【IKKOさんに聞く】手紙はひと手間かけて心を伝えるもの。 自分なりの言葉で想いを紡いで。
撮影・青木和義 文・石飛カノ
「差し入れだけを持っていくのも味気ないような気がして。一筆心添えがあったほうが美しいんじゃないかなと思っています」
贈る物に添える一筆やご挨拶の手紙、そのすべてが和紙に筆書きされたもの。1日20〜30枚、多いときには50枚書くことも。しかもご覧のような達筆ぶり。というのも書道歴は丸6年だという。
「昔は手紙を書くのは好きではありませんでした。でも汚い字でも自分で書かなければと思い、30代のとき下手な字で手紙を書いていたら、もう20代じゃないんだからきれいな字で書かないと、とある先輩に言われたんです。それで40代になって行書と草書、楷書の本で独学をしました」
その字が書道専門誌の編集長の目にとまり、本の出版をきっかけに50歳を超えて書道家に師事した。
「でも私はまだ字の形成ができないので、見本は先生に書いてもらいます。昨年くらいから簡単な一筆添えにも最初に季節の言葉を書くようになりました。それも簡潔に1月だったら“戌の年”とか。見本を先生に書いてもらってそれを毎日繰り返し書いて、だんだん自分のものにしていくようにしています」
基本を咀嚼して自分流にしていく。これは字も文章も同じこと。
「基本的な時候の挨拶や言い回しを知ることは大事。でも杓子定規に書くのではなく、季節のご挨拶や感謝の気持ちを自分なりの言葉で書くことが重要だと思います」
結びの言葉は決まって“心をこめて”。落款は“縁”。
「もともとは“愛をこめて”だったのですが、奥様がいらっしゃる方もいるので微妙かなと(笑)」
人を家に招待するときも、料理を披露するときも、手紙も、すべてはおもてなし。人を感動させてこそのおもてなしというのがポリシー。
「手紙はひと手間かけて心を伝えるもの。自分の言葉で自分の想いを伝えることが、相手との良縁に繋がると私は思います」
クロワッサン読者へのメッセージの結びの言葉は、むろんこうだ。
〈愛をこめて———IKKOより〉
IKKO(イッコー)●美容家。毎日筆をとり、2時間かけて手紙をしたためる。初の書道作品集は、2012年に発売された『IKKOの字語りエッセイ―道』(芸術新聞社)。
『クロワッサン』975号より
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