『日本の洋食 洋食から紐解く日本の歴史と文化』著者、青木ゆり子さんインタビュー。日本人のこだわりが洋食文化を育てた。
撮影・中島慶子
カレーライスやオムライス、ハンバーグなど日本で「洋食」と言われる料理には、西洋の料理を独自にアレンジしたものが多い。世界各国を旅して、その地域で愛される料理を紹介してきた青木ゆり子さんは、本書でさまざまな「洋食」の歴史を解説するなかで、そのルーツを探る。
「日本では江戸時代に鎖国政策を敷いた際に、主にポルトガルやスペインから南蛮渡来というかたちで西洋料理が入ってきました。その後は明治維新で各国と条約を結ぶことで、海外の食文化が伝えられます。ただ、西洋の料理を目にして、それまでの習慣で食べ慣れない食材などは調理法や調味料を変えることで、日本人好みの味に発展しました」
青木さんは明治維新後に開港された函館、新潟、横浜、神戸、長崎の各都市に伝わった西洋料理に着目する。
「函館でいえば、地理的にも近いロシアから伝わった料理が根付きます。日本人シェフによる初めてのロシア料理を提供する『五島軒』が1879年に開業して、当時からボルシチやピロシキなどを出していました。
また、新潟はスパゲッティ・ミートソース発祥の地です。1881年創業の『イタリア軒』(現在は『ホテル・イタリア軒』)でトリノ出身のシェフが本国のボロネーゼにならってミートソースをパスタに和えたかたちで提供しました」
スパゲッティについては、「ナポリタン」の誕生も本書で詳細に記されていて興味深い。
「よく言われるように、イタリアのナポリにはナポリタンはないですから、あくまで日本独自のイタリア風洋食です(笑)。もともとは横浜のホテルニューグランドの総料理長が考案したものですが、その際はトマトソースを使っていて、本国のスパゲッティ・アッラ・ナポレターナに近いものでした。それを1946年に横浜市内で創業した『センターグリル』のシェフが、日本産の柔らかい麺を茹でてからケチャップと野菜やハムを加えて炒め、提供した。麺を炒めるという発想はイタリアにはないので、日本人に受け入れやすくするための工夫と言えます」
本書では、全国各地に伝わる、こうした洋食をひもとくなかで、現在も当時のメニューを提供している店を創業年とともに数多く紹介している。
「今や誰もが身近に食べている洋食も老舗で食べれば、味の原点を知ることができると思います」
ミネルヴァ書房 2,000円
『クロワッサン』982号より
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