くらし

【紫原明子のお悩み相談】若くして成功した夫との離婚を考えています。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は稼ぎはあるが妻の仕事や家庭を顧みない夫との離婚を考える妻から、2通の相談が届きました。

<お悩み>
(一通目)離婚を考えています。
夫は若くして財をなした人間です。昔は同業者でしたが、一念発起して異業種に転身。そこで大成功を収めた絵に描いたようなサクセスストーリーを歩んできました。しかしながら、家庭は本当に大変でした。何しろ夫は家にいません。私が乳飲み子を抱えて、仕事に行くとヘトヘト。やるべき家事も仕事も全て中途半端でなによりも孤独。
夫は俺より生産性がないなら辞めて家庭にコミットすれば良いと言い、辛すぎて一旦仕事をドロップアウトしました。
しかしながらやはり社会に価値を置きたいと一念発起して収入は夫よりは少ないながらも新しいことを始め、認め始められてきたのですがやはり「君には価値がない」、喧嘩の勢いで「ごくつぶし」とも言われます。

夫はお金は稼ぐし、結婚当初に比べたら他の家庭に比べてみても最近は手伝ってもくれます。私や子どもは夫のお金で成り立っています。毎日頑張って稼いでくれて、そこは本当に感謝しているんです。
しかし、自分が大切にしているものに対して価値がないと言う夫とどうしてもこの先人生が交わる気がしないんです。夫婦のコミュニケーションも時間を作ってはくれません。身体の関係もありません。そこを訴えても何も進展しないんです。夫へのコミットメントが低いのかなと思い、色々努力はしているのですが…暖簾に腕押しな気がしています。 もうどうしたら良いのでしょうか?

(二通目)離婚の相談をしたものです。 早速なんですが気になる人ができました。子持ちで、しかも離婚するか悩んでいる段階でこんなのお恥ずかしいのですが、相手は7つ年上の独身男性です。
お互い憎からず思っているのは伝わっているのですが、やけに目があったり、互いに挙動不審になったりと年齢にそぐわない体験をしています。。私は結婚しているし、相手は規範意識バリバリの立場なのでどうすることも出来ず、距離を縮められもせず…。
相手に対して何もしてあげられることもない今、自分の想いすら迷惑がられても怖くて、たまに偶然会う時にただドキドキするだけで。離婚に向けて色々動こうとするなか、本当に幸せな時間なんだけれど自分の欲望が醜く感じたりして嫌気がさしたりします。少しでも近づきたい、でも…の繰り返しです。
離婚にしても仕事にしても、わたしにはやるべきことがあり、そんな日常の中で彼は本当に聖域といいますか…。この気持ちと欲望をどう処理して、また付き合っていけばよいですか? アドバイスよろしくお願いいたします。(相談者:すいれん/女性。乳児と幼児2人の子持ち)

紫原明子さんの回答

すいれんさん、こんにちは。
なんだか他人事とは思えないようなご相談で、心中お察しします。

私達はいつも当たり前のように家の「内」と「外」と空間を分けて考えるけれども、その実、内と外はそれほどきっぱり隔てられているわけではなくて、むしろ、絶えず密接に、ズブズブに影響し合っているんですよね。パートナーの社会的地位の変化が、気づいたときには夫婦のあり方まで変えてしまうようなことって、悲しいかな結構あるみたいで。

私のかつての夫も、結婚後に大きな成功を収めた人でした。結婚して数年で、付き合っていた頃からは考えられないくらい生活が豊かになったのですが、その一方で、夫婦関係はどんどん冷え込んでいきました。家に帰って来る時間は日に日に遅くなるし、帰ってきてもどこか心ここにあらずな様子で、彼にとって、私と過ごす時間は前ほど重要でなくなったのだな、という事実を嫌が応にも突きつけられました。ましてやその頃の私はすいれんさんと違って仕事もしていなかったので、自分のアイデンティティのすべてが、妻であり、母であることでした。“大事にされる妻”でいられない自分が、どんどん価値のない人間のように思えてくるのです。

それでも、少なくとも“離婚をしていない”ということがきっと、私にとっても、また家族にとっても、なにか大事なものをつなぎ留めてくれているはずだ、という気持ちをなかなか手放すことができませんでした。結局、きちんと離婚するまでには、4年ほどかかりました。

でも、そうやってようやく離婚してみると、本当にすっきりしたんです。
自分の自尊心と天秤にかけて、それと釣り合うだけの、あるいはそれ以上に価値のあるなにかがきっと入っているに違いないと信じて、大事に守ってきた箱の中を、離婚とともについに覗いて見てみると、……あれ、空っぽだった!と、そこでようやく気が付いたんですね。

そんなわけで私は、すいれんさんは本当に立派な方だなあと頭が下がりました。何しろ、ご自分にとって何が大事なことか、もう今の段階で十分よく分かっていらっしゃるのですから。

自分が大切にしているものを同じように大切にしてくれること。
これ、本当に大事なことです。これが叶わないなら、わざわざ他者と生活する意味がないと、私は思います。

自分がパートナーから人として全く尊重されない状況にあるのに、子供のため、あるいは生活のためといったさまざまな理由で、そんな状況を甘んじて受け入れ続けている女性は決して少なくないように思います。事実、このお悩み相談でも、そういったお悩みは定期的に寄せられます。
だけど実際はむしろ子供のため、生活のためにこそ、そんな状況には、何かしらの方法で終止符を打ったほうがいいし、そのための努力をしたほうがいいと、私は思います。実際、夫婦喧嘩で行き過ぎた大人同士の暴言をしばしば耳にすることで、子供の脳の一部が萎縮してしまうそうです。またそうでなくても、自分が尊重されることを重視しない親の姿を見ている子どもは、将来、自分もまた、人として尊重されるという当たり前のことを軽視するかもしれません。
子供のためばかりでなく、他でもない自分自身にとっても、他者から大事にされない状態があまりに通常運転になってしまうと、自分自身もまた、自分のことを大事にできなくなるかもしれません。自分を貶める人と二人でいることと、一人でいることと比べれば、私は前者の方がはるかに有害だろうと思います。

たとえ片方がどんなに高給取りでも、たとえ子どもがどんなに小さくても、パートナーと、お互いを尊重し合える関係を望むことは何ひとつ間違ったことではありません。あなたが私を人として尊重しないならこの関係は受け入れられない、といざというときに毅然とした態度を示すことは、つまるところパートナーへの一番の誠意とすら言えるのかもしれません。

さてそんな中、重ねていただいたお手紙には、なにやら素敵な恋の予感。なんともいい感じじゃないですか!彼を、神様が目の前にぶら下げてくれた人参だと思うか、あるいは思いがけない落とし穴にしてしまうかは、すべてすいれんさんにかかっています。しかしいずれにしても、彼に惹かれる気持ちが醜いなんてことは絶対にありません。体の疲れと心の疲れは別物なので、どんなに忙しいときにも、心の浮き立つような出来事ならば別腹ですよね? ……というよりむしろ忙殺されそうな毎日にこそ、無理やりにでも、時間と心の余裕を捻出して、自分のための充電タイムを設けないとやっていけません。
すいれんさんが大事にしたいと感じられていることは、決して間違っていないと私は思います。自分を信じて、がんばっていきましょう。

紫原明子さんへのお悩み相談はこちらから!

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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