電気代0円、ガス・水道も節約!フジイチカコさんの”太陽光の生活”から学ぶ防災の知恵。
撮影・青木和義 イラストレーション・大石さちよ 構成&文・堀越和幸
“自分で使う電気を自分で作ってみたかった”
染織作家、フジイチカコさんの家は電気メーターの接続が切られている(下写真)。なぜかと言えば、12年前に電力会社との契約を解除して、自力で電気を生む生活を始めたからだ。きっかけは東日本大震災の時だった。
「度重なる計画停電を強いられて、自分で使う電力くらい自分で確保できないのかなと思ったのが始まりでした」
当初は節電をするくらいの軽い気持ちだった。試しに契約していたアンペア数(電気の量。多いほど電化製品を同時にたくさん使える)を半分に落としてみると、電気代が驚くほど下がった。並行して電気工事士にソーラーパネルをセットしてもらった。すると、さらに電気代が安くなった。
「それまで月々4000円くらい払っていた電気代がどんどん下がり、1000円を切ったらもう電気代0円の生活にしようかと思っていたところ、震災の翌年にそれが実現してしまいました」
フジイ家には現在5つのソーラーパネルが設置されている。
太陽光を受けるパネル(電気を生む)→チャージコントローラー(電流を調える)→バッテリー(蓄電する)→インバーター(直流と交流の変換)→家電、というのが一連のフローとなるが、太陽光が生み出すエネルギーには限りがあるので、手放さなければならない電化製品は少なくなかった。
「24時間電気を使い続ける冷蔵庫とか電気量の多いエアコンとか……」
が、それなしでもやってこれたのは、数々の独創的な工夫があったから。その工夫に学ぶ、防災のヒントとは?
[手放したもの。]
消費電力の高いものから見直しを図った。昨年の猛暑に耐えかねて、冷蔵庫は現在、キャンプ用小型タイプを使用。
[使い続けるもの。]
二層式の洗濯機に電源を入れるのは脱水時のみ。TVを手放してしまったので、ラジオは情報収集に欠かせない。
(真似したいヒント)
ヒント1 |食べる
お日さまが顔を出せば料理日和、火を使わないフジイさんの料理術。
フジイ家の食事の調理は、基本的にソーラークッカーを使う。ソーラークッカーとは太陽光を集めて食材を加熱する器具のこと。そしてなんと、下写真のものは手作りなのだそう!
「100円ショップのボウル、〈ニトリ〉のグリルパン、透明なフライパンの蓋、それに園芸用の花台を組み合わせました」。
これで本当に料理が作れるの? と思いきや、切り身の鮭を中に仕込み日当たりのいい場所に放置すること小1時間。ふっくらと薄桃色の鮭が焼き上がった。
「この手作りのものは温度が60〜70度くらいになるので低温調理に向いています」。
もう一方の市販のソーラークッカーは温度が200度を超えるので、揚げ物やケーキを焼くなど、料理で使い分けている。
「お天気の日は何かしらを焼く、それが私の習慣になっています」
ヒント2|冷やす
遠い昭和の時代もかくやと思わせる、電気に頼らない、暑さ対策の知恵。
近頃、ニッポンの夏は真剣に暑い。連日の35度超えを更新する酷暑の折、エアコンなしで過ごす工夫とはいったいどんなものなのか?
「まずは家の窓を開けて風の通り道を作り、そのポイントとなるところに打ち水をします」。
と、フジイさんがケトルで水をかけ始めたのはベランダに通じる窓のサッシ部分。
そして、壁は漆喰に塗り替えた。「漆喰は熱を遮断し、湿気を吸ってくれます。材料をインターネットで取り寄せて、お好み焼きのコテを使いDIYでやりました(笑)」。
家電の冷蔵庫は手放したので、冷たい飲料は保冷バッグを使用。
「氷はスーパーで買い物したときにちょっと多めにもらうこともあります」。
ちなみに部屋の床は、国産杉を使ったウッドタイルを敷き詰めた。
「ちょっとしたひんやり感触で、案外涼しく過ごせます」
ヒント3|節水する
極力電気を使わずに洗い物をする、その究極の形がここにある!
いざという時は水を節約する知恵を備えておくことも、きっといつか役に立つ。全自動の洗濯機をやめたフジイさんが現在使用するのはあえての二層式洗濯機。
「シーツなどの大物を洗う時は電源オフの洗濯槽で手洗いで洗って、脱水時だけ電気に頼ります」。
そして、枕カバーなどの小物を洗う時は……。「サラダスピナーを使って洗うところから脱水までをします」という驚きの裏技を披露。
ちなみに洗剤はすすぎ不要タイプを選んでいるから、確かにこれは節水になる。
そのほか、飲料や生活用水は台所に並べた水筒などで1日4リットルを目安に使用する。
「なくなったら補充するというローリングストックで賄っています」。
なるほど、これなら無駄に蛇口の栓をひねることもないだろう。
「余計な排水を出さないことはエコにもつながります」
ヒント4|置き換える
いつも当たり前に使っているものを見直すところに節電のヒントがある。
やめた家電には穴を埋める代役が必要だ。たとえば、フジイさんは掃除機をやめて、箒とちりとりに置き換えた。
そして、染織作家という仕事柄、アイロンは必携品ではあるのだが。「物置で骨董品として眠っていた炭火アイロンに替えました」。
当初は文字どおり中に熾(おき)となった炭を入れて使用していたが、「部屋の空気が悪くなるので、今ではカセットコンロで面の部分を加熱して使うようにしています」。
さらに〝置き換える〞という発想は、使うものだけでなく肌に身につけるものにも及ぶ。
「素材選びが大切ということに気づきまして、たとえばシーツを麻に替えたら乾燥がすごく早い。脱水がいらないくらい」。
昨年の冬はインナーを綿からメリノウールにシフトしたら汚れにくく、洗濯の回数が減った。当たり前を見直すと意外な発見がある。
不便を逆手に自助を考える、節約は防災の考えに似ている。
5台のソーラーパネルを駆使して、フジイさんの電気代0円の太陽光生活は一見、磐石とも見えるが、決定的な弱点がある。「当たり前ですが、天気が悪いと手も足も出ないということです」。
梅雨時の天候は本当に苦しい。そんな不安定な生活の一助となっているのが、0円生活2年目に導入したバイク式の人力発電機である。
「電源をソーラーパネル以外にも持つという発想でバッテリー屋さんの試作を譲ってもらいました」。これを3分漕げば、小さなランプが1時間灯るくらいの電気を作ることが可能だ。
このバイクの登場で、フジイさんはフィットネスジムの会員をやめた。そして、電気代、ガス料金、ジム代を浮かせたお金で、なんと8年間で100万円を貯め、ヨーロッパ旅行に出かけたのだという。
「自分が持てるもので何ができるかを考える、それが楽しくてこの生活を続けているのかもしれません」。いざという時は知恵を絞り抜いて考える——防災の心構えにも通じる発想だろう。
『クロワッサン』1124号より