くらし

自然の中で、ゆっくり過ごす。夏を乗り切る山暮らしのすすめ。

  • 撮影・土佐麻理子 文・長谷川未緒

居心地のいい空間で、それぞれが思い思いに過ごす夏。

20畳ほどあるリビングは家族が集う場。窓から外がよく見えるよう家具を配置した。奥には夏でも夜は使うことがあるという薪ストーブと、鹿の剥製が。

山の家があることで、 家族と密な時間を過ごせる。

ここで過ごすのは、おもに子どもたちの夏休みと冬休み、相場さんの仕事のない週末だ。冬は雪深いが、真夏でも気温は25度以下で、過ごしやすい。エアコンも扇風機もいらず、夜は肌寒くて薪ストーブを焚く日もある。

「夏をこの家で過ごすようになって、気持ちの良い季節が長くなった感じです。8月になっても、初夏のさわやかさが続いているイメージです。東京の真夏は、ただ暑いだけではなく、屋内は冷房で寒いくらい。そういう激しい温度差にさらされることがないので、体にかかるストレスも少ない気がします」(正一郎さん)

那須での夏は、修業時代を過ごしたイタリアを思い出すのだとも。

相場さん夫妻が暮らしたイタリアのトスカーナ地方では、3、4月から10月くらいまで清々しい気候で、よく庭にテーブルを出しては、食事やワインを楽しんでいた。

「この山の家でも、毎日のようにウッドデッキで食事しています。妻は虫が苦手で、アウトドアライフをあまり好みませんが、『きょうも外で食べるでしょ』と。それほど気持ちがいいんですよ」

携帯電話もインターネットもつながりにくいため、雑多な情報と離れることができるのも、心身が休まる理由のひとつだ。鬱蒼と茂る木々の葉音や、鳥たちのさえずり、ウッドデッキのすぐ下を流れる小川のせせらぎに耳を澄まし、のんびり過ごしている。

「ここでは、特別なことをするのではなく、何でもない時間を満喫しています。東京から持ってきた本をゆっくり読んだり、妻や子どもたちとおしゃべりしたり」

千恵さんも、道の駅で買った花を活けたり、雑誌を読んだりと、山の家では、生活そのものを豊かに楽しめるという。

「わたしものんびり昼寝したりできますし、子どもたちもリラックスして見えますね。東京とくらべて、時間の流れ方がゆっくりしているように感じます」(千恵さん)

小学6年生の長男は、宿題をぱっと済ませたら、プラモデルづくりに熱中。小学2年生の長女はパズルと、東京ではなかなか集中する時間が持てないことに、取り組んでいる。

もちろん自然と親しむ時間も、たっぷりある。

窓から明るい日差しが入るキッチンには、ナラ材をヘリンボーン模様に組み合わせた作業台を設置した。
家族4人の寝室。窓際には読書スペースをつくった。
寝室からウッドデッキに出られるドア。家じゅう風が行き渡り、開放的。
子どもたちが遊ぶのは、ゲストルーム。来客時には簡易ベッドも入れて、ひと家族は宿泊可能。

「ぼくが釣りをするので、渓流に一緒に行ったり、汗ばむくらい暑い日には、川まで泳ぎに行ったり。娘は最近、双眼鏡をおもちゃみたいに持ち歩いていて、森の中に入り、バードウォッチング気分を味わっているみたいですよ」

遊んだあとは、昼寝をしたり、本を読んだり。子どもたちは東京にいるときよりのびのびしているだけでなく、食欲もある、と千恵さん。

「ここでは夫が料理をするのですが、よく手伝っています。ピザとかパスタとか、生地をこねるところから自分たちでつくることが多く、そうして食べるものは、よけいに美味しいのかもしれませんね」

数週間ロングステイする夏休みには来客も多い。相場さん夫妻の地元の友人や、お互いの両親、親戚もよく訪れる。もともと家族仲がよく、友人も多いので、この家のおかげで集まるきっかけが増えた。

とくに訪問客が多いのは、車で30分ほど下った山の麓にあるりんどう湖の花火大会時期。ウッドデッキからよく見えるため、みんなで花火を観賞したあとは、近くの温泉に浸かりに出かけ、戻ったら再びウッドデッキでワイン片手に夜更けまでおしゃべりして過ごすこともある。

「東京では話さないようなプライベートなことも、ここでは不思議と話せるんです。自然に囲まれているからか、心がオープンになるのかもしれません」(正一郎さん)

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