不安が強いときも睡眠を確保する、災害時の備え。
撮影・黒川ひろみ イラストレーション・中島陽子 文・長谷川未緒
災害時の「睡眠」のためにできること。
強いストレス下で熟睡できないのは正常な反応だ。横になるだけでも体は休まるので、過度の心配は不要。しかし、非常時に冷静な判断が下せるよう、できる限り質の良い睡眠を取り、しっかりと疲労を回復したい。
「ゴールデンエッグバランス(下イラスト)のような体がゆるまる姿勢で寝るほか、寒暑が厳しい時季には体の必要な部位を温めたり冷やしたりして、対策を取るといいでしょう」(辻さん)
不安が強いときもこの姿勢で眠れる。
なお、未経験者の車中泊は絶対にやめてと辻さん。危険な場所への停車や、エコノミークラス症候群、一酸化炭素中毒などのリスクもある。
適度に遮音し、耳をじんわり温めリラックスできる。災害時、完全に音を遮断する耳栓はいざというとき逃げ遅れるので使用しない。
〈停電時の寒暑に。〉
太い血管が通っている部位で暑さ・寒さ対策を。暑いときは氷嚢等で冷やす、寒いときはくしゃくしゃにした新聞紙を巻くと暖かい。
震災に強い寝室に整えておく。
就寝中に地震が起こる可能性に備えて、寝室の防災対策は万全に。扉が見える配置で眠り、毎朝、起きたらすぐに扉を見て「そこに行けば逃げられる」と体に覚えさせておこう。寝起きで頭がぼんやりしていてもパニックに陥っていても、即座に避難行動に移れる。
その際、慌てて逃げずに揺れがおさまるまで身を守りながら待つことも肝要。なお、地震で家が傾いたり、壁に亀裂が入ったりしたら、家にとどまらず、すぐに避難して。
(A)頭より高い家具は置かない
(B)家具は固定する
(C)履き慣れた靴を枕元に
(D)照明は天井直付けのカバー付きタイプを
(E)ベッドは目覚めたら扉が見える位置に
(F)ベッドは窓から離す
(G)窓には飛散防止フィルムを貼る
被災時に素早く日常を取り戻す鍵、「トイレ・睡眠・食」。
現在、国が推奨する備蓄の目安は7日以上。中でも、心身の健康を維持するためには、トイレ・睡眠・食の備えが肝。料理研究家で防災士の島本美由紀さんによると「トイレに行けないと飲食を控えがちになり、健康を損ないます。成人で一日7〜8回は排泄できる環境を整えておくことが必要です」
トイレに加え、何をどのくらい備えるかは「その人の欲求によって変わる」と語るのは、国際災害レスキューナースの辻直美さんだ。毎日髪を洗わなければ気持ちが悪い人は、一日の必要目安とされる3リットルの水では到底足りないし、毎食違うものを食べたい人は、バリエーションが必要になる。
「命さえ助かれば我慢できると思うかもしれません。しかし絶望的な中では自分の欲求のうち優先順位の高いものだけでも満たさなければ、家を片づけたり生活を立て直したりする気力が湧いてきません。非常時でもここだけは譲れないという点を日頃から確認しておきましょう」(辻さん)
被災後、素早く復興して元の生活を取り戻すために、次から紹介する備えを今すぐ実践しよう。
『クロワッサン』1076号より