御囲の犬の鳴き声に体調を崩した母の静養のため、知世は小石川の剣術道場・堀内家の離れに越してきた。道場には謎の浪人・河合真之介や赤穂藩士の顔もあり、町で起こる犬絡みの事件に知世が駆り出されるうちに、江戸城では浅野内匠頭(たくみのかみ)の刃傷沙汰(にんじょうざた)が――。
「昔ながらの侍の時世から、私たちが捕物帳などで知っている新しい江戸へと歴史が動いていく時で、それを象徴しているのが赤穂四十七士の討ち入りです。現代でもそうであるように、大きな事件が起こったら、直接関係していなくてもみんなが影響を受けますね」
その瞬間を、市井に暮らす娘の目を通し、新しい角度で照らしだす。物語を彩るのは、俳諧や、一杯盛り切りの食を商うけんどん屋、四季折々に着物を縫い直して着る暮らしなど、細やかに描かれる江戸の文化や風物だ。時代小説になじみの薄い人でも楽しめる。