元スポーツ新聞記者。その後アフリカ・タンザニアの大学に留学し、現地で医療の重要性を痛感。帰国後に看護学校に入学し、看護師の資格を取得した。作家デビュー後も創作活動をしながら現役の看護師として勤務を続けている。
「今も看護師を続けているのは、この仕事が好きなこともあるし、出会える人たちのリアルな声を聞けて、現代の日本が見えてくるということが大きいです」と藤岡さん。家の中に閉じこもっていては見えない『現場』にいられることが、自分にはとても大事なので、と。
「患者さんとして接する方々には、すごい人生を送っていらっしゃる方が数多くいます。もと刑事さんとか、もと船乗りさんとか。私、そういう方のお話を、仕事の合間にめっちゃ聞いてしまうんですよ。前に戦争物を書いたんですが、患者さんの中に戦時中の記憶をお持ちの方がいて、取材させてもらったこともありました」
心からの興味をもってじっくり話を聞く藤岡さんの病床への来訪を、心待ちにする患者さんも多いそう。
「みなさん、長い人生を戦って生き抜いていらっしゃるので、言葉に強さとか重み、深さがあるんです。それが刺さるというか、カッコいい。尊敬の念を抱きますね」
もちろん看護の現場は、つらい気持ちを抱くことも多い。
「担当している方が亡くなったときなど、理不尽さを感じることもあります。しかし逆に末期がんの人に励まされたりして、強さを分けていただくこともある。それで受け取ったものが、時には何年も経った後に、私の中で物語として再生する。そういうふうに受け止めることにしています」
作品のなかのジイたちも、自分の孤独、弱さを次の世代に見せながら生きている。それが瀬戸内の海の包容力と一体になり、主人公たちの勇気となる。
「『お前は新しい海を行け』。そう言って次世代の人の背中を押すジイの姿を、カッコいいと思ってもらえたら」