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50代から気をつけたい腰椎変性すべり症。加齢による背骨の組織の変性で背骨がずれる。

整形外科医の平尾雄二郎さんに話を聞きました。

撮影/角戸菜摘 文/石飛カノ イラストレーション/安ケ平正哉

特異的腰痛の代表的な3つの疾患の中の2番目は、腰椎すべり症。椎間板ヘルニアが40代で多く見られるのに対して、こちらはもう少し年齢を重ねた50代以降に発症しやすい疾患。

残念なことに、ほとんどのカラダの組織は、年齢を重ねることでその機能が低下していきます。背骨の構造も然り。

背骨と背骨の間にある椎間板が水分を失ってつぶれてきたり、背中側で背骨同士をつないでいる椎間関節がもろくなっていきます。

「すると、背骨を支える力が低下し、一部の背骨がお腹側にずれてしまうことがあります。これが腰椎変性すべり症です。50代以降に多く、女性はエストロゲンという女性ホルモンが減少する影響もあり、男性の約5倍発症しやすいと言われています。多くは、4番目と5番目の腰椎の間で発症します」

ひとつひとつ背骨の背中側には穴が開いていて、背骨がいくつもの積み木のように縦に連なることで、その穴が1本のトンネルのようになっています。これが脊柱管と呼ばれるスペースで、脊柱管の中には神経が通っています。

「背骨がずれると、これらの神経の通り道が狭くなり、骨や黄色靭帯(じんたい)、椎間板などが神経を圧迫します」

黄色靭帯とは脊柱管の後ろで背骨同士をつないでいる靭帯のこと。生理的な弯曲(わんきょく)で連なっている分には神経は圧迫されることはないけれど、背骨が不自然に前方にずれることで、こうした状態に陥ります。

「典型的な特徴は、長い距離を歩いたり、長時間立っているときに腰から脚にかけて痛みを生じるようになること」

ちなみに、腰椎すべり症には腰椎「変性」すべり症と、腰椎「分離」すべり症の2種類がある。

前者は年齢を重ねることが原因で椎間板が背骨同士を連結する力が弱くなりずれるのに対して、後者は学童期に繰り返しスポーツをすることなどが原因で背骨の後ろ側の部分に亀裂が入り、将来的に背骨がずれてしまう疾患。

変性すべり症は加齢による背骨のずれ、分離すべり症は腰にかかる繰り返しの外力が元で起こるずれ。50代女性に見られるのは、ほとんどが「分離」ではなく「変性」によるすべり症なのだそう。

こんな症状です

50代から気をつけたい腰椎変性すべり症。加齢による背骨の組織の変性で背骨がずれる。

● 長い距離を歩くと腰が痛む

● 長時間立っていると腰や脚が痛む

● 脚がしびれる

急性期の対応

● 長時間同じ姿勢を続けない

● コルセットで痛みを予防する

● 重い荷物を持たない

腰椎変性すべり症のメカニズム

50代から気をつけたい腰椎変性すべり症。加齢による背骨の組織の変性で背骨がずれる。

椎間板や椎間関節の変性で、椎間板の上にある椎体が前方向にずれてしまい、脊柱管の中の神経を圧迫する。

手術はインプラントでずれた背骨を戻して安定化。

腰椎変性すべり症の主な症状は、前述のように長時間歩くと腰や脚に痛みやしびれが出て歩けなくなり、しばらく休むとまた歩けるようになるというもの。これは「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」といって、腰部脊柱管狭窄症でみられる症状と共通。ただし、痛みやしびれに悩まされるものの、運動麻痺を起こすことは比較的少ないと言われています。

この場合の治療法としては運動療法、薬物療法、コルセットを用いた装具療法、局所麻酔薬を神経のまわりに注射するブロック注射などが考えられます。

すべりの程度が進んで、このような保存療法で効果が見られなかったり、あるいは神経の圧迫による運動麻痺や排尿・排便障害が出現するなど、症状が進行した場合には手術が検討されることも。

「腰椎変性すべり症に適用される代表的な手術は矯正固定術です。背骨のすべりの程度が進行し症状が悪化している場合は、骨の一部を削って神経の圧迫を開放するだけでは、神経症状が再発する可能性が高くなります。したがって、腰椎の背骨にチタン製のスクリューを挿入して背骨を正しい位置に戻し、椎間板を切除してケージというインプラントを挿入し、バランスのよい背骨の配列にして固定する手術を行います」

術後は退院まで2週間程度を要するとのこと。

50代女性は男性に比べて発症のリスクが高くなるこの疾患。正しい知識を把握しておき、ここで述べたのと似たような兆候が見られたときは、即、病院へ。

  • 平尾雄二郎

    監修

    平尾雄二郎 さん (ひらお・ゆうじろう)

    脊椎外科医

    都立広尾病院整形外科医長。脊椎外科の専門医として日々、手術による腰痛患者の治療のほか、セミナーなどで腰痛改善法の普及に努める。

『Dr.クロワッサン 歩幅65.1cmで、腰痛しらず。』(2019年3月5日発行)より。

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