夫や同僚、家族に友人…人間関係由来のストレスを軽減するには?
イラストレーション・山口正児 文・板倉みきこ
親にイライラする。老齢の両親にもっと優しくしたいのに。
年とともに動きも遅くなり、前はできたことができなくなる親。
「なんでこんなこともできないの、とイライラしてしまうのは、以前の親のままでいてもらいたいという思いが強いから。こちらの期待値が高すぎるんです」(森田さん)
「怒りというより悲しみに近い苛立ちが湧き、受け入れられない自分を嫌悪してしまう負のスパイラルに入ります。受け入れたくない、ではなく、受け入れなくてはいけないことです」(小高さん)
そのために役立つのは知識。
「認知症や介護に対する正しい知識を増やしましょう。知らないと不安は増すもの。知識があれば、相手の状況や変化をある程度受け止められるし、処し方も変わります。介護が必要になったらどこに助けを求めるかも明確にしておくと、さらに安心です」(森田さん)
隣の家の落ち葉が我が家に。モヤモヤする。
「ご近所トラブルの解決には、普段から挨拶、世間話などをして、ある程度の関係性を築いておくのが大事です。普段挨拶もしていない相手からいきなりクレームを言われたら頭にきますし、防御のために『そっちだって』と反撃されやすいからです」(森田さん)
関係の土台を作った上で、相手に受け入れてもらえる伝え方をする。
「『いつもお世話になっています』などの肯定から入り、枯れ葉が落ちてこんなふうに困っている、などと事実をシンプルに伝えます。そして、木を切ってほしいとか、片づけてほしいとは言わず『何らか対応していただけないでしょうか』と解決法は相手に委ねます。自分の言い分はちゃんと伝えていますし、相手も『すみません』が言いやすい。常に“お互い様”の感覚を忘れないことです」(森田さん)
赤の他人にぞんざいな態度をとられると頭にくる。
レストランや買い物先などで受ける対応にカチンとくることは多い。
「頭にきた直後に相手に意見すると、ただの攻撃になってしまいます。ちょっと時間を置く、その場を離れるというのは、どんな場面でも役立つ方法。対象との距離があくと、怒りが収まる場合も多いからです」(森田さん)
その後、物事を客観視して、自分はどうしたいかを考えてみる。
「それでも相手に改善してほしい、この店を使い続けたいと思うなら、事実のみを伝えること。感情論ではなく、相手の具体的なセリフ、態度を文章化、再現などしてわかりやすく伝え、次回からこうしてほしいとお願いする。お互いにとってウィンウィンな関係を築きたいからだ、という思いが根底にあれば、相手を攻撃することなく伝えられるでしょう」(森田さん)
息子は私が何でもしてあげないとダメ。なのに感謝もなければやってあげたことに文句を言う。
母親は子どもの教育に対していつまでも責任がある、という日本ならではの価値観がストレスを助長させている原因、と森田さん。
「でも、何でもしてあげる関係を築いたのは外でもない自分だ、ということは潔く認めてください。頼りがいある母、というポジションを拠り所にしていた面もあるでしょう。でも、頼られることで自分の価値が認められるわけではないことに気づき、今後あなた自身がどうしたいかという基準を取り戻すべきです。ただ、いきなり『自分のことはやって』と息子を突き放すのはフェアじゃありません。大人同士として向き合い、『今後自分にかける時間を増やしていきたいので、自分でできることはやっていってほしい』と伝えます。息子にも自覚を促すことで、徐々に関係性は変わっていきます」
横倉恒雄(よこくら・つねお)さん●「横倉クリニック」院長。女性の内分泌学と心身症が専門。健康外来も併設。長年、病気が治る「脳」の健康法を提唱し続けている。
小高千枝(おだか・ちえ)さん●公認心理師。メンタルトレーナー、コーチ。心の免疫力を高めるためのセッションを提供。近年はがん患者のメンタルケアにも従事し、後進の育成にも励む。
森田汐生(もりた・しおむ)さん●アサーティブジャパン代表。社会福祉士の資格を有し、英国の精神医療団体でソーシャルワーカーとして勤務した経験も。全国各地で多数の講演・研修を行っている。
『クロワッサン』1020号より
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