考察『豊臣兄弟!』24話 どうする村重(トータス松本)!望まぬ結末に涙する小一郎秀長(仲野太賀)。
文・ぬえ イラスト・南天 編集・小池貴彦
ここで逃亡!?
播磨平定戦が終結した24話。
小一郎(仲野太賀)が多くの犠牲を前に、己の無力さを痛感する回となった。
天正6年(1578年)、荒木村重(トータス松本)が織田から離反したことから始まった有岡城(現・兵庫県伊丹市)の戦い。
荒木側が籠城してから10ヶ月が経った。
小一郎の働きにより有岡城への兵糧補給は絶たれ、村重が降伏勧告に応じるところまであと一歩というところまできた。
妻・だし(山谷花純)の手を握り「この命に代えても、そなたのことは守る」と心を込めて誓う村重だったが、ひそかに城を抜け出し逃亡してしまう。
眼前の敵、味方の兵、肉親、そして妻。何もかも投げ出して。
荒木村重の有岡城脱出は一体どんな目的があったのかは不明である。
史実ではこの後、嫡男・村次の守る尼崎城(現・兵庫県尼崎市)に入っているので、そこで態勢を立て直し毛利方の援軍を待つ計画であったなどの説があるが、ドラマではただ恐れて逃げた。
真相はわからないが、織田軍は村重が尼崎城に入った後にも使者を送り、降伏を促している。
尼崎城と同じく荒木方である花隈城(現・兵庫県神戸市)を開城すれば、有岡城に残された妻子たちの命は助けるという条件だったが、村重は降伏・開城を拒否。
使者の荒木久左衛門らは村重の重臣であり、有岡城に妻子を人質として残したまま尼崎城に入ったのだが、説得に失敗した後に逃亡してしまった。
見捨てられた妻子たちに降りかかった災禍が、のちの荒木村重という武将の悪名を決定づけている。
今楊貴妃と称された妻・だし
「おのれ、村重ぇ!」
ドラマで怒り狂い泣くだしの姿は、妻子たちの悲憤を代弁するものだろう。
七松(兵庫県尼崎市)では人質となっていた女子供や家臣ら、600名以上が処刑された。
だしと残された一族36名は、京の都で引き回されたのち六条河原で斬首となった。
処刑場の場面。毅然と振る舞うだしが、ふと見上げた空に飛ぶ二羽の鳥。
天にあらば比翼の鳥、地にありては連理の枝とならん──。
玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋を謳った、白居易の『長恨歌』を連想する場面だ。
だしは「今楊貴妃」と称されたと現代に伝わる。その美貌だけでなく、結果として夫に殉じて死ぬこととなったゆえだろうか。
鳥を目で追い、だしは微笑む。
「殿。それでもお慕い申し上げておりました」
それは村重への赦しだったのか。最期の瞬間まで愛し抜いた者だけが浮かべられる笑みなのか。
だしは処刑場に行く前にいくつも歌を詠んだが、その内の一首が辞世とされる。
磨くべき心の月の曇らねば光とともに西へこそ行け
(心の中の月は磨いて曇りはありません。その月光とともに西方浄土へ行きます)
澄んだ月光のように、凛とした女性──だしの最期である。
荒木村重は、尼崎城、花隈城を経て毛利領に脱出。
尾道(現・広島県尾道市)に隠れ住んだという逸話がある。その後、歴史上は茶人・道薫(どうくん)として現れるのだが、ドラマでは再登場はあるだろうか。
出てきたら視聴者から「どのツラ下げて現れたんだ」とブーイングが飛びそうである。
ずるく弱く、人間の嫌なところを表現する、そういう意味で魅力的な荒木村重だと思う。
妻女たちを見ていた目
有岡城合戦の悲惨な決着に、咽び泣く小一郎。
「儂はこんな結末にはしとうなかった」
『信長公記』には、見せしめとして処刑される妻子の嘆きと悲鳴に
「気丈な武士でも涙も流さぬ者はいなかった」
「処刑を見た人は20日も30日も、成敗された妻女たちの顔が浮かび忘れられなかった」
と記される。
『信長公記』の著者、太田牛一は織田信長の家臣で、羽柴兄弟と同時代を生きた武将である。その著述には伝聞や脚色、加筆もあるだろうから、書かれたことが当時の全てだとは言いきれない。だが乱世とはいえ、女子供の犠牲に胸を痛めた武将の存在を、これらの記述に見るのである。
嗚咽する小一郎を、秀吉(池松壮亮)が諭す。
「傲慢じゃ。何もかもが思った通りにはならぬ、それが戦じゃ」
「お前がやらねば より多くの血が流れたであろう」
「助けられなかった命があるのと同じく、救えた命があることを忘れてはならぬ。自分を責めるな、小一郎」
竹田城戦で一滴の血も流さぬ戦を目指した小一郎だったが、その後の播磨での戦は惨劇の繰り返しとなった。
籠城戦で味方の戦死者を最小限に抑えたことを、せめてもの救いとせねば──歴史の激流に押し流される命を前に、できることは限られている。
秀吉の静かな口調は兄としてだけでなく、一人の武将としての重みがあった。
帰還した官兵衛の容貌は…
播磨攻めで残るは、別所一族が籠城する三木城(現・兵庫県三木市)。
織田信長(小栗旬)の嫡男・信忠(古関裕太)は殲滅戦で一気に攻め落とすよう秀吉たちに命じる。
が、そこに現れたのは小寺官兵衛(倉悠貴)!
「三木城を力で落としてはなりませぬ!」
歴代大河ドラマでは、小寺官兵衛は、劣悪な環境で幽閉されていたことから、容貌がすっかり変わってしまった姿が描かれた。
1996年『秀吉』では伊武雅刀演じる官兵衛は独眼竜正宗のような眼帯を着けていた。
2014年『軍師官兵衛』、岡田准一の官兵衛も顔に瘡痕が残った。
いずれも精悍さが増して「地獄から戻った男」を強く印象付けていたと思う。
今回はツヤツヤピカピカ、左足以外は形状記憶合金並みに綺麗に戻っているので驚く。
ただし、小寺官兵衛が狭く不衛生な牢に繋がれていたため足腰が不自由になった、顔に瘡痕が残ったというのは大正時代に書かれた官兵衛の伝記物語、『黒田如水伝』(金子堅太郎著/大正5年刊行)よりも前の書籍には記述が見当たらないのだという。
なので、今回の姿にも十分根拠はある。
官兵衛の必死の説得はこうだ。
播磨の名家・別所を無慈悲に攻め滅ぼしては、播磨の民の心が織田から離れる。別所に情けをかければ、国衆は織田を信頼し播磨平定に繋がるだろう。
こうした言葉に信忠は折れ、三木城の差配は秀吉に任される。
官兵衛が「黒田」と改めた背景
亡き竹中半兵衛(菅田将暉)を思わせる緑の布が張り巡らされた場面での、羽柴兄弟と官兵衛の対話。
ここで、小寺官兵衛が黒田官兵衛にクラスチェンジする。
小寺とは、もとは官兵衛の祖父の代から仕える戦国大名・小寺氏の姓。
官兵衛の父、黒田職隆(もとたか)が主君・小寺政職(まさもと)の養女を正室として迎えたことから、小寺姓を名乗った。
小寺政職は荒木村重の織田家離反に呼応して毛利方に寝返っている。
官兵衛は主君を見限り、羽柴秀吉に仕えることにした。であるから、元の姓・黒田に戻る。……ここまでの流れが、
「これよりは小寺ではなく、黒田官兵衛としてお仕えいたしまする!」
この台詞に集約されているのだ。
ちなみに、小寺政職はこの翌年、拠点とした御着城(現・兵庫県姫路市)を織田軍に攻められて敗走。毛利領の鞆の浦(現・広島県福山市)で、足利義昭(尾上右近)に仕えた。
足利義昭はドラマには出てきていないが、元気だ。
官兵衛は、牢の中で死ぬことばかりを考えていたが、半兵衛が引き留めたと語る。
「我らにお味方いただきたい」。
遺された言葉と、嫡男・松寿丸(森優理斗)が救われた恩。
黒田官兵衛という頼もしい味方を得て、羽柴兄弟は播磨攻めの総仕上げにかかる。
家臣を救う城主もあり
三木城籠城戦。
天正6年3月(1578年5月)に別所氏が織田に反旗を翻してから、2年近く経っている。
城内には兵だけでなく別所に味方する国衆とその家族、織田勢に抵抗する浄土真宗の門徒など、約7500名がいた。
羽柴軍の包囲によって毛利からの補給が絶たれ、飢餓に陥った。
城内の人間は兵糧が尽きて馬を食べ、雑草、土壁すら食べたと伝わる。餓死者の遺骸が山と築かれて、その肉を口にする者まで現れた。
後に「三木の干殺し(ひごろし)」と呼ばれる戦であった。
羽柴兄弟と官兵衛は、三木城に降伏勧告に赴く。
城主の別所長治(下川恭平)の一族の切腹と引き換えに、他の者達は助けるという条件を提示したのだ。
城主長治の叔父・別所賀親(よしちか/田中美央)は最後まで抗うが、長治は
「最後くらいは儂が決める」。
雨に打たれて涙する長治。
今はただ恨みもなしや諸人の命に替わる我が身と思へば
(今は恨みはない。皆の命と引き換えになる私なのだ)
辞世の句を詠んだあと、三歳の我が子と妻を道連れに自害。弟の友之ら一族も後を追った。
叔父の賀親は抵抗したが、家臣に切腹させられたという。
織田と毛利の争いに翻弄された若き城主が、最後に誇りを見せて三木城合戦は終わりを告げた。
荒木村重が逃げた故に残された一族と家臣が悲惨な最期を遂げた有岡城。
別所長治が切腹することで家臣たちが救われた三木城。
ふたつの城の対比で描かれたが、いずれの籠城戦も悲劇であったことは変わりはない。
漫画的展開、加速!
ところで、この後の場面。
毛利輝元(濱正悟)とゆかいな親戚たちwith安国寺恵瓊(立川談春)。
蠟燭の数が多すぎて、話が頭に入ってこない。燭台だけでなく手燭まで置いてる。
多いだけでなく近い。人物が立ち上がった拍子に袂で蠟燭を倒してしまうのではないか。
一体なんだったんだ……アニメやヒーロー戦隊の敵組織的なイメージだろうか。
24話は官兵衛が戻ってきた場面に舞う羽根といい、同じく官兵衛と羽柴兄弟の場面で画面を横断する緑色の謎布といい、舞台的というか漫画的な演出が特に目立っていた気がする。
羽柴兄弟は、長浜城(現・滋賀県長浜市)に戻ってきた。
官兵衛と松寿丸の父子の再会に、秀吉の言葉「救えた命があることを忘れてはならぬ」を思う。失われた命は数知れず、だが確かに救われた命がここにある。
それでも、小一郎は出迎えた妻・慶(吉岡里帆)に問う。
「儂は変わってはおらぬか」
その問いに、慶は一瞬胸が詰まった様子だ。
慶は、小一郎が播磨で目にした悲劇、流された血によって自分が冷酷な武人になってしまったのではと怯えているのだと悟る。安心させるように微笑んで、手を握った。
「何があっても、あなたはあなたです。私たちの大事な旦那様です」
ホッとして、ようやく心から笑うことができる小一郎。
全てが終わったとは言えない。戦は続くのだが、束の間の安らぎを得る。
一方その頃、安土城の織田信長の傍に明智光秀(要潤)が控える。
そこに、突如始まるカウントダウン!
「本能寺の変まであと2年──次回『変事の予兆』」
本能寺に向け、ドラマが大きく動き出す!
次回予告。
恐怖の相撲大会、織田家古参の重臣林秀貞(諏訪太朗)が、森乱(市川團子)に投げ飛ばされる!たかが相撲で追放宣言。
えっ、これは森乱に負けたら追放大会なの?
中高年者ばかりの重臣達に戦慄が走る。信長の「つぅぎぃはぁ……」
指名する声が怖すぎて笑ってしまった。
25話が楽しみですね。
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NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』
【作】八津弘幸
【音楽】木村秀彬
【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、菅田将暉、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗 旬 ほか
【時代考証】黒田基樹、柴 裕之
【制作統括】松川博敬、堀内裕介
【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友 茜(広報)
【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中 正
※このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。
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主な参考文献:
ルイス・フロイス(著)/松田毅一・川崎桃太(翻訳)『完訳フロイス日本史・織田信長編 合本』中公文庫,1999年
谷口克弘(著)『織田信長合戦全録──桶狭間から本能寺まで』中公新書,2002年.
太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『現代語訳 信長公記』新人物文庫, 2013年.
和田裕弘(著)『織田信長の家臣団──派閥と人間関係』中公新書,2017年.
太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『地図と読む・現代語訳 信長公記』KADOKAWA,2019年
永原慶二(著)/本郷和人(解説)『戦国時代』講談社学術文庫, 2019年.
黒田基樹『羽柴秀吉とその一族――秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書, 2025年.
柴裕之『羽柴秀長――秀吉の天下を支えた弟』角川選書, 2025年.
黒田基樹『羽柴秀長の生涯――秀吉を支えた補佐役の実像』平凡社新書, 2025年.
黒田基樹・柴裕之〔編〕『羽柴秀長文書集』東京堂出版, 2025年.
桑田忠親(著)『豊臣秀吉研究 上・下』角川選書.2025