空間デザイナー・井手しのぶさんの、終の棲家にしたい「好き」を詰め込んだ平屋の家。
撮影・青木和義 文・鈴木奈代
7軒目で実現した理想の住まいは、掃除もメンテナンスも楽な庭付きの平屋。
住宅や店舗のデザインを手掛ける井手しのぶさんが「終の棲家のつもりで」70平方メートルほどの平屋を建てたのは3年前。広々とした庭の、木立の間からは海が望める鎌倉の小高い山の上にある家だ。おもに湘南方面で転居を繰り返し、なんとこの家で7軒目。ほぼすべて、自分で設計・デザインをしてきた。
「子育てをしながら忙しく働いていた頃は、事務所兼自宅に。息子が独立して一人暮らしになってからは、念願の海辺に家を建てたこともあります。今回、この家を建てるタイミングで会社を人に譲り、手持ちの不動産も整理して、暮らしをコンパクトにしました」
目指したのは掃除がしやすく、維持もメンテナンスも楽なシンプルな家。LDKと寝室、バスルームのみの1LDKの間取りだ。
「掃除が苦手なの(笑)。でも犬1匹と猫2匹と暮らしているので、とにかく床が汚れるんです。LDKの床をモルタルにしたのは、ほうきでサッと掃けるから。寝室はウエットシートで拭けばOKなフローリングです。平屋で階段もないから、掃除機の持ち運びも苦にならない。掃除は楽になりましたね。あと光熱費が安くなりました。夏は犬のためにエアコンをかけていますが、電気代はさほどかかりません」
冬は室内まで陽射しがたっぷり入るので昼間はほぼ暖房いらず。モルタルの床は、太陽光を蓄熱して温かい。夏は直射日光が入らないので床がひんやり、窓を開ければ風もよく通る。
さらに使いやすく、心地よく家をアップデートしていく。
暮らしながら工夫をし、変えた箇所も。
「以前は、玄関を入った土間のようなスペースにダイニングテーブルを置いていました。でも来客時以外はソファに座り、庭やペットを眺めながら1人で食事をすることがほとんど。そこでテーブルをリビングに移動することに。そうするとキッチンが玄関から丸見えになったので、大谷石で目隠し壁をつくりました。近々、台風対策で雨戸も設置する予定です」
一方、家づくりでずっと変わらずに貫いているのが自然素材を使うこと。壁は珪藻土、窓や棚も既製品を使わず、大工さんにつくってもらっている。自然素材は、井手さんの好きな古い家具や小物、建具にもしっくり馴染む。それらが心地よく配された、程よい広さの家と庭。このスケール感こそが、7軒目にしてたどり着いた、理想の暮らしのための最たる工夫かもしれない。
モルタルの床にはラグを。暖色系の色でアクセントに。
井手邸のもう一つのLDはペットも走り回る広い庭。
片流れの屋根に、青い扉とタイル。まるで絵本に出てくるような外観。
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