暑い季節の準備期間に起こりやすい心の不調、この気分のもやもやの原因は?
イラストレーション・佐々木一澄 文・石飛カノ
梅雨から夏にかけてのこの時季、なぜかやる気が出ない、気分が落ち込む、疲れを感じる、眠れない。「五月病」という言葉はよく耳にしてきたけれど、今のココロの不調の原因は一体なに?
「この時季の不調の理由のひとつは天候にあります。梅雨になると急に蒸し暑くなったり雨が降って寒くなったりと、まず体調のコントロール自体が難しくなるものです」と言うのは、精神科医師の吉野聡さん。
「6月は本来、暑い夏に切り替わる準備期間。しかし最近は、昔だったらなかったゲリラ豪雨で急に寒くなったり、朝晩の寒暖差も大きくなっている。それによって、自律神経のバランスが狂いやすいということが考えられます」
自律神経は戦闘モードの交感神経と休息モードの副交感神経の相互作用。体温調節をはじめ、呼吸や心拍、内臓機能など生きていくための身体活動全般を司っている。体温調節でいえば、暑ければ汗をかいて体温を下げ、寒ければ代謝を上げて熱を作るという具合。
ところが、ドラスティックに変化する近年の気象状況にカラダがついていけず、自律神経のバランスが乱れる可能性は高いという。
「自律神経の乱れに関連してくるのは、いわゆる〝不定愁訴〟。だるい、やる気が出ない、頭がすっきりしないなど、明らかな不調というより何となく調子が悪い、という感覚です」
たとえば左の下つの症状はその代表的なもの。心当たりがあるという人は、まずその原因を把握することから。
「さらに、昨年から新型コロナの影響で、ステイホーム主体の生活になっていることも大きなストレスに。今後はますます、ストレスを前向きに捉えるココロの癖を身につけることが、とても重要になってくると思います」
【夏が近づくと、ココロに出やすい3つの症状と対策。】
【症状1】外に出るのが億劫で、何ごとにもやる気が起きません。
→ 雨天続きで生活リズムが崩れ、不調に陥っている可能性があります。
できないわけではないけれど、なんとなく億劫。梅雨の時季はとくに、この「億劫」という感覚がキーワードになる、と吉野さん。
「雨だからできない、雨だから億劫。雨天の日はこれまで自分が組み立ててきた生活リズムやストレス対処がやりづらくなります。たとえば、ランニングを日課にしている人、ヨガを習いにいっている人が、雨だから今日はやめにしようと、つい出無精になることも」
ただでさえステイホームを余儀なくされている昨今、外出をためらいがちな人は少なくない。そこに雨という条件が加わることで、外出がますます億劫になるという。
「また、日本の場合は東南アジアの〝雨期〟というほど雨続きではないことも、予定が狂いやすい理由のひとつ。降ったりやんだりとランダムなので、外出しようと思っていた日に雨が降って予定していた行動ができなくなる、ということになりがちです」
これまでの生活リズムが崩れることで自律神経のバランスが乱れ、「億劫」な気分がデフォルトに。
【症状2】夜によく眠れないせいか、頭がぼんやりします。
→ 梅雨時は日照時間が短くなるので、睡眠リズムが狂っているのかもしれません。
寝つきが悪い、眠りが浅い、夜中に目が覚めてしまう、必要以上に朝早く目が覚める、ぐっすり寝たという実感がもてない。日本人の5人に1人はこうした睡眠の悩みを抱えているという。
充分な眠りが得られないことで日中の意欲や集中力が途切れがちになり、疲れや体調不良が引き起こされる。こうなるともはや「不眠症」という病気。吉野さんによれば、梅雨のシーズンは不眠の訴えが増える傾向にあるとのこと。
「理由は梅雨時に日照時間が短くなるからです。睡眠にはメラトニンという眠気を促すホルモンが規則的に分泌されることが必須。メラトニンは朝、太陽の光を浴びると生成がストップし、その16時間後くらいに分泌が始まるようプログラムされます。梅雨のシーズンは外に出て太陽の光を浴びる機会が減るので、メラトニンの生成にストップがかからず睡眠リズムが狂いがちに」
ホルモンの分泌にはメリハリが重要。カラダがストップ&ゴーのサインを出せなくなると、不眠が慢性化する可能性大。
【症状3】夏前にはよく、理由もなく憂うつな気分になります。
→ 楽しいイベントシーズン前にこそ、気分的に落ち込む人が増える傾向があります。
梅雨が明けた先に待っているのは、解放感に満ちた夏のバケーションシーズン。わくわく気分であれこれ計画を立てる人がいる一方、逆に気分が落ち込む人も少なくないという。
「まわりの人が楽しい気分になる時季というのは、気分に乗り切れない人からするとつらいんです。みんなが浮かれ始めて、着る服もどんどん軽装になって開放的な気分になる。そういうとき、自分だけ取り残されたような感覚に陥ってしまう。クリスマスの前の時季も同じような落ち込みがよく見られます」
また、ステイホームの状況が長引くことで、さらに被害妄想的な考えに陥る人もいるのだとか。
「というのは、相手が直接見えないことによって不安感や焦りが膨らんでしまうから。たとえば何かを学びたくなって、オンラインでセミナーを受けたとします。内容がよくわからなかったとき、周りの人と〝わかりにくかったね〟と話すことができればほっとできますが、オンラインでは理解できなかったのは自分だけ?と心配になります。ステイホームの状況下では、ほかの人は楽しいみたいなのに自分だけなぜ……、というもやもやした気持ちを晴らす場所がないんです」
相手が見えないからこそ、もやもや気分は増幅するという図式。
『クロワッサン』1047号より