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佐久間良子さん「人生、紆余曲折あったけれど、それぞれの決まりに支えられて。」

山あり谷あり、どんな時でも心のよりどころにしている言葉を、第一線で活躍する佐久間良子さんに教えてもらった。

撮影・青木和義 ヘア&メイク・尚司芳和(オフィス尚) 文・大澤はつ江

日々を一生懸命生きる。

佐久間 良子(さくま・よしこ)さん●女優。東京都生まれ。映画『五番町夕 霧楼』『細雪』などで主演。N…

佐久間 良子(さくま・よしこ)さん●女優。東京都生まれ。映画『五番町夕 霧楼』『細雪』などで主演。NHK大河ドラマ『おんな太閤記』では史上初めて 女優で単独主演を務めた。1995年、文化庁芸術祭賞を受賞。2012年、旭日小綬章受章。

- 人生を支える決まり 1 - 向上心を忘れない。新しいことに 挑戦する。

女優として数多くの作品の役を演じてきた佐久間良子さん。役作りのため、時代背景を考察し、その人物に特技などがあれば、それを習得するために練習を重ね、撮影に臨んできた。

「いつも新しい気持ちで真摯に役に向き合い、挑戦してきました。そんな時、いつも根底にあったのは、作品をよりよくしたい、そして自身も高めたいという思い。これを忘れたことは一度もありません」

学びたい、知りたいという向上心を失ったことはないと。

「子どもの頃から字を書くことが好きでした。女優の仕事は多忙を極めていたのですが、その中でわずかな時間を見つけては“書”に没頭して、心のバランスを保っていました」

その一作品が下の写真だ。

1975年、日展に入選。2000年、毎日書道展にて毎日賞を受賞した佐久間さんの書。優雅で美しい。
1975年、日展に入選。2000年、毎日書道展にて毎日賞を受賞した佐久間さんの書。優雅で美しい。

「書は心のよりどころですね。そう言えば母も90代から日本刺繡を始めました。母同様、いくつになっても挑戦し、自分を高めていきたいと思います」

母親が98歳の時に作品展に出品した「ふくろうのお友達」。優しい気持ちになる作品だ。現物は手元にはないが、佐久間さんのiPadに作品写真が収められている。
母親が98歳の時に作品展に出品した「ふくろうのお友達」。優しい気持ちになる作品だ。現物は手元にはないが、佐久間さんのiPadに作品写真が収められている。

- 人生を支える決まり 2- もてなす心と思いやりを大切に。

高校卒業後芸能界入りし、今も第一線で活躍する佐久間さんの健康を支えたひとつに母親の手料理がある。不規則な撮影所生活が続くなかで、偏りがちな栄養を、バランスよく摂れるように工夫してくれたという。

「自宅が撮影所に近かったので、母がいつも食事を用意してくれていました。映画がクランクアップすると打ち上げが行われるのですが、我が家が会場になるんです。母はひとりで何十人分もの料理を作り、スタッフさんたちにまでふるまってくれた。家庭料理ですが、皆さん喜んでくれて。もてなす心や相手の健康を気づかう思いやりは、母から学びました」

心のこもった料理は人を健康に、豊かにすることを教えてもらった。

「そういえば、最近“ぬか漬け”にはまっているんです。ぬか床から作り、季節の野菜を漬けています。発酵食品だから体にいいですし。昔は苦手だった人参が食べられるようにも」

きゅうりや人参などの“ぬか漬け”。「特に理由はないけれど、作ろうと思いたって。食卓に欠かせません」
きゅうりや人参などの“ぬか漬け”。「特に理由はないけれど、作ろうと思いたって。食卓に欠かせません」

- 人生を支える決まり 3- 監督から言われた 「有志在形」の言葉。

「東映作品『五番町夕霧楼』(1963年公開)で田坂具隆(たさかともたか)監督から言われた言葉がいつも私の心にあります。この映画で初めての汚れ役、薄幸のヒロインを演じたのですが、その時に監督が演じる者の心構えとしておっしゃってくださったのが『有志在形(ゆうしざいけい)』。心があれば、それは形になって表れる。逆に心が無ければ何も表現できず、見る者の心を動かすことはできない、という意味です。表現者として、いろいろな役を演じる上で、もっとも大切にしている言葉です」

と同時に、田坂監督からは人に接する思いやりも学んだ。

「監督はエキストラ一人ひとりの名前を憶えていて、シーンの撮影前には、○○さん、と名前で呼んで“ここはこんな気持ちで歩いて”と指導するんです。その一方で、主人公には何もおっしゃらなくて、自由に感じたままを演じさせる。これはすごいことだな、と思いました。名前を憶えてもらっている、ちゃんと見てくれている、と思うと監督の気持ちに応えたいと思いますもの。監督は決して計算でしているわけではなく、どんな端役の人でも、相手を思いやり、きちんと見ていた」

思いやりの心を大切に、と言うのは簡単だが、それを実際に行動に移すのは、なかなか難しい。

「人を尊重する気持ちがなければ、思いやることはできない、と思うんです。監督は人をきちんと認め、そのうえで指導などを行っていた。監督との仕事は厳しかったこともありましたが、演じることの根本を教えてくださった。勉強になることばかり。今も舞台をはじめ、人の人生を演じていますが、『有志在形』を忘れたことはありません。そして、心を動かすような仕事を続けていきたいですね」

『クロワッサン』1027号より

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