『カフェノナマエ』著者、川口葉子さんインタビュー。「名前には不思議な力があると思います」
撮影・黒川ひろみ
「小さい頃からずっと“名前の由来”に惹かれているんです」
と川口葉子さん。今まで行ったカフェの中から、約200軒の店名の由来を、写真を交えながら、10章にわたるエッセイ形式でまとめた。昔からの行きつけ、一度聞いたら忘れられないなど、選んだ理由はさまざま。
「私、本当は桜が満開になる頃に生まれる予定で、“桜子”って名前が用意されていたんです。でも1週間ばかり遅れて、もう葉っぱだけになっていた。だから“葉子”。由来を知ってから、私は人生に欠けているものを求めるように桜の虜になった。だから、名前には不思議な力があると思います」
名前への関心は、大好きな喫茶店やカフェの店名にも広がった。
「今は毎日2軒に抑えていますが、学生時代は10軒巡るほどでした。それぞれの店が持つ世界観に浸るのが楽しくて。新しい店を訪れるたびに、店名の由来を聞くのが癖でした。たとえば大阪の喫茶店『あ』は、五十音のようにここから何かが始まって広がっていけるようにとつけられたし、東京のサロン『ことたりぬ』はバーテンダー、デザイナーと何を経験してもことたりない、と感じていた店主がつけた。“こんな店になってほしい”という店主の思いや、彼らの人生観が垣間見えるのが面白いなと思います」
好奇心がくすぐられるような、 魅力的なタイトルにしたかった。
ただのガイドブックにならないよう、紹介の仕方もこだわった。
「情報だけを淡々と並べると読み手も疲れて、最後までたどり着けない。だからオーナーと交わした会話を入れたり、本に載せる写真も自分で撮ったりと、できるだけ主観的に。そのほうが読んでいる方も、本当に行った気持ちになる。あとは、分類の仕方も工夫しました。最初は、あいうえお順にするつもりでしたが、あまりに単調すぎるかな、と。そこで“芸術から〟“好きな動植物から”など自分なりにネーミングの原則を考えました。そして、掲載したい店のリストを作って、一つずつ由来を書き出していきました」
各章のタイトルのつけ方にも川口さんの思いが溢れている。
「たとえば、人名が由来の店を紹介する“それは誰ですか?”という章のタイトル。誰かの名前が店名になっているカフェを訪れた時は、いつもこう聞いているんです。単に“人名”と名付けてもよかったのですが、読んだ人の好奇心がくすぐられるような、魅力的なタイトルにしたかった」
カフェが好きな人に読んでほしいという。
「その日の気分で何となく開いたページを読んで、店の世界観と店主の人生観を味わうのもいいですね。あとは、もし自分の店が持てるならどんな名前にしようかなと、ワクワクしながら読んでもらえたらうれしいです」
店名に隠された物語を、コーヒーを飲むかのように丁寧に、一文一文味わいたい。
『クロワッサン』990号より
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