『不在』著者、彩瀬まるさんインタビュー。「孤独になっても大丈夫、と救われる気持ちに。」 | アートとカルチャー | クロワッサン オンライン
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『不在』著者、彩瀬まるさんインタビュー。「孤独になっても大丈夫、と救われる気持ちに。」

あやせ・まる●1986年生まれ。2010年「花に眩む」で、女による女のためのR-18文学賞で読者賞を受賞しデビュー。2016年『やがて海へと届く』で第38回野間文芸新人賞候補、2017年『くちなし』で第158回直木三十五賞候補などの著書が。

撮影・森山祐子

主人公は漫画家の明日香。長く疎遠だった父親の遺言で、生家の洋館を受け継ぐ。遺品整理の中で、恋人である駆け出し俳優の冬馬との関係がぎくしゃくし始めて。

「この話の発想の原点は、明日香と冬馬の関係です。今まで私が書いてきたのは、災害や理不尽な事故など、どうしようもないことから悲しみが発生する物語で、人が原因ではありません。でも、誰かが誰かを傷つけるのは、濃淡はあってもどの家庭にもある話。なので今回は、主人公が恋人につらくあたる話を書いてみたかった」

稼ぎのある明日香は、演劇に打ち込む冬馬がバイトを辞めるのに賛成し同棲。家事をいとわず気の回る彼と良い関係だったが、父親に愛されていなかった記憶が呼び戻され、冬馬の外づきあいが活発になるにつれて徐々に不安定に。しまいには、冬馬を殴りつける!

「『読み心地がホラー』という感想も。そっちに行ってはダメだというほうにどんどん進むからハラハラしますよね。この場面まで、ひたすら明日香が張り詰めていく様子を書きました。彼女が考えを大きく変えなければ、いずれはそうしたと納得できるように」

明日香が描く漫画の内容と本書のストーリーは、からみあいながら“ハッピーエンド”を探っていく。明日香は当初、漫画も現実も、恋愛して結ばれて家庭を築く、一昔前のステレオタイプのゴールを思い描いているが……。

「冬馬との仲が破綻する過程で、最も深い人間関係が恋愛と思わなくてもいいじゃないかと切り替わる。仕事上の信頼など、恋愛とは異なる、別の深度のある関係性もありますよね。そのつながりが恋愛に劣ることにはならない。そうした関係性の成就を考えるうちに、漫画の結末も、明日香と冬馬のラストの姿も見えてきました」

作中、孤独を感じる高校生に明日香は、〈周りにあなたを理解してくれる人がいなくたって、必ずこの世にはあなたに近い気持ちを持ったクリエイターがいて、漫画とか、音楽とか、演劇とか、小説とか、作ってるの。~絶対に一人にはならないよ〉と声をかける。

「私自身、学生時代に友人にも相談できない不安感を抱えていたのですが、ある小説を読んだことで、ふっと楽になって救われた経験が。この場面はそうした小説への私からの感謝でもあります。このような形で文化が個人の窮地を救うというイメージが私には強くある。自分も作家として、その役目を果たしていきたいと感じています」

KADOKAWA 1,500円

『クロワッサン』981号より

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