認知症の薬の効果とは? 用法用量の調整が肝心。
撮影・水野昭子 文・佐野由佳 イラストレーション・山下カヨコ
認知症の診察室から
木之下先生
のぞみメモリークリニック院長
診察室では、母と娘の喧嘩を目撃することもしばしば。
Bさん
娘 57歳
84歳の、認知症の母の相談で来院。
[正しく服用すれば、薬は効きます。編]
娘 随分前に、母が認知症かもしれないと思って検査した病院で、出してもらった薬を飲んでた時期があるんですけど、あんまり効いてる気がしなかったのでやめてしまいました。
木之下 効いてる気がしないって、どういうこと?
娘 母の状態が、あんまり変わらなかったから。
木之下 なんとも言えないけどね。それは効いてたのかもしれないよ。
娘 そうなんですか?
木之下 認知症の薬は、飲んだら認知機能が上がるとか、元に戻るわけではないんです。認知機能が低下することは止められないけど、その進行が緩やかになる。そこを誤解してる人は多いよね。飲み続けた場合と、飲まなかった場合を、同じ人で比較することはできないけど、飲まなかった場合の一般的な数値と比較することはできる(下のグラフ参照)。正しく飲めば、いつからでも必ず進行は緩やかになります。
娘 母の性格がよくなったりもするんですか?
木之下 それはない。薬で性格は変わらない。そこも誤解しないように。
薬は進行を遅らせてくれるもの。認知機能がよくなるわけではない。
「認知症の薬は、その人に合った用量を正しく飲めば、誰にでも効果はあります」と木之下さん。
効果があるとかないとか、認知症の薬もまた情報が錯綜していて、何を信じたらいいかわからない。
「多くの人が誤解しているのは、認知症の薬の効果です。飲んだからといって、認知機能が上がったり、認知症が治るわけではありません。飲んでいても低下はするけれど、低下の速度を遅くするのが認知症の薬の効果です」
そのため、薬が効いていることを実感しづらい。処方された薬を、半信半疑のまま飲み続けていたり、自己判断でやめてしまったりする人もいる。
のぞみメモリークリニックでは、薬の効果を実感しながら継続できるように、飲み始めから半年ごとに、神経心理テストを実施。点数を、下記のようなグラフにして記録している。
「薬を全く飲まなかった場合の、平均的な点数の推移と比較すると、確実に進行が緩やかになっていることがわかります。曲線の角度に個人差はあっても、薬を飲まなかった場合の点数を下回ることはほぼありません」
グラフにすると、目で見て効果が実感できるよさもある。急激に点数が下がるようなことがあれば、薬の量を増やすなど調整する。
認知症の薬を飲むと飲まないでは、こんなに違う!
慣れないうちは様子を見ながら。 副作用が出なくなるまで確認する。
もうひとつ、薬の処方で気をつけているのは副作用のケア。認知症の薬は、吐き気などの副作用が出ることがある。木之下さんの実感では「10人に1人くらい」の割合。しかし1回飲んで副作用が出たからといって、薬をあきらめてしまうのはもったいないという。
「どんな薬もそうですが、副作用が出ないように飲み続けられれば、メリットを享受できます。そのためには、ひとりひとりに合ったケアと、正しい処方が必要です」
薬は副作用が出ない用量を見極めるまで慎重に!
木之下さんのクリニックでは、最初に薬を飲んだ日に、スタッフが本人に電話で容体を確認。その後も定期的に電話をかけ、副作用が出ていないか、聞き取りをする。
「どんな薬にも、最高血中濃度到達時間というのがあって、認知症の代表的な薬であるアリセプトは、飲んでから3時間経つと最高血中濃度に達します。そこから半減期が3日ほどあるので、最初に飲んで気持ち悪くなった場合に、毎日続けて飲んでしまうと、前の薬がまだ体内に残っているから、上乗せされてどんどん気持ちが悪くなる。それでは飲むのがつらいだけ。ならば、いったん飲むのを停止して、吐き気がおさまったところで、量を半分にして再開してまた様子を見る、などを繰り返して、その人に合った用量を見極めていきます」
副作用が出るか出ないか、どのタイミングで出るのかは人それぞれなので、電話でのアフターケアはすべての人に行っている。
「必要な場合は毎日でも電話します。こちらから電話をかけることで、自分から言うほどではないかもと思うような、ささいな変化も相談してもらえます。一番やってはいけないのは、自己判断で飲んだり飲まなかったりすること。話し合いながら調整していきます」
Dr.クロワッサン「逆引き病気辞典」(2019年10月10日発行)より