【有森也実さん】更年期は今まで歩んで来た道を思い返す、答え合わせの時期でした。
有森也実さんが振り返るこれまでとこれから。
撮影・岩本慶三 ヘア&メイク・目崎陽子 文・松本あかね 撮影協力・ア・レガ
最初に違和感を覚えたのは48歳の頃。満員電車に乗り込んだときだった。
「むわっと顔が熱くなって体温調節ができない感じ。職業柄、暑さ寒さの中での撮影は当たり前で、気温の変化に強いはずなのにどうしたんだろう」
そのうち首のリンパ腺の腫れに気づいて耳鼻咽喉科を受診。そこで初めて更年期の可能性を指摘される。
「こういう症状もあるのか、年齢的におかしくないしなぁなんて軽く考えていたら、今度は顔半分に力が入らなくなって。これは変だぞと思って脳外科を受診したけれど、別になんでもなかった。じゃあ、更年期なんだと。それなら女性だったら誰でも通る道だからしょうがないなと思ったんです」
さらりと話す有森也実さんだが、48歳になって老眼や体力の衰え、いわゆる「老化」を顕著に実感。17歳の頃から続けてきた女優という職業に対するもやもやもあふれてきたという。
「人間を演じるのが私の役割のはずなのに、なぜちょっとシワがあったりシミが増えたりしただけで劣化したとか言われちゃうのかな。きれいでいなくちゃ、絶対だめなんだろうか」
居心地の悪さから、芸能界に居場所がないと感じたことも。けれど「ナチュラルに歳をとりたい」という気持ちは揺らがなかった。
「更年期の症状があってもホルモン治療を受けなかった選択もその一つでした。自分が経験していないことを演じるのも女優の仕事の楽しみ。けれど、自分が経験したことは実感としてあるものだから、せっかく経験できるチャンスがあるのに、それを薄めるのは嫌だったんです」
長年通うバレエ教室の先輩が「いつかは通り過ぎるものだから大丈夫だよ」と言ってくれたことも心の支えに。
精神的なアップダウンも乗り越えた今は、もしあのとき何事もなく突き進んでいたら、人生つまらなかったかもしれないとさえ思うように。
「求められるものを提供しよう、これまでいつもそういう目線だったんですけど、自分が思う自分らしさをそろそろ大事にしてもいいんじゃないのかな。
お母さんだったり、妻だったり、地域での役割だったり、いろいろあると思いますけれど、それはそれとして、自分に対する目線をちゃんとしてあげる。周りに対していい子でなくていいんだ。更年期を経験してそんなふうに思えています」
ゆらいだ時期の私を支えてくれたもの。
「情緒、自然、不条理とかそういうことに触れたかったんでしょうね」、40代後半に一生懸命読み返したロマン派の詩人、シェリーの詩集。
10代の頃から繰り返し聴いたCD。奥はベートーベンが最後に作ったピアノソナタ。手前はアメリカのジャズシンガー、ヘレン・メリル。
「お化粧もおしゃれもしっくりこなくなっても香りだけはまとえました」。『ディプティック』の「ゼラニウム オドラタ」はさわやかな花の香りが元気をくれる。
心機一転、ずっと踊ってみたかったフラメンコに熱中。履き込んだシューズの底にはカンカン!と足音を出すための鋲が。左は発表会での1カット。
『クロワッサン』1070号より