認知症になった親の財産は、たとえ子どもでも動かせない。
超高齢社会を迎えた今、A子さんのようなケースは他人事ではない。
「認知症と診断された方の財産は、たとえ親族でも、資産保護の観点から基本的には動かすことはできません。A子さんに限らず、この先、親を介護しなければならない状況に陥る可能性は、誰にでもあります。本人に関わる案件に必要なお金だとしても、認知症の親の口座からはむやみにお金を出せず、自分が負担しなければならないことも。そうなった時に慌てないためにも、親が元気なうちに財産管理をすべきなのです」
では、既に認知症の母親を抱えるA子さんが今できることは?
「軽度な症状、判断能力がしっかりある、記憶があるということなら、本人の自筆で委任状を書いてもらい、独自に調査するパターンもあります。でも、A子さんのお母様は判断能力がない状態ですので、法定後見人をつけ、その上できちんと法的に財産を把握してもらいましょう。ホームの契約なども法定後見人がやってくれます。介護にかかる実費など、本人にとって必要な出資であればこちらのお金を持ち出さなくとも、親の預貯金から出してもらえます。ただ、後見人の実務への支払いは発生します。内容によって異なりますが、最低でも毎月2万〜3万はかかるでしょう。何年続くかわからないので、けっこうな出費になることも」
一方、親が元気なうちに契約を結べる任意後見制度は、将来に備え、あらゆる財産の管理をオーダーメイド型で後見人に委任できる契約。また、親本人の望む範囲内で代理人に任せられる、財産管理委任契約や民事信託などの制度も活用できる。
「これらとは別に銀行ごとに独自のルールがあるので、本人と一緒に銀行に行き、代理人の届け出をしてもらうのもおすすめです。いずれにせよ、今のうちから財産についてオープンに話ができる関係性を築くこと。親が望む対応策を講じてあげましょう」
《法定後見人とは?》
成人で、判断能力が不充分な人の財産を不当な契約などから守るための制度。成年後見制度の一種。既に判断能力が不充分な時に、四親等以内の親族などの申し立てにより、家庭裁判所に選任された後見人が本人に代わって財産や権利を守る。