「早替わりはオモテナシだよ」
亡き父・十八代目中村勘三郎からこう教わったと、一人で三つの役を早替わって魅せる『怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)』の会見で中村勘九郎は言っていました。
なるほど傑作と呼ばれる歌舞伎作品には観客を喜ばせる演出が詰め込まれています。そして、あっと驚かされる早替わりや宙乗りといったケレン味溢れる作品には興奮を覚えます。“ケレン”とは観客を驚かせるための歌舞伎独特の大胆な演出のこと。常連も初見の客もその“オモテナシ”でたちまち心をわしづかみにされてしまうのです。
江戸時代に生まれた歌舞伎は、多ジャンルの芸能を自分流にアレンジして取り込んでしまう柔軟性があります。能や狂言、人形浄瑠璃や、多種多様な音楽に舞踊、最近では漫画やアニメを原作にした新作歌舞伎が誕生しています。
作品の種類も、同時代の庶民の生き様を題材とした“現代劇”である「世話物」では、遊郭や恋愛、心中、強盗、殺人など刺激的な内容が多いのが特徴。江戸時代以前の物語は“時代劇”ですので「時代物」と呼ばれ、公家や武家社会の事件、お家騒動をテーマとした壮大な作品。そのような古典を継承する一方で「新作」も生み出し続け、義太夫、長唄、常磐津、清元など様々な音楽と共に、舞踊作品も多彩なレパートリーがあります。
400年の歴史を誇り、千を超える作品の中から誰が観に行っても楽しめる作品をご紹介します。