【新連載】酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.2──春の上海、旬の豆に酔いしれる
イラストレーション・小野寺光子
春の上海。少し前まで咲き誇っていた白玉蘭はすっかり落花し、気温もぐっと和らいできた。街を歩けば、あちこちで桜の花を見かける。心浮き立つ光景だが、今の中国では桜の下で酒を飲む文化がないのが、少し残念でもある。
その代わり、この季節の上海で私が楽しみにしているのが「豆」だ。旬を迎えた市場には、山のように積まれた豆がずらりと並ぶ。どれも驚くほど安く、しかも新鮮。長江下流の温暖湿潤な気候と豊かな土壌が、この贅沢を支えている。
中でもまずは豌豆(えんどう豆)。上海産が出回るのは4月中頃からで、朝に収穫された豆がその日のうちに市場に並ぶ。だからこそ、格別の柔らかさと甘みがある。さやから豆を出したものも売っているが、豆は剥いた瞬間から鮮度が落ちていく。必ずさや付きのものを買い、食べる直前に剥くのが鉄則だ。
食べ方はいろいろ。合わせる相手はひき肉や卵、むき海老、臘肉(中華ベーコン)。賽の目に切った長芋を合わせるのもいい。火を通してもなお柔らかく、噛めば甘みが広がり、口の中で小気味よく弾ける。単なるグリーンピースとは思えないほどの旨さだ。
そして、もうひとつの主役が蚕豆(空豆)だ。
3月頃から外地のものが姿を現すが、上海産の旬は5月。上海の人々は地元産の蚕豆に特別な愛着を持ち、外地産を「客豆」、地元産を「本豆」と呼び分けている。本豆はさやも豆も小ぶりで、皮が薄く柔らかい。皮ごと食べられ、香りもひときわ良い。
この蚕豆で作る料理といえば、何を置いても葱油蚕豆だ。油で香りを出した青葱と豆を炒め合わせるだけの簡素な料理だが、翡翠色につややかに輝く豆に、葱油の香りと甘みが重なる。ひと口食べれば頬がゆるみ、思わず次のひと口を急いでしまう。
市場で作り方を教わったのは、もう20年近く前。それ以来、我が家では蚕豆といえばまずこれを作る。
中華料理のなかでも屈指の、そして私にとっては無敵の蚕豆料理である。
葱油蚕豆
cōngyóu cándòu(空豆の葱油炒め)
葱と油の香りに空豆の甘みが重なる軽やかな一皿。
【材料】
空豆(さや付き)…約300g(正味50〜60粒)
小葱…5〜6本
塩…ひとつまみ〜適量
水…大さじ2
菜種油(または植物油)…大さじ2
【作り方】
空豆はさやから出し、薄皮はつけたままにする。小葱は小口切りに。中華鍋に油と小葱を入れて弱火にかけ、じっくりと炒めて香りを引き出す。小葱の一部が色づき始めたら空豆を加えて炒め合わせ、水と塩を加える。蓋をして強火にし、ときどき鍋を揺すりながら3分ほど蒸し炒めにする。蓋を取り、水気が飛んで全体に艶が出るまでさっと炒める。
『クロワッサン』1165号より
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