古墳の時代(1)──帽子作家、イラストレーター・スソアキコさん×古墳シンガー・まりこふんさん
撮影・青木和義 イラストレーション・スソアキコ 文・嶌 陽子 構成・中條裕子
「古墳を巡っていると、毎回新しい発見があるんです」
右:スソアキコ(すそ・あきこ)さん 帽子作家、イラストレーター。帽子作家として活動しながら、考古に関する書籍・雑誌の挿画やイラストを描く。著書に『スソアキコのひとり古墳部』など。
「1500年の時を超えて、出合えた奇跡に感動します」
左:まりこふんさん 古墳シンガー。「古墳にコーフン協会」会長。古墳巡りの楽しさを伝えるべく、TVやラジオなどにも多数出演。著書に『まりこふんの古墳ブック』など。
「特別な場所にある遠い存在」というイメージが強い古墳。実は全国各地にあり、その数はコンビニより多いことをご存じでしたか? 今回は、東京・代官山にある猿楽塚(さるがくづか)古墳から、古墳愛好家による対談をお届け。全国の古墳を訪れている2人が、その面白さや楽しみ方を熱く語り合います。
まりこふんさん(以下、まりこふん) まずは読者の皆さんのために、古墳とは何かをおさらいしておきましょうか。
スソアキコさん(以下、スソ) 古墳とは3世紀中頃から7世紀にかけて、権力者や身分の高い人が埋葬されたお墓のこと。土を盛り上げた墳丘を持つものと、崖や斜面を利用した横穴墓があります。
まりこふん 北海道から鹿児島まで、全国に16万基ほど、コンビニの3倍ほどあります。東京にも、この猿楽塚古墳のように、残っているものがけっこうありますよね。スソさんはそもそもどうして古墳に興味を?
スソ 幼少の頃「因幡の白兎」や「海彦山彦」が大好きで。少し大きくなってから『古事記』を読んで、ここに書かれていた神話だったんだとわかったんです。夢中になって、登場する神さまの家系図を作ったりしてました。
まりこふん 神話は面白いですよね。
スソ 大学生の時には諸星大二郎さんの『暗黒神話』という漫画を読み、神話と実際の場所が結びつくようになって。その後イラストレーターになってから、たまたま美術仲間と『暗黒神話』の話になって熱が再燃。みんなでいにしえの世界を巡る古墳部を結成して全国の古墳を回っていたんですが、そのうちメンバーの予定が合わなくなったりして、私が「ひとり古墳部」として活動を始めたというわけです。
まりこふん 初めて訪れた古墳は?
スソ はっきり記憶していないんですが、初期に福岡県の竹原古墳を見て、度肝を抜かれたのはよく覚えてますね。
まりこふん 竹原古墳! 内部に絵や模様が描かれている装飾古墳のひとつですよね。今見てもかっこよくておしゃれなデザイン。惚れ惚れします。
前方後円墳のほか、円墳と方墳が重なっているような上円下方墳、直線的な前方後方墳もある。ほかにも円墳、方墳、帆立貝形古墳など多様。
仁徳天皇陵古墳を訪れた帰り歌が1曲降りてきた
スソ まりこふんさんは、どうやって古墳と出合ったんですか?
まりこふん 私はシンガーソングライターとしてライブで大阪へ行った時、空き時間に観光しようくらいの軽い気持ちで仁徳天皇陵古墳に行ったんです。前方後円墳の鍵穴の形が見えると思っていたら大きすぎて見えないし、中にも入れない。仕方なく近くの博物館に入ったら、仁徳天皇陵古墳は世界3大墳墓の一つと知って驚きました。
スソ エジプトのクフ王のピラミッド、中国の秦の始皇帝陵と並んでね。
まりこふん こんなにすごいものがあまり注目されていないのはもったいないと思ったし、全貌を見られなかったのが悔しくて。そんな気持ちで帰りの電車に乗っていたら、1曲降りてきたんです。それが以前、スソさんにも聞いてもらった〈麗しの仁徳陵〉。「どこから見ても貴方は見えない こんなに近くにいるというのに」という歌です。
スソ すごくいい曲でした。
まりこふん その後、ふと小学生の時に社会科見学で埼玉(さきたま)古墳群に行ったことを思い出して。当時は興味を持たなかったんですが、再び訪れてみて感動しました。約1500年もの間、いろんな時代の人たちがこの古墳を見てきたし、古墳も時代の移り変わりをずっと見てきた。その古墳さんに今自分が出合えているのは奇跡だ!って。それ以降、仕事で各地を訪れるたびに近くの古墳を訪れるようになって、古墳ソングもすでに50曲ほど作りました。
スソ 仕事とセットにして古墳巡りをしてるのは私も同じ。古墳って、行ってみるとすごくいい場所につくられていることがわかりますよね。水が豊かで景色もよくて、いい気に満ちている。きっと住みやすい場所に人が集まって集落を作り、米作りをした。そういう人たちが古墳をつくったんだろうと思います。古墳づくりは集落の団結の証しだったという説もありますし。
まりこふん 千数百年も崩れないで残っている古墳もあるということは、やっぱり場所がいい証拠なのかも。
スソ 私が好きな古墳は、大体立地がいいんです。たとえば富山県氷見市の柳田布尾山(やないだぬのおやま)古墳からは、右手に日本アルプス、左手に能登半島が見える。古墳、ここにつくるべき!という場所です。長野県の森将軍塚古墳も山の上。きっと麓の集落を見渡せる場所を選んだんでしょうね。
まりこふん 私も森将軍塚古墳は大好き。絶景が見られますよね。
スソ 私と同じ名前の、石川県の須曽蝦夷穴(すそえぞあな)古墳も石室(古墳内部につくられた、遺体を納めるための部屋)から見える海の景色がきれい。この辺りは船の行き交う地で、それを統括していた豪族の墓といわれています。
富山
柳田布尾山古墳(前方後方墳)
日本海側最大の前方後方墳。能登半島や日本アルプスを望める立地も魅力。古墳時代に富山湾の海上交通を掌握した有力者の墓といわれている。
長野
森将軍塚古墳(前方後円墳)
古墳時代前期の4世紀につくられたとされる全長約100mの前方後円墳を復元したもの。山の上にあり、周囲の山々や麓の街並みを眺められる。
石川
須曽蝦夷穴古墳(方墳)
七尾湾内の能登島にある一辺約18mの方墳(正方形の古墳)。古墳時代の終わりにつくられたとされていて、朝鮮半島の墳墓に通じる特色を持つ。
まりこふん スソさんは景色萌えなんですね。私は形萌え、墳丘萌え。古墳の中で一番好きな熊本のオブサン古墳は、形がスフィンクスみたいで、むちっとしていて可愛いんです!
スソ 形でいうと、私は群馬の綿貫観音山(わたぬきかんのんやま)古墳も好き。前方後円墳で、全体のフォルムが本当にきれいなんです。墳丘に登ることができて、そこからの山の景色もすばらしい。
まりこふん 博物館もあるし、石室にも入れる。全てを兼ね備えている、パーフェクト古墳ですよね。
スソ 古墳ビギナーにもおすすめです。
まりこふん 古墳といえば前方後円墳が有名ですが、実は円墳、方墳など10種類以上の形があるのも古墳巡りをするようになって知ったこと。東京の熊野神社古墳は、全国でも珍しい上円下方墳です。丘や山に穴を開けてつくった横穴墓も面白い。大阪にある高井田横穴群は、石を組み合わせたのではなく、崖を掘り込んだもの。当時の古墳ビルダーたちはすごいものをつくったなと驚きます。
熊本
オブサン古墳(円墳)
6世紀後半につくられたとされる円墳。突堤(石室入口両脇の突き出た部分)を備えているのが特徴。石室内部を柵越しに見学することができる。
群馬
綿貫観音山古墳(前方後円墳)
6世紀後半につくられた、全長97.2mの前方後円墳。墳丘から埴輪群が出土し、近くの群馬県立歴史博物館で見ることができる。雄大な景色も魅力。
東京
武蔵府中熊野神社古墳(上円下方墳)
下部が四角、上部が円となっている立体型の上円下方墳は、現在全国で数基しかない貴重な古墳。表面を葺石が覆っている。「造形美に魅了されます」
大阪
高井田横穴群(円墳)
6世紀中頃〜7世紀前半にかけてつくられたとされる横穴墓群。調査により約160基の墓が確認されている。一部の横穴からは壁画が見つかっている。
次々と疑問が生まれてきて、謎解きをしたくなる
スソ 古墳を巡っていると、毎回新しい発見があります。東京の多摩川台古墳群に行った際には、古墳展示室で鈴鏡(鏡のふちに複数の鈴がついた銅鏡)や「武蔵国の造の乱」のことを知って、今度は群馬県立歴史博物館へ行ったんです。そこで解決すると思っていたのに、逆に疑問が増えて……。そうやって古墳の沼にハマってしまったんです。
まりこふん 奥が深すぎて、キリがないですよね。一度行った古墳を再訪しても、また違う気づきがありますし。
スソ わからないことは博物館や資料館の人に聞けば、いろいろ教えてくれたり調べてくれたりしますしね。またそこから違う疑問が生まれるけど(笑)。
まりこふん 私は古墳に行くと、その時代にタイムスリップした気分になる。すると、謎が山のように出てくるんです。自分が古代人だったら、この古墳はどんなふうに見えたのかなとか、どうやってつくってたんだろうとか。
スソ こんなに大きなものをなぜつくったのかを、知りたいと思いますよね。私は謎解きが好きなので、そこが自分が感じている古墳の魅力かも。
まりこふん 私にとって、古墳はインスピレーションをくれる存在。特に私が“野良古墳”と呼んでいる、誰にも気づかれないような古墳に行くと、「こんなところまでよく来てくれたね」と言われている気がして。自分の中で、その古墳と特別なつながりを感じるんです。そんな時に、新しい曲が降りてくることもあります。
スソ 昔は「なぜ、お墓なんかに行くの?」と言われることも多かったけど、最近は古墳界も盛り上がってきた気が。
まりこふん 各地で古墳祭りやイベントも開かれていて、私も古墳ソングを歌わせてもらっています。かわいいグッズを売ってることもある。
スソ 調べてみると、自分が住んでいる地域にも意外と古墳があったりするので、そこに足を運んでみるのもいいかもしれませんね。
『クロワッサン』1171号より
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