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【しりあがり寿×渡辺晋輔】知れば知るほど、面白い。「ルーベンス展」を攻略する。

バロック美術と聞いて難しいと思う人は確かに多いが……。漫画家・しりあがり寿さんと考えるその真の魅力。

撮影・谷 尚樹 文・黒澤 彩 漫画・しりあがり寿

窓の向こうに広がる架空の世界をリアルに描く。

「絵の中から物語が浮かび上がるのがルーベンスの魅力」(渡辺さん)
「絵の中から物語が浮かび上がるのがルーベンスの魅力」(渡辺さん)

渡辺 ギリシャ語やローマ語の原典を読めたルーベンスは、古代の世界に浸りきることができたはずです。絵画の中の物語がリアルに浮かび上がって見えるのはそのためでしょう。

しりあがり 物語のリアリティを意識していたんですね。学生に漫画を教えるときにも、架空の物語をいかにリアリティをもって伝えるかが大事だということを話します。必ずしも絵はうまくなくてもよくて、今ここにない世界をいかに再現するか。絵画の歴史も同じなのでしょう。ルーベンスの絵は、それまでの絵とは空気感みたいなものが違って、ドラマチックに見えます。演劇にたとえるなら、照明とか舞台セットが急に進化したようなイメージ。

渡辺 まさにそのとおりで、この時代の絵というのは、窓の向こうにある架空の世界を描くものでした。つまり額縁が窓なのですが、その窓の存在を感じさせないような描き方をする。あたかもリアルな世界が広がっているように見せるわけです。ただ、リアル=写実的というわけでもないんですよね。ルーベンスは五感に訴えるような手法で物語を伝えようとしました。

「架空の世界をリアルに見せようとするのは漫画と同じ」(しりあがりさん)
「架空の世界をリアルに見せようとするのは漫画と同じ」(しりあがりさん)

しりあがり 別の世界がそこにあるかのようにリアルに感じられるものといえば、今なら写真や映画ですよね。

渡辺 ルーベンスが考えていた絵画の物語性は、映画的ともいえます。一つのフィクションの中に知覚した世界を本物のように感じるという意味では、当時の人たちが絵画に求めていたものは、私たちも理解できるんじゃないでしょうか。

しりあがり 今も昔も、架空の世界を楽しみたいという欲求は同じなのかな。もし現代にルーベンスが生きていたら、画家じゃなく映画監督になっているかも? 工房をかまえて商業的に成功したっていう話も、ちょっとハリウッドっぽいじゃないですか。

渡辺 大勢の弟子がいて、どれだけ画家本人が関わるかによって価格を変えたりと、システマティックに工房を経営していたみたいですね。版画をたくさん刷って、かなり儲けていたとか。

しりあがり 現代の芸術家のイメージからは意外だけど。ルーベンスのような画家が実業家でもあったというのは想像がつきます。やっぱり、今だったら絶対にお金かけて映画撮ってますよ。「ヘラクレスの逆襲」みたいな超大作を。そんな世界観を一枚の絵で表現していたんだから、すごいなぁ。ルーベンス、おそるべし!

制作総指揮ルーベンス、ハリウッド史上最強の超大作「ヘラクレスの逆襲!!」(公開未定)。
制作総指揮ルーベンス、ハリウッド史上最強の超大作「ヘラクレスの逆襲!!」(公開未定)。

【ルーベンスのミニ知識 3】西洋絵画史ではどんな位置にある?

ルーベンスはバロック絵画を代表する画家の一人。バロックとは、16世紀末から18世紀初頭にかけて、イタリアを中心にヨーロッパ全体に広まった芸術様式のこと。イタリアではカラヴァッジョ、スペインではベラスケス、オランダではレンブラントやフェルメールがほぼ同時代の画家として挙げられる。平面的で調和のとれたルネサンス美術に対し、バロックは明暗のコントラストや劇的な描写が特徴。勢力を増すプロテスタントに対抗するカトリック復興の一環として、見る者にわかりやすい絵画が求められたという側面もあった。ルネサンスからバロックまでイタリア美術の全盛期が続いたが、18世紀以降、美術の中心はフランスへと移っていく。

《眠る二人の子供》 1612-13年頃 東京・国立西洋美術館
《眠る二人の子供》 1612-13年頃 東京・国立西洋美術館
《ローマの慈愛(キモンとペロ)》 1612年頃 サンクトペテルブルク、エルミタージュ美術館 Photograph © The State Hermitage Museum, 2018
《ローマの慈愛(キモンとペロ)》 1612年頃 サンクトペテルブルク、エルミタージュ美術館 Photograph © The State Hermitage Museum, 2018
《眠る二人の子供》 1612-13年頃 東京・国立西洋美術館
《ローマの慈愛(キモンとペロ)》 1612年頃 サンクトペテルブルク、エルミタージュ美術館 Photograph © The State Hermitage Museum, 2018

※作品はすべてペーテル・パウル・ルーベンス

しりあがり寿(しりあがり・ことぶき)●漫画家。主な作品に『弥次喜多 in DEEP』『ヒゲのOL藪内笹子』『地球防衛家のヒトビト』など。近年は現代アートの個展を開催するなど、漫画以外の分野でも活躍。

渡辺晋輔(わたなべ・しんすけ)●国立西洋美術館主任研究員、ルーベンス展監修者。専門はイタリア美術史。『ラファエロ展』『アルチンボルド展』などの展覧会を企画。著書に『ジョットとスクロヴェーニ礼拝堂』(小学館)などがある。

ルーベンス展—バロックの誕生
2018年10月16日(火)〜2019年1月20日(日)
国立西洋美術館 東京都台東区上野公園7-7
9時30分〜17時30分(金曜、土曜は20時まで。11月17日は17時30分まで ※入館は閉館の30分前まで)
月曜、12月28日〜1月1日、1月15日休館(12月24日、1月14日は開館)
一般・当日1,600円ほか
TEL:ハローダイヤル 03-5777-8600

『クロワッサン』983号より

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