん
毘沙門天の使い、狛犬ならぬ狛虎が本殿を守護する

鞍馬寺
住所:京都市左京区鞍馬本町1074
TEL:075-741-2003
叡山電車「鞍馬」駅から仁王門まで徒歩3分

星に導かれて故郷を歩く、心理占星術研究家・鏡リュウジさんの不思議な京都

【上京区 】大将軍八神社(だいしょうぐんはちじんじゃ)

平安~鎌倉期に造られた80体のご神像。春と秋の年2回、特別公開が
平安~鎌倉期に造られた80体のご神像。春と秋の年2回、特別公開が

時空を超えて圧倒的な気高さで語りかけてくるご神像

創建は平安京遷都の年、延暦13(794)年。鏡さんからの事前情報によれば“大将軍”とは星の神様で、ここには80体ものご神像が祀られているのだという。宮司の生嶌(いくしま)宏盛さんを訪ねた。

「陰陽道では大将軍は金星を司る神様ともされ、当時は朝廷の貴族や公家、武士などに広く信仰されていました。この神社がある土地は平安京の北西角“天門”にあたり、陰陽道のお堂として建ったのが始まりです」

“天門”とは神が降りてくる場所の意で、大将軍は平安の大内裏の天門に現れた
“天門”とは神が降りてくる場所の意で、大将軍は平安の大内裏の天門に現れた

が、その後、時を経て明治維新を迎えると廃仏毀釈の動きで、全国にあった多くの大将軍は渡来系という理由だけで次々に破壊された。生嶌さんの5代前の宮司は、かろうじてご神像を土の中に埋めてかくまったのだという。

ご神像の前に立った鏡さんは、「お堂の中で80体の大将軍様に囲まれると、見ているのではなく逆に見られているような感じを受けます。以前、イギリスのベテラン占星術家をこちらに案内した時には、文化が違うのにそのありがたさに涙ぐんでいました」

そして、と鏡さんは続ける。
「そのことは人類の普遍性と多様性を語っている気がします。どこの国の人もみんな星の下でつながってきた。今の世の中に必要な考え方だと思います」

本殿前に立つ鏡さんと宮司の生嶌さん
本殿前に立つ鏡さんと宮司の生嶌さん
江戸時代の初代天文方・渋川春海が研究に使用した天球儀。宝物庫「方徳殿」では貴重な天門資料も収蔵
江戸時代の初代天文方・渋川春海が研究に使用した天球儀。宝物庫「方徳殿」では貴重な天門資料も収蔵
本殿前に立つ鏡さんと宮司の生嶌さん
江戸時代の初代天文方・渋川春海が研究に使用した天球儀。宝物庫「方徳殿」では貴重な天門資料も収蔵

大将軍八神社
住所:京都市上京区一条通御前通西入3丁目西町48
TEL:075-461-0694
市バス「北野天満宮前」停留所から徒歩約5分

星に導かれて故郷を歩く、心理占星術研究家・鏡リュウジさんの不思議な京都

【伏見区】本教寺(ほんきょうじ)

本教寺は十二支の中でも午の方角(南)に当たる。寺の創建は文禄3(1594)年
本教寺は十二支の中でも午の方角(南)に当たる。寺の創建は文禄3(1594)年

妙見様という“星”が人間に発信してくれるメッセージ

本教寺がある伏見の大手筋(おおてすじ)は、鏡さんが小学生まで住んでいた街だ。
「本教寺さんは商店街の中にぽこっと現れる小さなお寺さん。まだ小さかっので、行った記憶はないのですが」

その本教寺さんでは“洛陽十二支妙見めぐり”なるお参りが行われている。鏡さんによれば、京都御所を護るために十二支の方角に“妙見様”を祀ったのがその起源ということだが……。住職の佐藤文則さんに話を聞いた。

「十二支の社寺に祀られた妙見めぐりは、江戸時代まで流行していました。妙見様とは北極星や北斗七星の象徴です。私たちはよく生まれながらに星を持つ、などといいますね。妙見様は、私ちの運気を司る星の仏様なんです」

かつて舟乗りは、星を手がかりにしながら、妙見様を乗せて海を渡った
かつて舟乗りは、星を手がかりにしながら、妙見様を乗せて海を渡った

当時、隆盛を極めた妙見信仰は明治時代にはやがて廃れたが、近年は折からの御朱印ブームにも後押しされて、巡礼が復活することになる。ご利益としてはどんなことがあるのか?
「眼病にいいといわれます。夜空の星を見て目の病気を治す、という話を聞いたことがありませんか? それと江戸時代の舟乗りは星を目印に自分の位置を知ったので、妙見様を舟に乗せていたという話も聞きます」(佐藤さん)

それを聞いた鏡さんは深く頷く。
「スターナビゲーションといって、その伝統的な航海術は今なお利用されていると聞きます。星は様々なメッセージを発信しているんですね」(鏡さん)

刀を横に構えた“能勢型”と呼ばれる妙見様の坐像。妙見様のお姿は坐像と立像(りゅうぞう)に大別される
刀を横に構えた“能勢型”と呼ばれる妙見様の坐像。妙見様のお姿は坐像と立像(りゅうぞう)に大別される
佐藤さんの説明に聞き入る鏡さん。取材はかつての商店街の様子などの雑談にも、話に花が咲いた
佐藤さんの説明に聞き入る鏡さん。取材はかつての商店街の様子などの雑談にも、話に花が咲いた
刀を横に構えた“能勢型”と呼ばれる妙見様の坐像。妙見様のお姿は坐像と立像(りゅうぞう)に大別される
佐藤さんの説明に聞き入る鏡さん。取材はかつての商店街の様子などの雑談にも、話に花が咲いた

本教寺
住所:京都市伏見区東大手町778
TEL:075-601-2237
京阪電車「伏見桃山」駅から徒歩3分

星に導かれて故郷を歩く、心理占星術研究家・鏡リュウジさんの不思議な京都

美味しい羊羹をお土産に、近所の名店に立ち寄り

「富翁」を使った酒羊羹〈ほろよい〉。842円
「富翁」を使った酒羊羹〈ほろよい〉。842円

大手筋の商店街からほど近く、江戸時代は天明元(1781)年創業の和菓子店『伏見駿河屋本店』。

「昔は羊羹といえば蒸しものでしたが、江戸時代に伏見で寒天が発見され、日持ちする羊羹を作って以来、京土産として定着しました」(代表取締役・山本高宏さん)

伏見駿河屋本店 住所:京都市伏見区下油掛町174 TEL:075-611-0020 営業時間:9時3…

伏見駿河屋本店
住所:京都市伏見区下油掛町174
TEL:075-611-0020
営業時間:9時30分~18時 
定休日:月・火曜

鏡さんが選ぶ、星にまつわる立ち寄りスポット

【中京区】アスタルテ書茶房

店主の西條さん(右)と。古書の売買はもちろん、珈琲やお酒も楽しめる
店主の西條さん(右)と。古書の売買はもちろん、珈琲やお酒も楽しめる
サドの翻訳などで知られる文学者・澁澤龍彦もかつて訪れた
サドの翻訳などで知られる文学者・澁澤龍彦もかつて訪れた
この日、鏡さんが選んだ本は、 種村季弘(たねむらすえひろ)『悪魔礼拝』とジョルジュ・バタイユの『眼球譚』
この日、鏡さんが選んだ本は、 種村季弘(たねむらすえひろ)『悪魔礼拝』とジョルジュ・バタイユの『眼球譚』
店主の西條さん(右)と。古書の売買はもちろん、珈琲やお酒も楽しめる
サドの翻訳などで知られる文学者・澁澤龍彦もかつて訪れた
この日、鏡さんが選んだ本は、 種村季弘(たねむらすえひろ)『悪魔礼拝』とジョルジュ・バタイユの『眼球譚』

賑やかな街中に現れる、本とお茶の不思議な異空間。

マンションの一室、壁一面、天井にまで埋め尽くされた本。もともとは古書店だったが、先代店主・佐々木一彌さんの死、その遺志を引き継いで店を続けていた妻の引退をきっかけに、現店主の西條豪さんが蔵書と空間を古書店+カフェとして復活させた。「扱っている本は以前からあった古書を主軸に、幻想文学や美術書が多いです。店の名付け親は仏文学者の生田耕作さんで、先代の時代には毎週ここに来ては弟子たちと文学談議をしていたと聞きます」(西條さん)。

今は東京の生活が中心の鏡さんだが、京都に帰ればここに立ち寄る。

「アスタルテとはバビロニアの女神で金星が支配星といわれています。ここは僕にとっての幻想空間。稀覯(きこう)本との出合いも楽しみ」(鏡さん)

アスタルテ書茶房
住所:京都市中京区丸屋町332-202 御幸町ジュエリーハイツ 2階 202号室
TEL:075-252-8787
地下鉄東西線「京都市役所前」駅から徒歩3分

【伏見区】伏見稲荷大社

外拝殿に吊るされた12の灯籠。「並ぶ順番は12星座の順ではないんですよね」(鏡さん)
外拝殿に吊るされた12の灯籠。「並ぶ順番は12星座の順ではないんですよね」(鏡さん)
鉄製の灯籠は平野英青作。十二宮の一つ「双魚宮」は、鏡さんの誕生星座・魚座でもある
鉄製の灯籠は平野英青作。十二宮の一つ「双魚宮」は、鏡さんの誕生星座・魚座でもある
外拝殿に吊るされた12の灯籠。「並ぶ順番は12星座の順ではないんですよね」(鏡さん)
鉄製の灯籠は平野英青作。十二宮の一つ「双魚宮」は、鏡さんの誕生星座・魚座でもある

神道なのに12星座占い?の不思議に迫ってみると

伏見稲荷大社に出かけた折、鏡さんはあることに気づいた。外拝殿(げはいでん)の軒にぐるりと、12星座のシンボルが象られた灯籠が吊るされているのだ。「12星座占いのモチーフが神道である神社に飾られているのは珍しいです。どんな意味が込められているのか?」その点について、周辺取材を試みると以下のようなことがわかってきた──。

吊るされた十二宮は星占いの観点ではなく、太陽が一年をかけて巡る道を12に分け、季節の移ろいや自然の循環を象徴的に表した意匠である。伏見稲荷大社における十二宮の考え方は、稲の成長を祈る稲荷信仰と通じるもので、五穀豊穣を願う奉納として掲げているらしい。ちなみに灯籠自体は明治39年に奉納されたとのこと。

伏見稲荷大社
住所:京都市伏見区深草藪之内町68
TEL:075-641-7331
JR奈良線「稲荷」駅から徒歩5分

  • 鏡リュウジ さん (かがみ・りゅうじ)

    心理占星術研究家、翻訳家

    1968年、京都府生まれ。10代よりさまざまなメディアで活躍。英国占星術協会会員、京都文教大学客員教授。著書多数。

『クロワッサン』1161号より

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