くらし

【紫原明子のお悩み相談】自分は独りなんだという気持ちを消したい。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回はずっと独りだったという女性からの相談です。

<お悩み>
柴原さんの文章に何度泣いて深く共感したか分かりません。
35にもなって未だに根暗、情緒不安定です。
子供の頃から太っていて虐められ全く自分に自信もなく、鏡も見たくない。外も内も全て自分が気持ち悪いと思います。 父親は家庭内で堂々と愛人の話をし愛人には妻を姉だとほざき妻を風俗で働かせ酒と女だけの人でした(母が逃げてから1年ほどで愛人に看取られ死にました)。
母は私が23で家を出るまで耐え続け、他の男の元へ行きました(その男も口だけのヒモ男。私にまで金の無心をしてくるので現在は母との付き合い無し)。
私はまともな恋愛経験もなく国際結婚をしました。
夫は家族や友達がとにかく多く社交的で人に好かれるタイプです。
私との時間を優先する事もなく休日の予定も勝手に決め、出掛けてしまうと連絡も取れません。
結婚してから泣いて待ち続ける日々でした。
私は結婚する為に地方から出てきましたが仕事と家の往復で友達も出来ず夫が出掛けてしまうと一人っきりです。
子供が出来てからもあまり変わらず……家族で出掛ける事も月1~2ほどで、せいぜい近所の公園です。
結婚しても出産しても私は常に淋しく1人だと痛感します。
夫が家にいても彼は家族や友達と国際電話で楽しそうです。
夫は常に誰かと繋がってるんだなと思うと友達もろくにおらず人と深く繋がってる事もない自分が惨めでなりません。 夫には帰りが遅い、休日も家族で出掛けてくれない、子育ても手伝ってくれない!と文句しか出ません。
なので夫からは別居を視野に入れてると言われています。 休日に子供と出掛けても周りはお父さんが居る家族連れで気分が滅入りとても落ち込みます。
普通の家族の光景が羨ましくて仕方ありません。
毎日今日も子供たちに怒鳴ってしまったと自己嫌悪です。
結婚したら
出産したら
夫も最優先してくれるだろう……無駄だと分かっているのに 期待して毎回裏切られる。疲れました。
どうしたら夫など居ないものだと割り切れるのか。
子供たちと楽しく生きていけるのか。
子供としても妻としても愛されないんだという惨めな気持ちを捨てて前向きになれるのか。
心に刻まれた自分は独りなんだという気持ちを消したい。
愛に恵まれなかった自分がどうやって子供達を愛せばいいのか分かりません。 長々と失礼しました。
(相談者:まみむめも/女性/清掃パート育休中35才。 4歳2歳0歳の子供がいます。)>

紫原明子さんの回答

まみむめもさん、こんにちは。
お返事するのに時間がかかってしまってごめんなさい。私がまみむめもさんにどんな言葉をかけることができるのか、ずっと悩んでいました。
正直に言うと、今も答えが出たわけではないのです。それでも、まみむめもさんのことをふとしたときに気にかけ、どうすればその心が晴れるのかと考えている人間が、世の中に少なくとも一人はいる、ここにいると、そのことだけでも伝えなければと思い、お返事を書くことにしました。

これまで、つらく、孤独な時間を長く過ごしてこられたのですね。
いただいたお手紙の中に、今のまみむめもさんに寄り添ってくれる人は一人も登場しませんでした。身勝手なお父さん、今はもう付き合いのないお母さん、家庭を顧みない旦那さん。お手紙の中に、まわりの冷たい人たちと同じくらいたくさん出てきたのは、ご自身を卑下する言葉です。

“自分に自信もなく、鏡も見たくない”
“自分が気持ち悪い”
“自分が惨め”
“自己嫌悪”

以前、児童心理に詳しい人から聞いたんですが、地震などの天災で家族を亡くしたり、あるいは両親が離婚したりといったショッキングな出来事を経験すると、幼い子どもはしばしば「自分が悪いことをしたからこうなったのだ」と、誤ったストーリーで理解してしまうのだそうです。だから周りの大人は「あなたのせいじゃないんだよ」と教えなければならないのだそうです。

まみむめもさんがどう感じているかどうかわかりませんが、……そしてまみむめもさんはもう立派な大人でいらっしゃるのですが、それでもやはり、どうしても言わねばならないような気がしました。

まみむめもさんがもし、自分は愛されるべきときに愛されなかったと思うのなら、それは決して、あなたのせいではありません。悪いことをしたとか、何かが足りなかったとか、何かが劣っていたとか、そんなせいでは絶対にないのです。

子どもって可哀想なくらい不自由なので、家の中でどんなに理不尽な目に遭っても、保護者を見限ってその場を去ることができません。その場に居続けなければなりません。だから、もしかしたらまみむめもさんも、家の中で起きる沢山のつらいこと、理不尽なことを、なんとか正気を保って受け止めるために、“そこにいる必然性のある自分”を、作らざるを得なかったのかもしれません。
駄目な自分だから。惨めな自分だから。
そんな風に、愛されない理由を作り出さなければ、混沌に耐えて生き抜くことができなかった、それだけなのかもしれません。

自分って、決して自分だけで作っているわけではなくて、自分と、周りにいる人たちとが、一緒になって作り上げています。だからこそ、自分のことを大事にしない人と長く一緒にいてはだめなんです。そういう人と一緒にいると、次第にその人達と一緒になって、自分まで自分を大事にしなくなってしまいます。自分はひどい扱いを受けて当然だと思うようになってしまいます。だから、自分を不当な目に遭わせる人、自分をぞんざいに扱う人は、きっぱりと拒絶し、これは間違っていることだ、と、自分自身に教え込まなければだめなんです。

まみむめもさんは、もう昔のように不自由な子どもではありません。大人だから、お金を稼ぐこともできるし、家を借りることもできます。どんな人生を送るか、自分で考え、自分で決めることができるのです。

今からでも全く遅くないです。今まで周りにいた人たちが、まみむめもさんの中に勝手に侵入して、勝手に作り上げた間違った自分を、修正していきましょう。まみむめもさんは、愛され、大事にされ、尊重されて当然。ほかならぬ自分自身がそのことを思い出すために、それができる環境を、きちんと整えていきましょう。

もちろん、まだ生まれたばかりのお子さんもいらっしゃるということなので、すぐに大きな行動を起こすということは難しいかもしれません。それでもできることはあります。少しでも多くのお金を稼げる仕事を探したり(※)、子ども経由でも、趣味でも、インターネット経由でもいいので、どこかに旦那さんの知らない居場所を築き、仲間を増やしましょう。今は猫も杓子もイベントをやりたがる時代なので、あまり社交が得意でない人でも参加できる、門戸の広い集まりがたくさん開催されています。ちょっとだけ頑張って、そういうのに参加してみることはできそうでしょうか。

何しろお金と人という2大資本は、自由を強力に後押ししてくれます。そして自由があれば、これが言えるようになるんです。

「私をきちんと尊重しないのなら、あなたは私の人生にはいりません」

まみむめもさんは決して愛されないのでなく、愛してくれる人を選んでこなかっただけです。もっと言えば、今“愛してくれる人を選ばない自分”でいる、というだけです。

自分に冷たい他人を変えるというのは、残念ながら難しいことです。でも、自分に冷たい自分を変えることならもう少し簡単にできます。ですからぜひ“愛してくれる人を選ぶ”自分になりましょう。そうして、これまで頑張ってきたまみむめもさんを、幸せにしてあげてください。「このために生きてきたんだなあ」と思える瞬間に、ご自身をぜひ、導いてあげてください。

※ シングルマザーが対象ではあるのですが、たとえばこういったキャリア支援プログラムもあります。
https://www.single-mama.com/miraihenotobira/

紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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