ゆるキャラの先にある禅の教えを読み解く。出光美術館『仙厓礼讃』
文・森竹ひろこ(コマメ)
「かわいい禅画」「ゆるキャラの元祖」ともいわれるユーモアあふれる作風で幅広いファンを持つ、江戸時代後期の禅僧・仙厓義梵(せんがいぎぼん)さん。出光興産の創業者・出光佐三氏も魅せられた一人だ。初代館長を務めた出光美術館は約1000件にもおよぶ仙厓コレクションを所蔵。その中から代表作とともに、仙厓さんの豊かな隠居生活がうかがえる作品を展示した『仙厓礼讃』展が開催中だ。
仙厓作品の多くは、62歳で日本最古の禅寺である博多・聖福寺の住職引退後、数え88歳で亡くなるまでに制作された。その画風は「無法」といわれ自由闊達だが、もとは正統な絵も描いていたそう。
「狩野派の絵画に学んだようで、彼らの絵手本帳と合う絵も残っています。でも絵が上手だと、見る人はそこに注目して、絵が示す禅の教えまでたどり着けない。これはいけないと、画風を変えたのではないでしょうか」と出光美術館学芸員の八波浩一さん。
隠居後の仙厓さんは禅画制作をしつつ、名所旧跡への旅行、地元博多の祭りや催し物の見物、茶をたしなみ、古器物を蒐集し……と超多趣味。80歳を過ぎても、地元の浜にトドが打ち上げられたと聞くと、見に行き画を残すほどの好奇心とバイタリティーの持ち主だ。見る者が思わず微笑む、月を指す布袋様と幼子の画で禅の悟りを説く《指月布袋画賛(しげつほていがさん)》や、○と△と□を組み合わせただけの最も難解とされる《○△□》などの代表作をはじめ、何千といわれる膨大な作品を残した。
出光氏最後の蒐集作である、2羽の鶴が伸びやかに描かれた《双鶴画賛》では、「鶴ハ千年 亀ハ萬年」の諺に続き「我れハ天年」と書き添えて、長寿を求めずに、ただ天から預かった命に感謝を示している。
大輪の牡丹に「植えてみなさい。花を咲かせない土地などないのだ」という意味の言葉を添えた、最後の作品《牡丹画賛》も必見。
「ちょっとしたことでつまずいていては後が続きません。それを乗り越えて挑戦してもらいたいというのが、仙厓さんが最後にいちばん伝えたかったメッセージだと思います」(八波さん)
限りある命だからこそ存分に生きぬくことを自らの人生で示した仙厓さん。「かわいい禅画」にほっこりしつつ、生きる元気ももらえそうだ。
『仙厓礼讃』出光美術館 ~10月28日(日)
出光美術館(東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)03-5777-8600 10時~17時(金曜~19時) 月曜休館 料金・一般1,000円 出光専用エレベーターにて9階へ。
『クロワッサン』983号より
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