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片づけられないのは、なぜ?
その理由を心理学で分析します。

片づけが大の苦手という映画評論家の石津文子さん。「片づけられない理由」を心理学者の植木理恵さんに分析してもらうことにしました。そこからわかったこととは…。

左が石津文子さん、右が植木理恵さん。

左が石津文子さん、右が植木理恵さん。

 

石津文子さん(以下、石津) 散らかっていて、スミマセン。5年前にクロワッサンで片づけてもらったときの段ボールも、まだリビングにそのまま積んであるんです。

植木理恵さん(以下、植木)モノがすごくたくさんあって、倉庫みたいですね(笑)。

石津 リビングに洋服、化粧品、仕事の資料や書類、ぬいぐるみもごちゃごちゃ。なぜこんなにモノが多いのか自分でもわからなくて……。

植木 心理学では、勉強、恋愛、仕事などにおいて、成功させるための行動様式を「物量型」「要領型」「外注型」の3つに分けて考えます。石津さんは自分の周りにモノをたくさん集めておきたい「物量型」のようですね。勉強のやりかたはどうでしたか?

石津 そういえば子どものころから、まずは参考書をずらっとそろえてました。

植木 やっぱり(笑)。要領型は、過去に出題された問題からどこがポイントなのか調べて、試験対策を練るタイプ。外注型は、頭のいい子と友だちになって、出来のいいノートを借りて勉強する。

石津 面白いですね。

植木 モノをたくさん買う物量型には、ロマンティックな面も見られます。石津さんのように、着ていく場所や目的を決めずに、あ、いいなと思った服をつぎつぎと買う。必要だから買うのではなく、この服で街を歩く、素敵な私……を想像しているんです。でも、ぬいぐるみは同じものが何個もあるのはなぜだと思いますか?

石津 限定ものに弱いんです。「おかいものクマ」ちゃんを、色違いで買ってしまったりします。

植木 買うことが楽しいのではなくて、いま買っておかないと後悔する不安から買っているわけですね。

石津 あぁ、そうかもしれない。欲しいというより、買えなくなる不安でしたか。

ぬいぐるみなど、限定ものは必ず2個買う。「悩んでひとつを選ぶことが買い物の醍醐味。それに気づいていません。買わずにあとで後悔したくないという不安が勝っています」

ぬいぐるみなど、限定ものは必ず2個買う。「悩んでひとつを選ぶことが買い物の醍醐味。それに気づいていません。買わずにあとで後悔したくないという不安が勝っています」


捨てられない、は現代病。悩む女性が増えています。

植木 片づけられない人は、頭の中も整理されていない状態であると言われています。私たちはふだん、左脳で論理的な判断を、右脳で感情的な判断をしています。たいていどちらかが強くて、モノを捨てるときも左脳派なら「使わないから捨てる」、右脳派なら「ときめかないから捨てる」と悩まず決められます。でも、感性で作られた映画を右脳で受け止め、左脳を使って理性的に評論するという、左脳も右脳も同等に使うことを求められている石津さんのような仕事をしていると、「もう使わない」と左脳が判断しても、「でも好きなモノだった」と右脳も主張して、このせめぎあいで捨てられなくなっちゃうんです。

石津 わかる〜。頭の中はつねにそんな感じです。同業者で、映画グッズが家じゅうにあふれている人、片づけが苦手な人、けっこういるんですよ。でもこういう脳のジレンマって、現代病といえそうですね。

植木 そうですね。女性には論理的なことが求められていなかった時代と違って、いまは左脳と右脳、どちらも同じくらい働かせることが求められているから、脳のせめぎあいで悩んでしまう。だから片づけようと思ってもできない女性が増えているように思います。

石津 なるほど。

きれいな空き缶、箱を捨てられない。「もったいないの基準がないから取捨選択できないんです。ごちゃごちゃとモノを置いて場所をふさぐほうがもったいないはずです」

きれいな空き缶、箱を捨てられない。「もったいないの基準がないから取捨選択できないんです。ごちゃごちゃとモノを置いて場所をふさぐほうがもったいないはずです」

植木 それとモノが多い人は、いろんなアイデンティティが頭の中で同居しています。石津さんのリビングには書類の山とぬいぐるみの山が両方ありましたが、頭の中にオジサンと少女が同居しています。

石津 アッハッハ。私、基本はおっさんだけど、頭のすみには少女のようなちっちゃい子もいるんだな〜。

植木 そんな人には、部屋ごとにテーマを決めることをおすすめします。ここはリラックスするための部屋、ここは仕事のスペース、というように目的を決めるとモノの置き場も決まるかもしれません。


ここに住んで幸せ、と思えるかどうかで変わる。

植木 片づけられない理由が、じつは意外なところにあることも多いんですよ。女性の場合、いま住んでいるエリアや家に愛着が持てないことが原因になっている場合も。女性はもともと何かに所属したいという「所属欲求」が男性より高いと言われます。自分が住む地域に気持ちよく所属したいのにそれができない理由があると、消極的になってしまって部屋を整えて人を招くことができる状態にはならないわけです。

石津 所属意識のなさ。まさに私がそうです。この家は夫の両親が買ったものを結婚を機に私たち夫婦が使っています。静かでいい所なんだけど、都心から離れていて仕事にすごく不便なので、私は便利な都心に引っ越したい! その不満も片づかない原因なのかぁ。

植木 いつか引っ越すのだから、いまはどうでもいい、という感じが部屋にも出ています(笑)。心理学では「ローカス・オブ・コントロール」=「自分の行動の制限がどこにあるのか」に注目します。他者にコントロールされていれば消極的に、自らが選んでいれば積極的になるのが人間です。だから他者の理由で住んでいる場合、コントロールされているわけですから、暮らしには消極的で、部屋も大事にできないのです。

何年も前のカードの請求書、領収書などの山。「決して見返す可能性はなくても、かつて見つからなくて困ったなどのトラウマがあると、ためこみがちです」

何年も前のカードの請求書、領収書などの山。「決して見返す可能性はなくても、かつて見つからなくて困ったなどのトラウマがあると、ためこみがちです」


石津 いやー、目からウロコです。ほんとそのとおり。私の引っ越せない不満が、片づけという行動を制限していたんですね。

植木 現実的には自分の思うとおりに引っ越せない場合も多いわけですが、「今は夫の仕事を応援するためにここに住む」など、住んでいる理由をポジティブに解釈することで、前向きになることもできるんです。ですから、転勤族の妻は片づけ上手な人が多いんですよ。

石津 この人についていくと選択した時点で腹をくくる人もいるんですね。私は違うな。でも片づけられない原因が、別のことに起因していたとわかって面白かったです。

植木 そう、ただの面倒くさがりだけじゃないんですよね。石津さんの性格や、現在抱えている問題などが、そのまま部屋に出ているんですよ。

石津 自分のことがわかると、なんだか片づけられそうな気がしてきました。

 
 

片付け上手になりたい方は、メソッド満載のクロワッサン倶楽部「リビング」記事をどうぞ!
https://croissant-online.jp/tags/living/

◎植木理恵さん 心理学者/フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』にレギュラー出演。『今すぐ50個手放しなさい!』(三笠書房)の監訳の他、著書も多数。

◎石津文子さん 映画評論家/映画誌や女性誌、ウェブに執筆。マダムアヤコとしてコラムやトークショーも。カンヌなど映画祭の取材も多い。

『クロワッサン』910号(2015年10月10日号)より

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