年齢を言い訳にしない。今が一番、素敵な私──常盤貴子さんが今なお、輝いている理由
撮影・酒井貴生(aosora) スタイリング・後藤仁子 ヘア&メイク・面下伸一(FACCIA) 文・兵藤育子
過去に執着せず常に前へと進んでいきたい
「昔から、早く年齢を重ねたいと思っていたんです」
こう切り出した、常盤貴子さん。
「生意気な発言も、年を取ればもっともらしく聞こえるでしょうし、多少いい加減な振る舞いも『年だからいいのよ!』で済まされる気がして。いいことがいっぱいあるだろうなと思っていたのですが、今、本当にそれを言い訳にしてるところがあるかもしれないって、ドキッとしちゃいました(笑)」
かつて多くの人を夢中にさせた、数数のトレンディドラマでヒロインを演じてきた常盤さんだが、その当時から俳優としてのキャリアの重ね方には、客観的な視点を持っていたようだ。
「20代の早い時期から、先輩方の動向を見るのが好きなタイプだったんです。たとえば、お母さん役を演じ始める年齢は人によって違うものの、大体のサイクルは似ているから、自分はこれくらいからかな、と脳を準備しておいたり。なので、私はわりと切り替えが早かったほうだと思います。仕事を離れても、一般的な年相応のイメージを持ち続けるのは、私にとって大切なこと。過去に執着したくないというか、常に前に進んでいきたいので」
そうやって自然な流れとして、自身の精神的、身体的な変化を受け入れてきた。しかし知識や心がまえがあっても、その場所に立たなければ見えない景色があることも実感している。
「経験を重ねたぶん、いろんなことをアグレッシブにやっていけそうな気がしていたけど、思ったほど体が動かなくて。休みの必要性をより感じるようになりました。体力が落ちていくことは頭でわかっていても、それによってどういう不調がもたらされるのかまで想像できていなかったんですよね」
年齢による変化の具体例としてあげてくれたのが、セリフ覚えのスピード。
「時間がかかるぶん、早く覚え始めればいいんですが、“そのためにも台本を早めに準備してほしい”と正直に伝えられるようになりました。以前は、台本を与えていただいたタイミングで覚えることが俳優の仕事だ、と思い込んでいたのですが、ベストを尽くしたいから早く用意してくださいって。スタッフさんに負担をかけてしまうという意味では勇気が要りましたが、対処できるようになったのは大きいです」
多少無理をしてでも突っ走ってきた時代を経て、今はある程度周りに頼ったほうが、うまくいくことが多いとも感じている。それを教えてくれたのが、晩年親交を深めた大林宣彦監督だ。
「大林監督は人たらしと言われていて、周りの人に頼るのが本当にお上手でした。監督に頼られた側もやっぱりうれしいですし、ハグをするのと一緒で心理的な一線を乗り越えられたりするんですよね。その振る舞い方を目の当たりにして、自分のことはすべて自分でやってしまう生き方もかっこいいけど、差し出してもらった手を喜んで握り返せるような年の重ね方は、もっとかっこいいかもしれないと思いました」
京都通の常盤さんは、『京都画報』など京都をテーマにした番組等に多数出演し、現在は京都府文化観光大使を務めている。一方、震災以前から縁のあった能登では継続的な支援活動を行い、防災士の資格も取得した。
「年齢とともに仕事が少なくなっていくのを想像すると、不安ですよね。でもある時、自分もそこに向かっているのだとしたら、忙しい中でもプライベートを充実させよう、と思ったんです。だから今こうやって、京都や能登で活動できているのは、その充実期の経験があるからこそ。全国にいろんなご縁ができて、今まさに、点と点がつながってきている。自然な流れでもあるし、毎日がとても楽しいんです」
常盤さんが新たに興味を持ちつつあるのが、世阿弥。やはり京都の仕事がきっかけで深く知りたいと思うように。
「能は好きでしたが、世阿弥の世界まで踏み込もうとはしていませんでした。ようやく今、興味が膨らんできて、これを知ることができたらすごく楽しいところへ行けそうな予感がします。年を重ね、たとえ体力が落ちたりしても、人の脳は自由で、どこにでも行ける可能性を持っているはずだから」
予感に敏感でいることも、“素敵な今”を更新し続ける秘訣かもしれない。
常盤貴子さんを支える言葉
座右の銘ほど大げさではないけれど、迷いが生じたときや、少し元気がなくなったときも、自分らしくいられるように。年齢を言い訳にしないために、お守りにしている言葉たち。
《魅力的な先輩が言っていた、印象的な言葉》
明日の新聞に載るんだよ。かわいいほうが良くない?
20代の常盤さんにこう諭したのは、映画『もういちど逢いたくて 星月童話』で共演した香港の大スター、レスリー・チャン。みんなで、楽しく食事をしているときだった。
「レストランにパパラッチが何人も入ってきて、私たちのことを突然撮り始めたので、文句を言おうとしたんです。そしたらレスリーが私の腕を掴んで、遮った言葉でした。たしかに!と納得して、以来、怒ることが少なくなった気がします。切り取られた一瞬が、その人の印象になってしまうこともあるのだから、笑顔でいたほうがいいですよね」
《いつも自分の中にある言葉》
時の流れるままに。
経験を積んで自分の軸や価値観が定まってくると、どうしてもそこに固執して、ほかの可能性や選択肢から目を反らしてしまいがち。
「だけど経験則とは違うことが起きたとき、こんなはずじゃないのにって思い続けるのは、もったいないですよね。時代は常に流れているのだから、今の感覚を大事にしたほうがいいし、新しい世界もそこから広がっていくはずなので、まずは流れに乗ってみることが大切だと思っています。抗うのは、乗ってからでも遅くない。合う合わない、自分がどうしたいかは、そのあとでも見極められます」
《未来の自分にかけたい言葉》
チャーミングでいられていますか?
常盤さんの思うチャーミングさとは。
「たぶん年を取るほど、わがままになっていくと思うんです。実際、なりたいし(笑)。私が目指すのは、常識でものを言うのではなく、『なんかもうめちゃくちゃだな!』って思われながら、愛されるようなおばあちゃん。破天荒なところがあってもいいですよね。ちょっと外れた人のほうが、なんだかおもしろそうだし、話を聞いてみたいって思えるだろうから。自分よりも下の世代の人たちが、これでいいんだって安心できるような、年の重ね方をしていきたいですね」
『クロワッサン』1166号より
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