【紫原明子のお悩み相談】スマホ依存のリハビリにおすすめの本を教えてください。 | くらしにいいこと | クロワッサン オンライン
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【紫原明子のお悩み相談】スマホ依存のリハビリにおすすめの本を教えてください。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。あなたもお悩みを投稿してみませんか?

<お悩み>
読書家の紫原さんにご相談です。ツイッターなどの短文ばかり追っているうちに、長い本がめっきり読めなくなって困っています。
特にミステリーなどちょっとでも設定を見逃すとわけがわからなくなる系の本は挫折率が高く、読み通すことができません。
昔は本が大好きだったので、読書の楽しみを取り戻したいと思っています。こんなスマホ依存の私のリハビリにおすすめの、途中であらすじを見失っても文章の美しさで読み終えられるような、小説やエッセイがありましたら教えてください。
できれば短めの本が嬉しいです!

(相談者:本が好きだった/30代女性IT企業勤務)

紫原明子さんの回答

本が好きだったさんこんにちは。

お気持ちとてもよくわかります。最近iPhoneに新しくスクリーンタイムという機能がついたのをご存知ですか? 一日の間にスマホを見ていた時間や内容を記録してくれるという完璧に余計なお世話機能なんですが、私先日、8時間46分という過去最長時間を記録しました。

そうはいってもKindleもスマホで読んでるしな〜と思ったところで、スクリーンタイムはご丁寧に何を見ていたかの内訳まで帯グラフで出してくれるんで、圧倒的にSNSだということがどこからどう見ても一目瞭然でした。

言い訳をするとすれば、力をこめて書いた記事が公開される日なんかはつい反応が気になって、自ずと一日中ツイッターに張り付き状態になってしまうのですよね。と言い訳したところで端的に言って廃人であることには変わりなし。ツイッター廃人ですね。そしてたしかにツイッターに慣れてしまうと、本の一文、一段落って長いんですよね。

だけどやっぱり140文字で得られる感動って140文字サイズだな最近とつくづく思います。和歌や短歌のように文学性が乗る余地があるかっていうと言葉数が多すぎて余白がないし、かといって主張を誤解なく他者に伝達できるほど十分に書けるわけでもない。どんどん流れていくし、横に広がっていくから、議論も収拾がつかない。

“一見悪そうなお兄ちゃんが朝の街で人知れずゴミを拾っていた”みたいな何のひねりもない良い話か、”フェミニズムは女のヒステリー”みたいな妙なうさばらしの言説がひたすら量産されている様子を見ると、少し不安になってしまいますね。と、まあかく言う私こそがツイッター廃人なのですが。

でも本当なら、自分はどう生きるかとか、何を良しとするかとか、少なくともそういったことは、考え始めてから暫定的な結論に到達するまで、できるだけ長い時間をかけたいですね。答えが出ないのって便秘みたいなものなので、苦しいしモヤモヤするけど、安易に結論を出さずに、なるべく粘りたい。

思考力って、きっとそんなモヤモヤに耐え抜く忍耐力をベースに、発想力や柔軟性などさまざまな要素が盛り盛りに盛られたものなんだろうと思います。そしてこの思考力が、現時点で自分の中でどの程度機能してるかというのは、文章を書こうとするともう如実にわかってしまいます。

疲れていたり、ちょっと考えることを放棄して楽をしたい日が長く続くと、いざ文章を書こうと思っても序盤の展開【AだからBだ】以降、パタリと書けなくなってしまったりするんです。しかもA,Bそれぞれが見事に140字程度だったりすると、ツイートをバズらせることに脳が最適化してしまったと愕然とします。

こういうのを体験すると危機感を覚え、やっぱり本を読もう、本を読みたい、と思います。ボリュームのあるまとまった文章というのはそのサイズでこそ展開され得る多岐にわたる思考や世界観を見せてくれるし、そのサイズだからこそ乗せられる感動を伝えてくれます。

きっと、相談者さんもこんな気持ちで相談を送ってくださったのだと思います。では前置きが長くなってしまいましたが、今回は4冊ほど、お気に入りの本を選んでみました。 “本が好きだった”さんのお気に召す一冊が見つかりますように。

『絶叫委員会』穂村弘/ちくま文庫 (⇒Amazon)

一冊目のこちらは歌人の穂村弘さんが、印象的な言葉について書かれたエッセイ集です。それぞれの章も比較的短く、ただでさえ読みやすいのですが、何をおいてもさすがは言葉のプロ、とにかく、ものすごく面白いんです。私は笑いすぎて泣きました。
今回、ここでご紹介するためにあらためて文庫本を引っ張り出してきましたら、過去の私、本にたくさん付箋を張っていました。そういう本だったかな? と思いつつ付箋の箇所を確認したら、一箇所はこの行でした。
“映画の中のカップルは美しいのに、実際に街角で見るカップルの多くが醜いのは何故だろう”

『すばらしい日々』よしもとばなな/幻冬舎文庫(⇒Amazon)

二冊目は言わずと知れたよしもとばななさんの、これまたエッセイ集です。私は10代の頃、よしもとばななさんの作品を本当にたくさん読みました。『キッチン』も『TUGUMI』も『うたかた/サンクチュアリ』も『白河夜船』もみんな大好きでした。
あのとき好きだったものを、どうして私が好きだと感じたのか。今また読んだらどう思うだろうと、36歳になった最近、ふと気になって読み直しているのです。そんな中出合った『すばらしい日々』は今年出版されたものなのですが、やっぱり、昔と同じように好きでした。
誰かの気持ちや置かれている状況を、言葉や会話からでなく、何気ない一瞬の光景の中からすくい上げる。そのための眼差しを思い出させてくれる本です。

『ヴェネツィアの宿』須賀敦子/文春文庫(⇒Amazon)

先の2冊より文章のボリュームがあるのですが、文章の美しさで読み終えることができるエッセイ集といえばやっぱりこちらです。特に表題作「ヴェネツィアの宿」は圧巻です。
一人、小さな宿で過ごすヴェネツィアの夜。開け放った窓の外から聞こえてくるオペラと、語り手を襲う突然の発熱。次第に盛り上がりを見せる音楽と、発熱により高まる動悸とが異様な高揚感を演出し、冒頭から読者をぐんぐん引き込みます。
そうして章の終盤、ようやく緊張が一段落したかに思えた最後の最後で、今度は思わぬ角度からもう一度、息を呑む展開を迎え、そこから本格的に物語が始まるのです。
生活の中に眠るドラマを、こんな風にシャープに切り出して描けたらかっこいいなぁと書き手としても憧れずにいられません。

『孤独な夜のココア』田辺聖子/新潮文庫(⇒Amazon)

こちらは、田辺聖子さんによる恋愛小説の短編集です。この本が出たのはなんと1983年。私が1歳の頃で、相談者さんにいたってはまだお生まれになっていないですね。ところが驚くべきことに、今読んだってとてもしっくりくるんです。
登場人物たちはそれぞれに誰かと出会ったり、別れたりするけれど、みんなが基本は自分の足で立って、自分の思うように生きようとしている。そういう姿に、どこか励まされるのかもしれません。

以上です。……余談ですが今回、妙な位置に改行があるなということにお気づきいただいたでしょうか。実はスマホ依存を自認される相談者さんのために、最初から最後まで文章を1ツイート分、約140文字で分けてみました。

読みやすかったですか? ……むしろ読みにくかったでしょうか。

いいのです。無駄な努力だって、あっていい。

……それではどうぞ、本をお楽しみください。

イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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