くらし

【親の資産状況が全くわからない!】読者の相続問題を、税理士が徹底解説。

  • イラストレーション・山下カヨコ 文・板倉ミキコ

【中島さんの回答】

認知症になった親の財産は、たとえ子どもでも動かせない。

超高齢社会を迎えた今、A子さんのようなケースは他人事ではない。

「認知症と診断された方の財産は、たとえ親族でも、資産保護の観点から基本的には動かすことはできません。A子さんに限らず、この先、親を介護しなければならない状況に陥る可能性は、誰にでもあります。本人に関わる案件に必要なお金だとしても、認知症の親の口座からはむやみにお金を出せず、自分が負担しなければならないことも。そうなった時に慌てないためにも、親が元気なうちに財産管理をすべきなのです」

では、既に認知症の母親を抱えるA子さんが今できることは?

「軽度な症状、判断能力がしっかりある、記憶があるということなら、本人の自筆で委任状を書いてもらい、独自に調査するパターンもあります。でも、A子さんのお母様は判断能力がない状態ですので、法定後見人をつけ、その上できちんと法的に財産を把握してもらいましょう。ホームの契約なども法定後見人がやってくれます。介護にかかる実費など、本人にとって必要な出資であればこちらのお金を持ち出さなくとも、親の預貯金から出してもらえます。ただ、後見人の実務への支払いは発生します。内容によって異なりますが、最低でも毎月2万〜3万はかかるでしょう。何年続くかわからないので、けっこうな出費になることも」

一方、親が元気なうちに契約を結べる任意後見制度は、将来に備え、あらゆる財産の管理をオーダーメイド型で後見人に委任できる契約。また、親本人の望む範囲内で代理人に任せられる、財産管理委任契約や民事信託などの制度も活用できる。

「これらとは別に銀行ごとに独自のルールがあるので、本人と一緒に銀行に行き、代理人の届け出をしてもらうのもおすすめです。いずれにせよ、今のうちから財産についてオープンに話ができる関係性を築くこと。親が望む対応策を講じてあげましょう」

《法定後見人とは?》
成人で、判断能力が不充分な人の財産を不当な契約などから守るための制度。成年後見制度の一種。既に判断能力が不充分な時に、四親等以内の親族などの申し立てにより、家庭裁判所に選任された後見人が本人に代わって財産や権利を守る。

親が納得する制度を利用

●財産管理委任契約
判断能力がある本人が、特定の人(身内も可能)を任命し、現在から財産の管理などの代理人になってもらう契約。本人の希望に応じた内容を記載し、契約書を作成(公正証書がおすすめ)。老後の備えに下記の任意後見契約とセットで結ぶことが多い。

●任意後見制度
将来、判断能力が不充分となった時に備えるための成年後見制度。本人が選んだ後見人(身内も可能)が財産管理の代理権などの権限を持ち、職務を遂行できる。どのような事務を依頼するのかも本人次第。公証役場で契約書を作成する。

●民事信託
余剰資産の有効活用を行うことが困難な後見制度を補填。本人(委託者)が設定した信託の目的に従っていれば、受託者(身内も可能)による資産運用が可能。受託者は本人の任意で指定でき、司法書士が契約書を作成。この際、登記が必要。

中島典子(なかじま・のりこ)●税理士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。広尾麻布相続センター代表。相続前後の幅広いアドバイスが好評。http://tax-money.jp

『クロワッサン』990号より

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