作家の若木未生さんに聞く、「コバルト文庫」の世界。
撮影・角田菜摘
コバルトで育った読者がコバルト作家に、ということも多かった。
毎年のバレンタインは、小説の 登場人物の総選挙みたいなもの
コバルトとの出合いは新井素子先生です。とにかく私は本を読んでいないと死ぬタイプで、歴史物も世界名作文学も、図書館の棚を端からジャンル別に読み倒していくような子だったんです。
小学5〜6年生の頃にSFが面白いと思って、星新一先生や筒井康隆先生を読んでいくうちに新井先生の存在を知り、高校2年生でプロになられた方だということも知りました。10代でプロってことがもう羨ましくて、どれほどのものかよ、みたいな不遜な態度で読んだら、ガーンと打ちのめされた(笑)。
『星へ行く船』が大好きで、もうどれだけ繰り返して読んだかわかりません。ただ、新井先生の文体って伝染するんです。読むとすぐに新井さんっぽくなってしまうので、その影響から這い出るのに必死でした。
自分で小説を書き始めたのは中学生くらいから。でも書いていると親が怒るわけです。「また勉強しないで小説書いてる!」って。小説を書いていても怒られないようになりたいな、小説家になれば怒られないですむなーと思って、それでプロになりました。
ありがたいことに、これまで読者の方々から様々な形で応援をいただいてきました。今はメールやツイッターがあるけど、昔はそういうのがないから、みんなすごく一生懸命にアクセスしてきてくれる。編集部に突然花が届いたり。ファンレターを読むのも大好きでした。コバルトの読者からのお手紙は、作品の感想というよりも、キャラクターがかかえる問題が自分に近いと思う人が、自分のことを書いてきてくれる。〈自分は今こうで、誰々くんが言っていたことがどう響いたか〉みたいな。コバルトで小説を書くということは、そんなふうに、若い人たちのいちばんセンシティブでナイーブなところを触ってしまう怖さがあるんです。それをずっと意識して書いていました。
小説の登場人物あてに届く手編みのマフラーやチョコレート。
バレンタインの時期には毎年、小説の登場人物あてにたくさんチョコレートをもらいました。しかもそのキャラに合った感じのチョコが100個も届いたことがあるんです。せっかくいただいたので、本のあとがきにキャラクターのもらったチョコの数を発表したり。『ハイスクール・オーラバスター』の里見十九郎、水沢諒、和泉、この3人が接戦で常に争っていました。前の年に誰かが1位をとると、次の年に他のキャラたちが頑張る。今のAKBみたいな文化に近かったです。服や手編みのマフラーとかも届いて、「三次元に生きている人」として応援してもらいましたね。
ありがたいことに、その頃からずっと私の本を読んでくださっている方々がいます。「若木さんに人生狂わされたから、こうなったらとことんついていく」なんて言っていただくことも。書き手として、最後の最後に、この人の本を読んできてよかったな、と思われたいですね。
若木未生(わかぎ・みお)●作家。1968年、埼玉生まれ。21歳でコバルト・ノベル大賞佳作入選。同年『ハイスクール・オーラバスター 天使はうまく踊れない』でデビュー。
『クロワッサン』979号より
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