文房具の達人2人が語り合う、2023年のヒットアイテムと最新トレンド。
暮らしを楽しくしてくれるアイテムを文房具の達人2人が一挙に紹介します。
撮影・黒川ひろみ 文・嶌 陽子
メディアで文房具の魅力を紹介するほか、商品や売り場の監修にも携わる文具ソムリエールの菅未里さんと、文房具コレクターとして発信を続けているアナウンサーの堤信子さん。文房具をこよなく愛する二人が、イチオシのアイテムやさまざまな楽しみ方を熱く語り合います。
堤信子さん(以下、堤) 文房具がこんなにブームになってるのって、ここ10年くらいかしらね。
菅未里さん(以下、菅) そもそものきっかけはリーマンショックですよね。それまで文房具は会社員にとっては会社から支給されるもので、メーカーも企業向けに文房具を作っていました。
堤 そうそう。ところが景気が悪くなって企業からの支給がなくなり、皆が自分で買うようになった。
菅 せっかく買うなら、少し高くてもいいから使い心地のいいもの、気分が上がるものがいいという人が増えました。同時にメーカーも個人向けの商品を作るようになってきて。
堤 文房具って昔は事務用品みたいなものが多かったけれど、最近は自分好みの色や柄、素材を選べるようになって“マイ文具”を楽しむという感覚が生まれてきたと思う。
菅 素材も増えました。たとえばファッション界でPVC(ポリ塩化ビニル)の透明バッグが流行った数年後、文房具でも透明ペンケースが登場したり。色や柄もぐっと増えて選ぶ楽しみが広がったなと思います。
堤 手帳も毎年どれを選ぶかワクワクしない? 秋に開かれる手帳の展示会もいつも賑わっているしね。
菅 システム手帳って昔は黒と茶色くらいしかなかったけれど、今は派手なものもたくさんありますから。
堤 未里さん、前にキラキラのピンクの手帳を持っていませんでした?
菅 はい。先日は来年用に紫のギラギラしたのを買いました!
堤 服やバッグだとなかなか手を出せない派手な色や柄でも、文房具だと小さな面積だから遊べるのよね。
菅 服やバッグよりも値段が手頃なものが多いし、手帳だと中の紙の色やポケットの色を選んで、組み合わせを楽しめるのも魅力です。
堤 どんどんカスタマイズして、ますます世界に一つだけの手帳になっていく。そうやって沼落ちしていくんですよね(笑)。
最近のトレンドは、ガラスペンや〝韓流〟。
菅 堤さんが最近特に注目している文房具って何ですか?
堤 つけペンかな。中でもガラスペンはここ数年ブームで、関連本もたくさん出ています。工芸品みたいな美しさだし、こんなデジタル時代なのにわざわざペンにインクをつけて書くことを楽しんでいる人たちが大勢いるというのが新鮮で。
菅 お店でも昔はギフトとして扱われていた季節商品だったのが、最近は一年中置いてあるし、自分用に買っていく人が多いみたいです。
堤 メーカー側も改良を重ねていて、ガラスと違って割れにくい金属製のつけペンも登場したり(下写真)。
菅 インクブームもありますしね。
堤 そうそう。今やお菓子みたいに“ご当地インク”があって(下写真)、地域に密着した色が生まれていて。名前もロマンチックなの。
菅 ついつい集めちゃうんですよね。堤さんはいくつくらい持ってます?
堤 全部で300個くらいかな。家にインク用の棚を作って置いてるの。
菅 すごい! 私は数えてないです。でもたくさん集めても、なかなか使い切れない。そう思った人がきっと多かったはずで、インクブームの後でガラスペンが流行し始めたかと。
堤 ガラスペンは万年筆と比べて洗うのも簡単だし、少し時間が経ったインクでも問題なくつけられる。インクコレクターにとっては救世主的な存在です。インクを塗りたくると絵が浮かび上がるカードも登場して(下写真中)、インクの使い道が広がっているのがうれしい。未里さんが気になっているトレンドは何?
菅 “韓流”ですね。韓国メーカーの文房具も人気ですし、最近は日本のメーカーも韓国っぽさを意識して作っています。ロゴなどがないような洗練されたシンプルなデザインと、ちょっとくすんだニュアンスカラーが特徴です(下写真)。
堤 韓国ドラマブームも関係しているのかな。
菅 ドラマを通じて韓国カルチャーに触れる機会が増えたことも関係あるでしょうね。
堤 韓国では日本の筆記具やノートが人気みたいだし、お互いに認め合っているのがいいよね。ほかに未里さんが今年気になったものは?
菅 去年、「メタシル」というメタルペンシルがヒットしたんですが、そのポケット版(下写真)。芯と紙の摩擦によって書くので芯の減りが少ないし手も汚れにくいんです。
堤 ピンクもあるんだ、可愛い。続けて私たちのおすすめ文具をどんどん紹介していきましょうか。まずは仕事効率アップ賞。私は「テリュー・ザ・マット」(2)を選びました。大人向けの下敷きで、これがあると外出先のどんな場所でも快適に書けるの。あと、未里さんが監修した収納ケース、「ライブポッドブーケ」(1)も優秀。
菅 机の上に自立するし、マグネット付きなのでスチール面に貼り付けられ、ファスナーを開いてバッグの持ち手にも挟める。どこでもさっと必要なものを取り出せます。
堤 次はデザイン賞ね。私は「nuino(ヌイーノ)」というカードと封筒(5)。紙をミシンで縫い合わせてあって、紙と糸の色の組み合わせがものすごく可愛いんです。
菅 私は「スタイルノート・シリーズ」(4)。目的別にたくさんの種類のノートやメモがあり、どれもスタイリッシュ。「フリクション Waai(ワーイ)」(3)は、デザインもインクの色もおしゃれです。貼って剥がせるシール「コフレ」(6)は、手帳などをデコりたくなるコスメのような可愛さ。
文房具好きが集まる「文房具朝食会」なるものも。
菅 次はギフト賞。堤さんが監修された「旅するロルバーン」(7)、すごくいいですよね。
堤 ありがとうございます。私自身がこういうノートが欲しかったの。チケットやショップカードなどを入れるポケットや地図などを貼れる蛇腹式の台紙などもあって、レフィルも自由に足せるんです。旅に出る人にお餞別として贈ってもらえたら。
菅 「サクラクレパス」の大人向けシリーズ「サクラクラフトラボ008」(8)もおすすめ。優美な雰囲気のノック式ボールペンで、大人の女性へのギフトにいいかと。
堤 「ほぼ日手帳」の「HON」(9)も誰かに贈りたくなります。本のような見た目に気分が上がるんです。
菅 ほぼ日手帳はアジアや欧米でも人気なので、海外の人への贈り物にもいいかもしれないですね。
堤 アイデア賞は、2人とも「手帳のはらまき」(10)を挙げました。ニット素材で今の季節にぴったり! ブックバンドにもなるし、ポケットに文房具を収納できるのも便利。
菅 カバーにもなるから大事な手帳も傷つきません。「はらまき」っていうネーミングも好き。
堤 「書けるマスキングテープ」(11)はありそうでなかったもの。水性ペンでも書けるし、幅広なのも書きやすい。ラベル代わりに使えて便利です。こうして見ると本当にいろんな文房具やメーカーがあるよね。
菅 SNSやECサイトが浸透して、小さなメーカーや作家さんたちが発信・販売しやすくなっているのも大きいかもしれません。
堤 ユーザーも自分が手に入れた限定品やあまり知られていない文房具、オリジナルの使い方なんかをSNSに投稿して楽しんでいる。自分を表現できるのも、文房具の醍醐味かも。
菅 人の投稿を見て、「私も持ってる!」ってうれしくなったり、文房具好きの仲間同士で盛り上がる楽しみもあります。
堤 オフ会みたいなものも多いよね。カフェや公園などに集まって、お互いに持っている文房具を見せ合うの。
菅 私が堤さんと初めてお会いしたのも「文房具朝食会」っていう集まりでした。雑誌の取材で行ったら、堤さんがいらしてたんです。
堤 文房具好きが休日の朝に集まって、マイ文具をプレゼンしあうすごく楽しいイベントです。私もアナウンサーの仕事で取材に行ったのがきっかけで参加するようになったの。
菅 「文房具が趣味です」って言えるようになったのって、ここ10年くらいですよね。それ以前は、文房具好きといえばコアな万年筆コレクターくらいでしたから。
堤 いろんな文房具が単に“使うもの”ではなく、生活を豊かにする道具になってきている気がします。
菅 特に日本は本当に文房具に恵まれていて、日々新作がたくさん出ているけれど、知られていないものも多い。マニアだけじゃなくて、もっと多くの人に知ってほしいですね。
『クロワッサン』1106号より